JICA海外協力隊の世界日記

ジャマイカよ、めざせコミュニティ防災 2016-2018

「オン・ザ・ロード」仕事に見る防災・災害対策隊員の活動

防災・災害対策という職種は活動内容が分かりにくいところがあります。

私自身も、この職種で派遣されることが決まってから、実際の活動では何をするのだろうと首をひねったものでした。

今回は、上司と一緒に外出した際の仕事を例に、防災・災害対策隊員の活動の実態を紹介します。

私の上司である教区災害コーディネーターは朝一で職場であるセント・アン教区事務所に顔を出したかと思うと、そのまま帰ってこないことが多々あります。

朝のあいさつをしたそばから、

「アイル・ビー・オン・ザ・ロード!(外で仕事して来るから!)」

と言って、意気揚々と出かけてしまうのです。

上司が何をしているのか不思議だったのですが、仕事の邪魔をするわけにもいかず、しばらくの間は理由を聞かずに黙って送り出していました。

任地にやってきてから2か月程はそんな風だったのですが、上司とコミュニケーションを取ったり、JICAジャマイカのボランティア調整員さんが働きかけてくれたりするうちに、上司が時々「オン・ザ・ロード」仕事に連れていってくれるようになりました。

例えばある日の「オン・ザ・ロード」仕事はこんな風でした。

朝一番、私が職場に到着するやいなや、

「遅い! すぐに出かけるからカメラとGPSロガーを準備しろ!」

と、上司からありがたいお言葉を頂戴します。

バタバタしながら準備を済ませて上司の車に乗り込み、何が起こったのか聞いてみると、

「昨日の大雨で道が倒木で塞がった。今からチェーンソーを拾って現場に行くから」

とのこと。

状況がよく呑み込めないまま、助手席でおとなしくしていること数分間。

車はNational Works Agency(ジャマイカ公共事業公社)の事務所に横付けされます。

程なくしてチェーンソーを抱えた屈強なジャマイカ人男性が2人現れて後部座席に乗り込みます。

屈強なジャマイカ人男性のうちの1人はパトワ語で上司と会話に花を咲かせます。

そうしているうちに車は倒木の現場に到着します。

倒木は、沿岸部と山間部の集落の中間地点で起こっていました。

日本と同じように、警察官が人の立ち入りを制限して、現場の安全を確保しています。

セント・アン教区事務所の道路管理部門の人たちは立ち入り禁止区域の内側で作業をしています。

現場は乗合タクシーの指定ルート上だったようで、塞がれた道の両側に営業中のタクシー車両が何台も待機しています。

一般車両でここまで来た人たちも立往生しており、何をするでもなく、倒木の周りを囲んでいます。

路肩に車を停めると、上司は早速車を降りて現場の安全管理をしている警察官に話しかけます。

恐らくは、現着報告と状況の確認をしたのでしょう。

一緒に現場までやってきたジャマイカ人男性は早速チェーンソーで倒木を分解し始めました。

私は倒木の写真を撮影し、GPSロガーで位置情報を記録します。

写真は後々上司が報告書を作成する時のためのものです。

GPSは将来的にハザードマップを作成することを見越して活用しています。

そうしていると、停車中のタクシーの運転手に話しかけられました。

私が教区災害コーディネーターと一緒に働いていると言うと、タクシーの運転手は心情を大いに語ってくれました。

「こんなんじゃ商売あがったりだよ! セント・アン教区事務所は何だってこんな木をほっとくんだよ!? 大雨が降れば倒れてくるのはわかってただろう!?」

非常にごもっともなご指摘でした。

「自分は技術支援をしているので、業務管理のことはわからないが、伺った意見は上司に伝えておく」

としか回答ができなかったのが歯がゆかったです。

私たちが到着してから20分程で、どうにか車1台が通過できる程度のスペースを道路上に確保することができました。

私と話した運転手もタクシーに乗り込み、颯爽と道を下って行きました。

先ほどまでの活気が嘘のように人が少なくなりました。

路面にはまだチェーンソーで削りだされた木屑が散らばっているものの、どうにか状況をひと段落させることができました。

倒木が原因で、交通事故などの二次災害が起こることがなかったのは不幸中の幸いでした。

「こんな風に、今にも倒れてきそうな木が教区中にたくさんあるんだ」

セント・アン教区事務所への帰り道、教区災害コーディネーターは私に言いました。

タクシーの運転手と話したことを、私が伝えた後のことです。

ついさっきの私と同じく、教区災害コーディネーターもどことなく歯がゆそうでした。

ヒト・モノ・カネ・情報の制約がある中で、どうにかやりくりをしながら業務を進めていることを反映しての言葉であることは明らかで、私はそれ以上何も言えませんでした。

防災・災害対策という職種で私が来たからといって、急に地域の災害が少なくなるわけではありません。

私自身がチェーンソーを借りて、大雨が降れば倒れそうな太い木を、闇雲に片っ端から切り倒すわけにもいきません。

結局のところ、同じような災害が起こった時に備えて現実的な対策を考え、提案し、それを実現するために手を動かすことしかできないのです。

歯がゆい思いをしつつも、それを続けるのがJICAボランティアとしての活動のはず。

「オン・ザ・ロード」仕事に行く度に、そんな気持ちを新たにするのでした。

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