JICA海外協力隊の世界日記

笠戸丸の風

第15話 浮世絵の見方 中編

前編が、サンパウロ在住者や、はたまた日本国内の知人からも好評だったので、それに気を良くして(笑)中編です。

まだまだネタはありまっせ~(エッヘン 笑)。

今回は、歌川広重の代表的連作ともいえる東海道五十三次(保永堂版)の中から第45番目の宿場である庄野(しょうの)です。

庄野は現在の三重県鈴鹿市になります。

副題に白雨(はくう)と付いていますが、これは夕立ちのことを意味します。

この浮世絵の舞台となった坂(峠?)が実際にあるかわかりません。

見ての通り、とある日の庄野の夕立ちの様子を描いたものです。

これは、かなり有名な浮世絵なので、皆さんもどこかで見たことがあるのではないでしょうか。

構図の説明

では、構図を説明していきましょう。

真っ先に目に入ってくるのは、吹き付ける雨の中を、坂道を上っていく3人と、下っていく2人の計5人です。

前者の3人のうち2人は、駕籠舁き(かごかき)です。

他の1人は、蓑を深く被った人。

後者の2人のうち1人は、鍬を担いだ野良仕事の帰りらしき農夫。

もう一人は、「竹のうち 五十三次」と書いた番傘を差し、脚絆(きゃはん)を付けた旅人風情の人です。

そして、この5人を挟むように、手前に風になびく植物、背後には猛烈な風に煽られる林の木々が描かれています。

既に前編(第6話)をお読みの方は、背後の林の距離感(奥行感)は感じていると思います。

右中央部に比較的はっきりと描かれている竹林(かな?)から、左上方へ目を移すと林の木々の色が、徐々に薄く描かれていますね。

この配色も、広重が距離感を表現するために用いた手法だと思います。

要するに、絵の右側から左側へ行くにつれて、色を薄くすることで距離感を出しています。

以上が、大まかな構図の説明になります。

さて問題です。

この浮世絵には何が描かれているでしょうか?

構図の解説

では、構図を詳しく見ていきましょう。

この絵の注目点は坂道の5人です。

この5人を詳しく見ていきましょう。

坂道を上がる3人の速さ

まずは駆け上がる3人について。

駕籠舁きは、エイホ~、エイホ~と担ぎ手2人が呼吸を合わせて駕籠を担いでいる様子がうかがえますね。

駕籠を覆っている布が風に煽られて、人が乗っているのが、うっすらと見えます。

駕籠舁きは、駕籠に人が乗っていて重さがあり、また2人の呼吸も合わせているため、そんなに速くは走れません。

速さとしては、歩いて上るよりはやや速い程度でしょうか。

駕籠舁きは2人ですが、2人が同じ速さのため、以後は1組と数えます。

それに対し、駕籠舁きの前にガッツリと蓑を着た人が1人走っています。

この人は、ややダッシュしてます。

なぜわかるというと駕籠舁きの2人より足が上がっています。

左足を蹴り上げていますね。

でも、上り坂なので、すごく速いというわけではない印象を受けます。

この人は、平地をダッシュして走る速さよりも、やや遅い速さで走っているという感じでしょうかね。

坂道を下る2人の速さ

では坂道を下る2人を見てみましょう。

まず、野良仕事の帰りらしき農夫。

この人は、猛ダッシュしてますね~(笑)。

向かい風のため前かがみになり、しかも下り坂のため、今にも転がって行きそうな勢いです。

はっきり見えませんが、手で笠を抑えているようにも思えます。

下り坂ということも影響して、速さとしては、すごく速いという感じです。

もう1人の旅人風情の人は、向かい風に番傘を傾けながら歩いている、言うなれば急ぎ足で歩いている感じがします。

要するに、坂を下る2人は、猛ダッシュという速さと、急ぎ足の速さということになります。

小括

以上のように5人(3人と1組)の速さを見てきました。

ここで速度の速い順に整理しますと

1位 農夫(下り)

2位 蓑の人(上り)

3位 旅人風情(下り)

4位 駕籠舁き(上り)

となります。

人によっては、旅人風情と駕籠舁きは順位が入れ替わるだろうという意見もあろうかと思いますが、ここでは各人の速さをわかりやすくするための順位とご理解ください。

このように、この浮世絵には3人と1組のそれぞれの異なった速さが描かれていると言えるでしょう。

なので、正解は「速さ」ということにはなります。

まとめ

最後に、今回の庄野と前編の浅草金竜山と速さの比較をしてみたいと思います。

浅草金竜山には、雪が降るなかを浅草寺に参拝する参拝客が描かれていたことは覚えてますよね~。

では、この参拝客の速さはどうでしょうか?

雪が積もる参道を、足が滑らないようにゆっくりと歩いている様子が感じられると思います。

その証左に、誰も足を蹴り上げて走っていませんね(笑)。

なので、金竜山は、ゆっくりと一歩一歩、転ばないように歩いていく速さが描かれています。

要するに、金竜山の浮世絵にも、「ゆっくり」という速度が描かれているわけです。

前編では、説明の都合上、距離にスポットを当てましたが、距離だけでなく速さ(ゆっくりですが)も、ちゃんと描かれています。

今回の庄野にも距離は描かれていますよね(冒頭で説明済ですよ~)。

なので、浮世絵には「距離と速さ」の両方が描かれているわけです。

もちろん、作品によって、両者の度合いは違います。

この2つのことを頭の片隅に置いて、東海道五十三次の他の宿場も見てください。

これまでの見方とは、また違った感覚で見えると思います。

それではまた

 ~笠戸丸の風を受けて~

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