JICA海外協力隊の世界日記

セントルシア便り

隊員Gのセントルシア日記_50 〜For the Sake of the Students Coming from the Future St. Lucia〜

 「未来社会を生きる子どもたちに、2025年の知識やスキルを教える」国の内外を問わず、教育に携わる皆さんが抱える大きな矛盾です。子どもたちが社会人として活躍する20年後、40年後、60年後の社会が、どうなっているかは、誰にも分かりません。特に、VUCA(Volatility 変動性・Uncertainty 不確実性・Complexity 複雑性・Ambiguity 曖昧性)の時代が到来した、と叫ばれる現代は、10年先はおろか、5年先、いえ1年先さえ見通すことのできない社会情勢となっています。気候変動、感染症、人口減少、生命倫理、所得格差、多文化共生など、社会が成熟していく途上において、解決しなければならない課題が、私たちに突きつけられているのです。2025年時点の最もホットな知識やスキルも、「子どもたちが生きる未来に通用するかどうかは全く分からない」のです。いえ、誤解を恐れることなく、もっと踏み込んで、「陳腐なものになっている可能性が高い」と言い切った方が良いのかもしれません。

 「Give a man a fish, and you feed him for a day. Teach a man to fish, and you feed him for a lifetime.」(魚を与えるのではなく、釣り方を教える)はあまりにも有名な至言です。2025年の知識やスキルを使って、「応用すること」「分析すること」「評価すること」「創造すること」「対話すること」を体験的に学ばせることが、未来社会にも通用する「釣り方を教える」ことにつながるのではないか、と私は考えています。例えば、方程式や不等式を使って、ビジネス利益を最大化する問題を考える。(応用)データをグラフに表して、情報を可視化する。(分析)生徒同士で解法をシェアし、フィードバックを交換し合う。(評価)問題解決の道筋について、プレゼンテーション資料をつくって発表する。(創作)そして、グループ活動の中で、コミュニケーションを通して、新たな気づきを得る。(対話)成功体験は、もちろん次へとつながるモチベーションを生み出します。しかし、学校で失敗しておかずに、どこで失敗しますか。教室は間違えるところなのです。失敗体験もまた、将来に生きる「魚の釣り方」を学んでいると言えるのではないでしょうか。

 セントルシア教育省は、すべての小学校に、Base Ten BlocksやNumber BalanceやFraction Tilesなどの算数教具を一斉配布しました。教員が教え込むのではなく、子どもたちが体験しながら学ぶ機会を大切にしたい、というフィロソフィーの具現化です。ところが、教育関係に従事する隊員の話を聞けば、教具が授業で使われるのは稀とのこと。また、グループ活動の中で対話をしたり、クラス全員の前で発表したりすることは、ほとんどないそうです。私は、先生たちが授業の中に子どもたちの体験を取り込もうと努力していることを知っています。しかし、残念ながら、まだ道なかばの状況です。もしかすると、「チョーク&トーク」の教育を受けてきた先生自身に、対話によって新しい気づきを得たり、仲間のフィードバックを基にブラッシュアップしたりした経験が少ないのかもしれませんね。しかし、日本でも大きく話題になりましたが、「チョーク&トーク」の授業の様子は、100年前の教室の写真となんら変わるところがありません。一様に前を向いて、教師の言葉に耳を傾けつつ、板書された内容をノートに書き写しているだけなのです。100年前と同じスタイルで、2025年の知識とスキルを与えるだけでは、未来社会を生きる人材が育つ道理はありません。

 セントルシアの第1教育事務所は、先生方をサポートするために、一斉配布された教具の様々な有効活用法を発信しつつあります。私も、日本の私立学校での経験を基に、算数教具を使って「魚の釣り方」を学ぶ授業を提案するつもりです。セントルシアの未来からやってきた留学生たちのために。

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