JICA海外協力隊の世界日記

セントルシア便り

隊員Gのセントルシア日記_88 〜Mathematics in Secondary School〜

 配属先のカレッジのセメスター・ブレイクの期間を利用して、居宅近くのセカンダリー・スクールで、奉仕活動をする機会がありました。数学の授業の中で、理解が追いつかず困っている生徒を対象に、別室で指導する活動です。どの生徒も、理解したいという気持ちがあり、私の説明に熱心に耳を傾けてくれました。セカンダリーの生徒は、カレッジの学生に比べると、純朴で人懐っこく、理解できると素直に喜んでくれます。もちろん、教える方も思わず嬉しくなってしまいますよね。

 さて、セカンダリーの先生に話を聞くと、「生徒が数学を理解する上で、難所となるのは、九九の表、正の数・負の数、式の変形、指数法則の4つ」だそうです。カレッジの先生も、「学生にとって急所となるのはAlgebra」と指摘しますから、どうやら関連がありそうです。

 セントルシアの九九の表は、十二の段まであります。12×12=144も表に載っているのです。旧宗主国であるイギリスの影響を受けていることを大きく感じる事実です。イギリスでは、1 foot=12 inchesや1 dozen=12 units など、12進法が日常生活の中で定着しています。10の約数が1、2、5、10の4つしかないのに対して、12の約数は1、2、3、4、6、12と6つもあります。12の方が割り切れる数が多く、分数計算も容易なので、日常生活において便利だと考えられているのです。しかし、十二の段まで九九の表があっても、Mental Math(暗算)ができなければ、日常生活で役に立つことはありません。プライマリー・スクールで覚えておくべき九九の表が、セカンダリー・スクールで難所になっているということは、要するに定着していないのです。市販されているノートの裏表紙に九九の表が載っていますので、ほとんどの生徒は計算するたびに、その表を参照して答えを導くのです。テストのときは、その表を見ることができないのに。

 次の難所は、正の数・負の数。日本であれば、零下の気温を例に挙げて、負の数の概念を説明します。しかし、気温が零下となる日がない熱帯セントルシアでは、負の数を実感しにくいのでしょうか。例えば

−4+5=9

という間違いがとても多いのだそうです。引き算の概念と、ネガティブ符号の概念が、混同されているのではないかと思われます。「ん? 4+5を引く? 何から?」というハテナ・マークがたくさんつきながら、苦し紛れに解答しているのではないでしょうか。

 そして、次なる難所は式の変形。Algebraの基本中の基本のテクニックです。カレッジでも、undoオペレーションとして、教えています。例えば、

2(x + 3)=8

まず、両辺を2で割り、その後、両辺から3を引いて、方程式の解x =1を得るのです。ところが、最初に両辺から3を引いてしまう間違いが少なくないようです。未知数x の抽象概念が曖昧である、または演算×を省略するという約束事を忘れているなど、さまざまな要因が考えらます。

Equation1.png

という穴埋め形式のクイズにすれば、正答率は劇的に上がることでしょう。しかし、Real-World のコンテキスト(セントルシアでは、ナンバー・ストーリーと呼ばれています。)を、未知数x を使って立式し、方程式を解く手法は、セカンダリー以降の数学の肝の中の肝です。カレッジでも、x を使って立式することを指導するのですが、何故か学生たちはx を使わずに解きたがります。

 最後の難所は、指数法則。

Equation2.png

「どうして、掛け算が足し算になるの?」というハテナ・マークがつくのでしょうね。ここでも、2乗や3乗の定義が曖昧である、文字式という抽象概念がしっかりと理解できていないなど、複数の要因が考えられます。もしかすると、平方メートルや立方メートルにしか見えていないのかもしれませんね。

 これら4つを積み残したまま、より高度な抽象概念を積み上げることは、砂上に楼閣を作るに等しい、と言わざるを得ません。しかし、年度末の到達度を評価するための試験問題を見ると、OECS(東カリブ諸国機構)の問題に準拠した当該ディスクリクト統一の問題となっているのです。具体的には、Form4(日本の中学3年生に相当)の試験時間が2時間15分もあり、2次方程式の解の公式はもちろんのこと、三角関数の正弦定理や余弦定理まで試験範囲に含まれているのです。階級社会であるイギリスのGCSE(中等教育修了資格試験)が下地になっているとは言え、驚きを隠すことができませんでした。「アカデミックな方向を目指すのか、職業訓練の方向なのか」という選択を、早い時期から迫られているような気がしてなりませんでした。日本でも昔、「上位5%のための教育」と揶揄される時代があったことが、思い起こされます。

 国民的素養のレベル・アップを図るのであれば、教育内容の「選択と集中」が急務だと思われます。折しも、アメリカのプロジェクト型の教育も耳目を集め始めました。セカンダリー・スクールの数学教育は混沌を極めているようです。大国の教育制度の影響を受ける子どもたちの姿は、悲しくさえあります。

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