JICA海外協力隊の世界日記

ベトナム便り

ベトナムの病院で「食べる」を支えるということ

 こんにちは。2025年度1次隊の森田亜由美です。私は言語聴覚士(ST)としてホーチミン市の大学病院で、主に食べることや話すことのリハビリを支援していました。

 ベトナムと聞くと、フォーなどのベトナム料理を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、それ以外にもたくさんの種類があります。ベトナムで生活してみると、想像以上に食べることが生活に強く結びついているように感じます。

 ホーチミンの病院の周りには、朝から屋台が並び、にぎやかな風景が広がっています。患者さんや家族の姿も多く見られ、食べ物を買い求めたり、朝食を摂ったりする人でにぎわっています。街中にはコンビニも多く、経口栄養剤やお粥、燕の巣などが手軽に手に入ります。病院の売店にも同じような商品が並んでいます。

 病室をのぞくと、ベッドのそばにはヨーグルトや果物、インスタントのお粥、パン、そして中には果物ナイフまで置かれていることもあり、日本の病院とは違う光景に感じます。また、燕の巣の瓶が置かれていることもよくあります。日本では高級食材のイメージがありますが、こちらでは手頃な価格の製品も多く、栄養補助食品の一つとして身近な存在のようです。

 私が活動していた病院では食事の提供もありましたが、ベトナムでは、病院によっては食事提供がなく、患者さんの食事を家族が用意することもあります。そのため、食べ物が日常の延長のような形で病院内に持ち込まれています。

 これに対して、日本では入院中の食事は病院から提供される「病院食」が基本となっており、患者さんの状態に応じて食形態が調整される仕組みが整っています。この点は、「食べることを支える方法」の違いを強く感じる部分です。

 同僚とともに、飲み込みが難しい患者さんに対して食事の評価を行うこともありますが、日本のように嚥下調整食や嚥下用ゼリーが整備されているわけではありません。そのため、評価の際には病室にあるヨーグルトやお粥、果物などを使って確認することも多くあります。場合によっては、燕の巣の飲料などを用いることもあり、「今ここにあるもの」で評価するという感覚は、日本との違いの一つだと感じています。

 また、飲み込みを助けるためのとろみ剤は存在しますが、一般に広く流通しているわけではなく、価格も高いため、誰もが日常的に使えるものではありません。

 そして、もう一つ大きく違うのが家族の存在です。ベトナムでは、多くの場合、家族が患者さんに付き添い、食事や身の回りの世話を担っています。食事の評価を行う際、必要な食べ物が手元にないときには、近くの患者さんの家族がヨーグルトや燕の巣、お粥を分けてくれることもあります。こうした助け合いの様子に、心が温かくなります。

 同じ「食べる」という行為でも、国や文化、医療体制が違えば、その支え方も大きく変わります。ベトナムの病院での経験を通して、「食べることを支える」ということの多様な形を学んでいます。

 患者さんの中には、「bánh mì(バインミー)を食べられるようになりたい」「cà phê sữa(練乳入りベトナムコーヒー)を飲めるようになりたい」といった目標を話してくれる方もいます。日常の食べ慣れたものを再び口にしたいという想いは、日本でもベトナムでも変わらないのだと感じます。このような共通点は、私の活動を支える大きなエネルギーとなっています。

 任地変更があり、現在は地方の病院で活動しています。同じベトナム国内でも、場所が変わるとまた違った風景が見えてきます。こちらでの「食べることを支える」環境についても、機会があればご報告したいと思います。

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