ジャマイカよ、めざせコミュニティ防災 2016-2018

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笹森 賢一
(愛知県)

ボランティア/職種
青年海外協力隊
防災・災害対策
派遣国
中南米
ジャマイカ セント・アン教区 セント・アンズ・ベイ
一言メッセージ
ジャマイカ北部のセント・アン教区で、コミュニティ防災(Community-Based Disaster Risk Management:CBDRM)に取り組む様子を報告します。

 

統計の向こう側のジャマイカの女性たち

2017.10.05

人 文化

ジャマイカは、ある意味で、世界のどこよりも女性が活躍している国だと言えます。

すべての管理職のうち女性の割合は59.3%(2015)で、これは世界各国で最も高い割合となっています。(※1

また、2012年に取られたデータですが、46%の家庭で女性が主たる家計支持者であるという統計もあります。(※2

一方、数字の裏付けはないものの、日常生活を送る中でシングルマザーが非常に多いように感じます。

これだけだと世間の荒波をかいくぐる強い女性像をイメージさせますが、実際のところはどうなのでしょうか?

今回は、統計の数字からは見えてこない、ジャマイカの女性たちの素顔を紹介します。

私の配属先のオフィスは都市計画部の部長さんのオフィスと共用になっていて、部長秘書の方が毎日常駐しています。

会議の議事録を作成したり、資料を検索したり、文書作成ソフトを使って公文書を作ったりと、業務時間内は忙しそうです。

ところが、休憩時間にはインターネットで面白い動画を見て、楽しそうにしています。

少し前に勤務していた秘書の方は歌が上手で、お昼の休憩時間にオーディション形式のラジオ番組に電話越しに出演しておられました。

私が配属先に来てから、既に何度か人が入れ替わっているのですが、どの秘書さんものびのびと楽しそうに働いています。

現在の部長秘書のアレンさんは、高校を卒業して1年しか経っていない、言わば新米社会人です。

配属先であるセント・アン教区事務所で働き始めてからまだ3か月も経っていません。

しかしながら、事務処理にもコミュニケーションにも長けており、仕事もきっちりこなす彼女は、既に欠かせない存在になっています。

休憩時間に、ふざけてモデルのようにポーズを取って写真を撮ったりと、遊び心にも溢れています。

そんなアレンさん、休みの日は友達と一緒に動画を製作するYouTuberとしても活動しているとのこと。

非常に多才な彼女にそれとなく聞いてみました。

「アレンさんは秘書のままじゃもったいないから、教区事務所にちゃんと雇ってもらったら?」

すると、彼女からこんな返事が返ってきました。

「実は、外国で働きたいんだ。

 私、外国で働いたら絶対成功すると思う。

 今はまだ、外国に行くためのいい方法を見つけていない。

 でも、近いうちに何とかするつもり」

本当は彼女のような、意欲と能力のある若い人にこそジャマイカに残ってもらいたいのですが、そんな人ほどより魅力的な労働市場に流出してしまうのはどこの国でも同じのようです。

アレンさんがセント・アン教区事務所で働き始めたのと同時期のこと。

配属先における私の上司が夏休みを取ったため、1ヶ月ほど代わりの方にご指導いただきました。

写真右上のラッセルさんは2歳の男の子を育てるシングルマザーで、育児休暇から職場復帰したばかり。

業務用のものと併せて、4台スマートフォンを持っていたのですが、その待ち受け画面はどれも息子さんの写真だったのが印象的でした。

以前はセント・アン教区事務所内の福祉関連の部署で働いたとのことで、災害時に特別な配慮の必要な人たちがどんな境遇に直面する可能性があるかを地域防災計画を策定中の私に丁寧に教えてくれたりと、面倒見の良い方でもありました。

「ついこの間、ジャマイカ災害準備・緊急管理局が主催した研修を終えたところだから、私いつでも教区災害コーディネーターできるよ!」

1ヶ月の間、上記のように、何度も誰彼となく無邪気かつ熱心にアピールしていたラッセルさんですが、実際に彼女はとても仕事のできる人でした。

地域住民向けの避難所運営研修を成功裏に終わらせたり、教区議会の議員さんが洪水頻発地域を視察するのをアテンドしたり、山間部の集落にある自治組織に出向いて陳情を受けたり。

フットワークも軽く、頭の回転も速いため、とても気持ち良く一緒に働ける代理上司でした。

そんなラッセルさんに、業務の合間にそれとなく話を聞いてみると、どうやら彼女は高校から大学の間、アメリカ合衆国で教育を受けていたそう。

就職時にジャマイカに帰ってきたのですが、将来的にはジャマイカ国外の大学院で修士号を取り、国際機関で働くことを希望しているとのこと。

「ジャマイカは育児休暇を取得している間の経済的な保障が少なすぎる。

 本当は国が法律を整えて子育て世帯をしっかりサポートすべき。

 でも、その実現はおぼつかない。

 この国は故郷で、大好き。

 でも、私自身と子どもの将来のことを考えたら、外国の学位が必要。

 それに、もっといい仕事を見つけないと」

ラッセルさんがそう言うのを聞いて、複雑な気持ちになりました。

シングルマザーとしての現実とさらなるキャリアアップを考えると、ジャマイカ国外に将来の展望を求めるのは十分に理解できるところです。

しかしながら、彼女のような能力のある方がジャマイカの発展には必要なのは明らかです。

私は、何とか彼女を思いとどまらせたくて、ちょっと際どい質問をしてみました。

「でも、変な意味じゃなくて、ジャマイカ国外には、ジャマイカ人の男性みたいな魅力的な男性はいないですよ?

 文化的にも、ジャマイカ人女性に対して一番理解があるのはジャマイカ人男性ですし。

 ラッセルさんはそれでも外国に行っちゃうんですか?」

すると、ラッセルさんはこう切り返してきました。

「ジャマイカ人男性は魅力的でも、子育てには何の役にも立たないよ!?

 女性を妊娠させても、全然責任取らないし。

 ちゃんと法的に結婚しないどころか、家にお金も入れないし」

子育て中のシングルマザーが言う言葉にはさすがに重みがあります。
私は何も言い返せませんでした。

ラッセルさんの回答は個人的な経験を過度に一般化したものとも言えません。

UNICEFによると、ジャマイカでは正式に結婚していない両親の元で育つ子どもの数が多いとのこと。

その上、公式・非公式を問わず、ほぼ半数の両親の婚姻関係が子どもが6歳になるまでに解消されるそうです。(3)

母親は子どものケアをしつつ、働いて家計を支える役割をすることになります。

普段はシングルマザーとして家計を支える大変さを見せず、明るく振る舞うラッセルさんですが、その裏で将来のことをシビアに考えて、ジャマイカ国外で働くことを検討していたのが印象的でした。

ラッセルさんと地域の避難所を回っている際に、セント・アン教区の地方議会で活躍している議員さんにばったり会いました。

写真右側のリチャーズ議員はセント・アン教区南東の選挙区から選出された議員さんで、首都キングストン近郊の小学校の校長先生も務めています。

また、セント・アン教区内の災害対策に関する意思決定機関である教区防災委員会の委員も務めています。

自身の選挙区には洪水を原因とする床上浸水の被害が頻発する地域が含まれていることもあり、委員会の席上ではいつも熱心な彼女。

いわゆる「議会のうるさ方」と目される一方で、何とも憎めない愛嬌があり、諸方面に細かく気が配れる方でもあります。

もう何年も議員を勤めているからか、選挙区の人はリチャーズ議員をとても信頼しているようです。

ラッセルさんと私と立ち話をしながら、横を通り過ぎていく人たちに絶え間なく声をかけ、困っていることや力になれそうなことがないか聞き出していました。

声をかけられた地域の人たちも、老若男女問わず、リチャーズ議員とにこやかに言葉を交わします。

その様子は、まるで「地域のお母さん」とでも言った風情です。

キリスト教が根付いた国では珍しくジャマイカは母系社会だという話がありますが、それを裏付けるかのような「地域のお母さん」っぷりを発揮していました。(4)

「そういえば、あなたみたいなボランティアを派遣してもらうには、どうすればいいの?」

帰り際、リチャーズ議員は私に聞いてきました。

まずはJICAジャマイカ支所に連絡してほしいという話をして、どういった面でボランティアが必要なのか、何の気なしに聞いてみました。

「私もラッセルさんみたいに、外国の人を部下に持ってみたいから」

私の質問に、全く悪気なく、愛嬌たっぷりに回答してくれました。

その横で、しみじみ頷くラッセルさん。

どうやら、外国人ボランティアは活動の内容だけではなく、その国の、その地域にいるという事実そのものを評価してもらえているようです。

まずはJICAジャマイカ支所に相談してほしい旨、返事をしましたが、どういう理由であれ「JICAボランティアに来てほしい」と言ってもらえるのは嬉しいことです。

ともすれば、日々の活動で悩みがちになってしまう私たちボランティアにとっては、励みとなる一言でした。

私は活動の関係上、比較的地元の人たちとコミュニケーションを取ることが少ないボランティアだと感じています。

それでも、日々の活動の中で目にするジャマイカ人女性の独立自尊の精神や、進取の気象、リーダーシップを目にする機会はとても多いです。

<ジャマイカの将来は女性にかかっているのかもしれない>

彼女たちを見ていると、そんな気分になってきます。

実際のところ、そう思わせる空気感が、ジャマイカを世界で一番女性が活躍する国にしている理由なのかもしれません。

参考:

※1

International Labour Organization(2015) Women in Business and Management: Gaining momentum

※2

http://www.pioj.gov.jm/Portals/0/Social_Sector/Executive%20SummaryFinal.pdf

(2017年10月2日閲覧)

※3

https://www.unicef.org/jamaica/parenting_corner.html

(2017年10月3日閲覧)

*4

http://www.devforum.jp/archives/articles/backnumber/jamaica.pdf

(2017年10月2日閲覧)