2026/05/09 Sat
隊員機関紙
ブータン隊員機関誌DRUK58 ④ 現地に来なければわからない、医療事情

こんにちは、看護師隊員の日髙香織です。今回は「現地に来なければわからない、医療事情」をテーマに綴っていきたいと思っています。
まずは、ブータンの医療体制について少しお伝えしたいと思います。国内の医療は、私の活動先でもある首都の Jigme Dorji Wangchuck National Referral Hospital(JDWNR病院)を頂点として、その下に地域中核病院、県病院、そして最も身近な医療施設であるPHC(Primary Health Centre)が続く、“ピラミッド型”の構造になっています。PHCには医師・看護師のいるグレード1と、ヘルスアシスタントのみで運営されるグレード2があり、グレード2でも基本的な診療や分娩、予防接種などが行われています。また、薬草の宝庫ともいわれるブータンでは、伝統医療も西洋医療とともに人々の健康を支えています。
医療は一部の私立診断施設を除き原則無料で提供され、患者だけでなく付き添い家族の食事も無償です。この背景には、国民総幸福量(GNH)のもとで健康が重視されていることに加え、地理的条件や医療アクセスの格差を補う必要性といった現実的な理由もあります。ちなみに、無料で医療が提供されるのはブータン国民だけでなく、ブータン在住の外国人はもちろん、旅行者に対しても同様です。
JDWNR病院
JDWNR病院併設の母子病院
東の中核:モンガル病院
伝統医療センター
では実際の現場ではどのような医療が行われているのでしょうか。私の活動先である小児集中治療室での経験からは、医療資源の制約を強く感じる場面が少なくありません。専門医の数は限られており、小児集中治療の専門医も国内では一人だけです。医療機器や薬剤は海外に依存しており、必要な治療が国内だけでは完結しないこともあります。例えば心臓血管外科は国内になく、小児の先天性心疾患などは主にインドなど国外での治療となります。海外への搬送は主に航空機で行われ、患者の状態に応じて医師や看護師が付き添うこともあります。こうした搬送は決して珍しいものではなく、私が赴任してからも1か月から1か月半に一度程度は経験しています。その頻度や体制にも驚きましたが、搬送やその後の治療費も原則無償で提供されていることには、さらに驚かされました。
JDWNR病院の診療科
JDW・中核病院の人工呼吸器
日々の診療でも制約は多く、タミフルのような日本では一般的な薬剤でも入手が難しいことがあります。また、国内でできない検査は国外依頼となり、結果に時間がかかることも少なくありません。今日は水が出ないので検査ができない、といった状況を経験することもあります。
5Sで管理 一部では在庫が不安定なことも
薬の種類も限られています
皆さんは脚気という病気をご存じでしょうか。ビタミンB1不足によって起こる病気で、日本でも明治から昭和初期にかけて社会問題となった疾患です。先進国ではほとんど見られない病気ですが、ブータンでは今もビタミンB1不足に関連した疾患がみられます。明確な脚気でなくても、栄養状態からビタミンB1不足を疑い補充を行うことは日常的にあります。西岡京治さん(ブータンで農業発展に貢献)の尽力により野菜の種類は増えていますが、主食が白米中心で栄養バランスが偏りやすい食文化も影響していると感じています。このような背景から、妊産婦や乳児には無償でマルチビタミンが配布されるなど、予防的な取り組みも行われています。
病院での食事の提供の様子。
家族が食器をもって並ぶどこか給食のような風病院食でありながらお皿いっぱいのごはんはブータンならではです!
ブータンでは仏教が生活に深く根付いており、人々の考え方や行動にも大きな影響を与えています。病院には僧侶が定期的に各病室を訪れ、祈りを捧げるほか、希望に応じて宗教的な祈りが行われることもあります。人々にとっては医療と同じくらい、あるいはそれ以上に宗教的な行為が重要な意味を持つ場合もあります。病状が許す範囲で宗教的な行為を優先することや、宗教的な考えに基づいて退院を選択する場面も経験しました。ブータンでは人は輪廻転生すると考えられており、こうした死生観の違いは治療の選択や意思決定にも影響していることを現場で強く感じています。
ブータンの病院では必ず見かける青い仏様。
薬師如来と呼ばれ、病や苦しみを癒やす仏として信仰されています。
病院の敷地内で行われたリチュアル(儀式)の様子です。
お坊さんたちが数日間にわたり、病気の回復や平穏を願って祈りを続けていました。
次回のテーマは「現地語講座①基本会話にチャレンジしよう(ゾンカ、シャショップ)」です。お楽しみに!
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