JICA海外協力隊の世界日記

コロンビア共和国便り

【地質から見るコロンビア③】ボゴタはなぜここにあるのか ― 山が決めた都市の形

ボゴタに住んでいると道に迷うことがほとんどない。
なぜなら、街のどこにいても東側にそびえる巨大な山が見え、それが街の「巨大なコンパス」になっているからである。
ボゴタの街も標高2600mと高地にあり、さらに東の山に行くと3000mを軽々と超えてくる。
職場であるIGAC(コロンビア地理統計院)の標高データを見ても、東から西へと緩やかに傾く地形がはっきりと読み取れる。

しかし、数千万年前の大昔、アンデス山脈はなく、アマゾン川は今とは逆の東から西の太平洋側に流れていたと言われている
ボゴタの今の土地ができるまでを追っていくには、アンデス山脈の成り立ちから紐解いていく必要がある。

かつて南米大陸は海の底にあり、太平洋側のプレートが南米大陸の下に潜り込み、大地が激しく隆起して「アンデス山脈」が誕生した。この巨大な壁が西への水の流れをせき止め、巨大な内海(ペバス湖と呼ばれる広大な水域)を形成したのち、最終的に水は東(大西洋側)へ溢れ出し、現在のアマゾン川の流れができた。

ボゴタがある「サバナ・デ・ボゴタ」は、このアンデス山脈が隆起する過程で、一緒に空高く持ち上げられた平らな土地である。
アンデス山脈が隆起していなければ、ボゴタは今頃アマゾンのような熱帯ジャングルで湿気と熱気に包まれていたに違いない。

この高地に持ち上げられた地形は、単に涼しい気候をもたらしただけではない。
ボゴタの周りにある山々には「パラモ」と呼ばれる世界でもアンデス北部にしか存在しない特殊な生態系が形成されている。
「パラモ」とは、およそ3000m以上の高地に広がる草原と湿地が混在した環境で、昼夜の寒暖差が大きく、常に霧や湿気に包まれている。
アマゾンやオリノコ川流域から吹き上げる湿った風は、このアンデスの巨大な壁にぶつかって深い霧や雲になる。パラモに生えているフライレホン(Frailejón)などの独特の植物や、分厚い有機物の層を持つ土壌は、その空気中の水分を直接キャッチし、大地にたっぷりと蓄える「巨大なスポンジ」の役割を果たしている。
そして蓄えられた水は時間をかけて流れ出し、川となり、最終的には都市へと供給されていく。
つまり、ボゴタの水道水の多くは、この山の上で生まれているのである。
前の記事でボゴタの足元には「水を吸ったスポンジのような湿地の土壌」があると話したが、実はこの街の頭上にも都市の命綱とも言えるもう一つの天然のスポンジが存在しているのである。

なぜ、こんな高地に巨大な都市があるのか。

その答えは、
アンデスの隆起が持ち上げた「広大で平らな大地」、
太古の湖が残した「肥沃な土壌」、
高地がもたらす「快適な気候」、
そしてパラモという天空のスポンジが保証する「豊かな水」。

都市が繁栄するためのこれらの条件が、まるでパズルのピースのように、奇跡的な確率でこの場所にすべて揃っていたからに他ならない。

しかし同時に、この地形は「制約」も与えている。
山に囲まれた盆地という構造は、空気や水の流れを滞留させやすい。
その結果、大気汚染が溜まりやすくなったり、大雨の際には水が一気に集まりやすくなることがある。
前に触れたように、この平地自体がもともと湿地であったことも重なり、現在の洪水リスクへとつながっている。

こうして見ていくと、ボゴタという都市は決して偶然に存在しているわけではない。
アンデス山脈の誕生という巨大な地球の営み、その上に形成された水の流れ、そして人間の選択。
それらすべてが重なった結果として、今の姿がある。
ボゴタに住む人々が道に迷わないための「巨大なコンパス」。それは数千万年という時間をかけてこの街の形を決定づけ、今もなお、800万人の命を潤す巨大都市の心臓として、静かに鼓動を続けているのである。

2024年2次隊 コロンビア 品質管理・生産性向上 堤大耀

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