JICA海外協力隊の世界日記

コロンビア共和国便り

【地質から見るコロンビア⑮】大地の引き算が遺した巨岩 ― メデジン・グアタペにそびえ立つマグマの芯

これまで全14回にわたってお届けしてきたコロンビア、ボゴタの地質を巡る物語を「第1章」とするならば、今回からは「第2章」となる。

私は現在、IGAC(コロンビア地理統計院)のLNS(国立土壌研究所)という場所に身を置いている。大地のデータを扱う組織にいるのだから、さぞ現地を飛び回っているのだろうと思われるかもしれないが、実は真逆だ。出張は全くなく、普段の生活はひたすら研究所のラボにこもり、コロンビア中から送られてくるサンプルと分析データ画面と向き合う日々の連続である。配属されて初めのミーティングで出張で外に出ることはほぼないと言われた時の絶望感は今でも覚えている。

しかし、せっかくこれほど広大で、圧倒的な自然の多様性に満ちたコロンビアという国にいるのに、首都の研究所にこもったまま現地のリアルな姿を知らないのは、あまりにももったいないのではないかと思った。
画面上の数値だけでは分からない大地のリアルを、自分の目で直接見て、自分の足で踏みしめ、その土地の空気を肌で感じてみたい――。

そんな衝動に突き動かされ、私は週末や休暇を利用して、コロンビア各地へと旅行するようになった。この第2章では、私が実際に歩いた旅の記録に、「ちょっと地学的な視点」を織り交ぜながら、コロンビアの大地が持つ多様な素顔をナビゲートしていきたい。

まず最初の舞台は、山々に囲まれた「常春の都市」メデジンから、さらに車やバスで東へ1時間半ほどの場所にある、緑豊かな丘陵地帯だ。のどかな風景の向こうに、突如として異様な存在感を放つ巨大な黒い影が現れる。
グアタペという場所の象徴であり、コロンビアを象徴する絶景スポットでもある巨大な一枚岩「エル・ペニョール(El Peñol)」だ。

高さ約220mで、なだらかな緑の丘が続く風景の中に、ポツンと一つだけ巨岩が突き出ているその光景は、遠目から見ても明らかに不自然で、どこか異様な雰囲気を漂わせている。
岩が近づくにつれ、異物感はそのまま圧倒的なスケール感へと変わる。真下から見上げると、それはもはや単なる岩ではなく、垂直にそびえ立つ無機質な「壁」だ。首が痛くなるほどの圧倒的な巨大さに気押されながら、岩の裂け目を縫うように設けられた階段を踏みしめ、頂上を目指して一歩ずつ上っていく。
息を切らしながら700段以上の階段を登りきると、目の前には絶景が広がっていた。
と同時に、この景観の中にポツンと存在する巨大な塊にやはり違和感を感じる。
なぜここだけにこれほど巨大な岩の塊が一つだけ取り残されたのだろうか?と。

その答えは、この岩が「作られた」のではなく、「削り残された」ことにある。

今から数千万年前の白亜紀と呼ばれる時代、このエリアの地下深くでは、煮えたぎる膨大なマグマが地表に出られないまま、何万年もかけてゆっくりと冷え固まっていた。こうしてできた巨大な花崗岩の塊を「アンティオキア底盤(Antioquia Batholith)」と呼ぶ。メデジンからグアタペにかけての広大な大地の底には、この硬い岩盤がまるで一枚岩の巨大な盾の様に眠っているのだ。
エル・ペニョールは、その地底の巨獣のほんの一部分、いわば「頭のてっぺん」が地上に突き出たものにすぎない。

かつては、この巨岩の周りにも同じだけの高さの岩や土が詰まっていた。しかし、熱帯コロンビアの激しい雨と風が、気の遠くなるような年月をかけて周囲の比較的脆い地層を容赦なく風化させ、削り落としていったのだ。

差別浸食:地層や岩石の硬さの違いによって、削られるスピードに差が出る現象。

エル・ペニョールの部分だけは、周囲よりも節理(岩石の割れ目)の発達が少なく、浸食を受けにくかったと考えられる。そのため、周囲がどんどん削られていく中で、まるで大地の「芯」のように、この一部分だけが奇跡的に削り残された。地学では、このように周囲だけが削られ、孤立して残った丘や岩を「インゼルベルグ(残丘)」と呼ぶ。
だからこそ、この景色にはどこか不思議な違和感がある。岩が丘の上に「置かれている」のではない。地下では今もアンティオキア底盤という巨大な花崗岩体とつながっており、地上に見えているのは、そのほんの一部に過ぎないのだ。

そして、岩の頂上で息を整えながら周囲を見渡すと、もう一つの驚きが待っている。
眼下に広がるのは、青い水面と緑の島々が、まるでパズルのピースをバラバラに散りばめたように、不規則に入り組んで点在する奇妙な景色だ。この湖は実は、1970年代に造られた水力発電用の人工湖(ペニョール・グアタペ貯水池)である。

地図で見ると湖岸線は驚くほど複雑に入り組んでいる。
これは、もともとこの地域が緩やかな丘陵地帯だったからだ。谷に水が満ちると、低い場所だけが湖となり、高い丘だけが島として水面に顔を出した。その結果、無数の入り江と小島が散らばる、まるでフィヨルドのような独特の景観が生まれたのである。

人間が造ったのはダムであり、この複雑な湖岸線そのものを設計したわけではない。
アンデスが何百万年もかけて刻んだ谷に水を流し込んだ結果として、現在のグアタペの絶景が誕生したのである。

つまり、この場所には2つの異なる時間が重なっている。
一方は地球が生み出した景観であり、もう一方は人間が地形を利用して生み出した景観だ。その2つが一枚の風景として溶け合っているからこそ、グアタペは世界でも類を見ない景観となっているのである。
グアタペの巨岩もまた、数千万年という地球の営みが残した「作品」の一つだった。

研究所で地図やデータを眺めているだけでは出会えなかった景色がある。
コロンビアには、そんな景色がまだ数えきれないほど残っている。

2024年度2次隊 コロンビア 品質管理・生産性向上 堤大耀

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