JICA海外協力隊の世界日記

コロンビア共和国便り

【地質から見るコロンビア⑰】空に浮かぶ青い海 ― アンデスが残したコロンビア最大の自然湖・トタ湖

第15回のグアタペでは「なだらかな丘にポツンとそびえる巨岩」に驚かされ、第16回のココラ渓谷では「寒冷な高山の霧にそびえる超高層のヤシの木」に脳がバグらされた。
コロンビアの大地が仕掛ける「不自然で奇妙な絶景」を巡る旅第3弾の舞台はボゴタから北東にバスで3~4時間。かつて先コロンブス期に先住民ムイスカの「太陽の神殿」があった聖地ソガモソ。そこを越え、さらに標高を上げていくと、標高3000mを越える場所にコロンビア最大の自然湖「トタ湖(Laguna de Tota)」が現れる。

バスを降りて冷たい風を肌で感じながら、広大な湖を見下ろすと周囲の荒々しい高山の風景におよそ不似合いな美しい白い砂浜が見えた。
「プラジャ・ブランカ(Playa Blanca)」と呼ばれるその場所は、冷たい空気さえなければまるでカリブ海のリゾートビーチの様。
気温も水温も12℃前後という寒さ、標高3000m以上の高地のため泳いでいる人は少ない。
カリブ海のサンゴ礁の海ならいざ知らず、なぜアンデスのてっぺんに、このような白い砂浜が存在するのか。この「天空の海」の謎を解く鍵もまた、東部山脈がかつて潜り抜けてきた壮大な地史の中に隠されていた。

今から数百万年前、アンデス山脈が現在の高さまで隆起していく過程で、この一帯では断層運動によって大地が沈み込み、巨大な盆地が形成された。そこへ周囲の山々から流れ込む水が集まり、やがてトタ湖の原型が生まれたのである。

その後、氷河期になると、この標高3000mを超える高原にも氷河が広がった。氷はゆっくりと谷を削り、周囲の地形を磨き上げながら、大量の砂や礫を運び続けた。そして氷河が後退した後、現在の湖岸線や湖畔の地形が形作られていった。

ではあの白い砂浜はどこから来たのだろうか。
海辺の白い砂浜の多くは、サンゴの死骸や貝殻、つまり炭酸カルシウム(石灰質)でできている。しかし、ここは海から何百kmも離れ、標高3000mまでせり上がったアンデスの山中だ。
このプラジャ・ブランカの白い砂の正体は、海洋生物の痕跡ではなく、純度の高い「石英(クォーツ)」の結晶である。

トタ湖の周囲を構成している地質は、何千万年もの昔に浅い海や河口に堆積してできた「砂岩」がベースになっている。この砂岩には、風化に極めて強い石英の粒が大量に含まれている。
石英は非常に硬く、透明感のある白色をしているため、湖畔には海辺と見間違えるほど美しい白砂が広がることになった。

長い年月をかけて周囲の山肌が雨や風に削られる中で、ほかの脆い鉱物や粘土成分は洗い流され、硬く美しい石英の粒子だけが「残り物」としてこの湾に集まった。それが波に揉まれ、気の遠くなるような時間をかけて丸められた結果、極上の白砂ビーチがここに完成したのだ。

気の遠くなるような時間をかけて作られた純白の砂浜。一方で、最大水深60mとも言われる深く冷たい湖底には、古くから人々を畏怖させてきた「トタ湖の怪物」伝説が眠っている。
かつての先住民ムイスカの神話にも登場し、近代でも「巨大な黒い影を見た」と語り継がれてきたが、その正体は「ぺス・グラソ(Pez graso:脂の魚)」や「ぺス・ルンチョ(Pez runcho)」と呼ばれるナマズの一種だと言われている。水温12度の冷たい水に適応するため、脂肪をたっぷり蓄えて巨大化したナマズの黒い影が、アンデスのネッシー伝説を生み出したのだろう。

また、氷河と断層が作り出したこの湖は、人々の暮らしにも絶大な恵みをもたらしている。湖畔の斜面を見渡すと、ボヤカ県名産の玉ねぎ畑が緑のパッチワークの様に広がっている。本来なら作物が育ちにくい寒冷地だが、巨大な湖が「天然の温度調節器」となり、適度な湿気と共にこの地に特別な微気候(マイクロ・クライメイト)を生み出している。

かつての人々がこの湖に怪物の気配を感じ、同時に神聖な場所として崇めたのも、この大いなる水が生命の源泉であることを本能的に理解していたからに違いない。

冷たい風が吹き抜ける湖畔に立ち、白い砂浜を踏みしめていると、不思議な感覚に包まれる。
アンデスの山奥に隠された、カリブ海のようなプラジャ・ブランカ。
巨大な山脈が隆起し、氷河が大地を削り、気の遠くなるような時間をかけて石英だけが磨き上げられた。
大自然が何千万年もの時間をかけて仕掛けた壮大な悪戯に、私はまたしてもすっかり魅了されていた。

2024年度2次隊 コロンビア 品質管理・生産性向上 堤大耀

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