2026/09/29 Tue
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【地質から見るコロンビア⑱】砂漠ではない砂漠 ― 雨が山に奪われた場所・タタコア砂漠
巨岩、高層ヤシの木、標高3000mに浮かぶ白い砂浜。コロンビアの大地が仕掛ける「不自然で奇妙な絶景」を巡る旅、第4弾となる今回は、緑豊かなアンデスの山間に突如として現れる異世界、「タタコア砂漠(Desierto de la Tatacoa)」へと向かう。
緑豊かなアンデス山脈を走っていると、ある瞬間、車窓の景色が一変する。
木々は姿を消し、大地は赤色や灰色に染まり、無数の谷が迷路のように刻まれている。
強い日差しの下ではサボテンが立ち並び、見渡す限り乾いた大地が続く。
まさに「砂漠」。
初めて訪れた人ならだれもがそう思うだろう。
しかし実は、この場所は地理学的には「砂漠」とは呼ばれない。
年間降水量は500~1000mmほどあり、本物の砂漠ほど乾燥しているわけではない。
本来は熱帯乾燥林(Tropical Dry Forest)と呼ばれる生態系であり、極端な乾季によって現在のような景観になったのである。
私も初めてこの景色を見たとき、砂漠というより浸食された大地だな、という印象だった。
では、なぜこれほどまで乾いているのだろうか。
タタコア砂漠に立って遠くを見ると山に囲まれているのが分かる。
実はこの場所は、アンデス山脈を構成する「中央山脈」と「東部山脈」という、2つの巨大な壁に挟まれた盆地に位置しているのだ。
両側を標高数千mの山脈にブロックされているため、太平洋やアマゾンからやってくる湿った風は遮られ、雨雲はこの谷に届く前に山に雨を降らせてしまう。雨を降らせ尽くした空気は反対側へ下るころには乾き切っている。
これを「雨陰効果」という。
つまりタタコアは、アンデスが雨を受け止めた”風下”に位置するため、乾燥した土地になったのである。
しかし、乾燥しているだけでは、タタコアの独特な景観は生まれない。
この赤茶色の迷路のような地形には、さらに数千万年に及ぶ地球の歴史が隠されている。
今から数千万年前、アンデス山脈がゆっくりと隆起を始めると、その東西には巨大な盆地が形成された。
現在マグダレナ川が流れる谷も、その一つである。
周囲の山々からは大量の砂や泥が運ばれ、この盆地には厚い堆積層が積み重なっていった。
現在タタコアで見られる地層は、そのころに作られた新生代の堆積物なのである。
当時の景色は今とは全く違っていた。
この地域には川や湿地が広がり、巨大なワニやカメ、サル、ナマケモノの祖先など、多様な動物が生息していた。
その証拠が、現在でもタタコアから数多く見つかる化石である。
今では乾き切った大地も、かつては生命にあふれる世界だった。
その後、アンデス山脈はさらに高くなり、マグダレナ川水系が発達すると雨季の激しい豪雨が柔らかい堆積層を少しずつ削り始めた。乾季にはほとんど雨が降らない。しかし雨季になると、一気に濁流となって地面を削る。
この繰り返しによって、現在の迷路のような谷が刻まれた。
このような浸食地形は「バッドランド」と呼ばれる。
タタコアには赤い砂漠(Cuzco)と灰色の砂漠(Los Hoyos)がある。
実はこの違いも地層の違いである。赤い地層は鉄分を含む堆積層が長い年月をかけて酸化したもの。一方、灰色の地層は火山灰や粘土質を多く含み、酸化の程度も異なるため全く違う色合いを見せる。
こうして生まれた乾燥した大地は、思いがけないもう一つの贈り物も与えてくれた。
それが、コロンビア屈指とも言われる美しい星空である。
年間を通して乾燥した気候の日が多く、水蒸気が少ないことに加え、大都市から遠く離れているため人工の光もほとんどない。そのため夜になると、昼間の赤い谷とは全く別の世界が広がる。天の川が空を横切り、南半球と北半球の星座が入り混じる。砂漠の中には天文台も設けられ、夜になると観測ツアーが開かれる。
もっとも、私が訪れた日はあいにくの曇り空で全く見えなかったが…。
自然が相手ではこういうこともよくあること。
数千万年前には巨大なワニやナマケモノの祖先がいた太古の湿地。それが干上がり、豪雨と風に削られてできた赤と灰色の谷底で、何光年もの彼方から届く星の光。
「砂漠ではない砂漠」タタコア。
それは、アンデス山脈が雨を奪い、干上がった太古の盆地を風雨が削り出し、最後に満天の星空を降らせることで完成した、地球の壮大なダイナミズムの結晶だった。
2024年度2次隊 コロンビア 品質管理・生産性向上 堤大耀
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