JICA海外協力隊の世界日記

コロンビア共和国便り

【地質から見るコロンビア⑳】海の上に生まれた楽園 ― サンアンドレスとプロビデンシア、サンゴ礁の島を巡る

「サンアンドレスの海は7色ある」
そんな言葉を聞いたことがある人もいるかもしれない。

コロンビア本土から北西へ約700㎞。ニカラグアの沖合にぽっかりと浮かぶサンアンドレス島とプロビデンシア島。そこには、エメラルドグリーンからターコイズブルー、そして吸い込まれるような濃い青まで、場所によって全く違う色を見せる海が広がっている。
海の綺麗さや色に驚かされたが、この同じ群島に属する2つの島なのに、その雰囲気は驚くほど違っていた。

平坦で活気あふれるサンアンドレス島では、ボートで浅瀬の「アクアリオ(Acuario)」やヤシの木が揺れる「ジョニー・ケイ(Johnny Cay)」を巡った。腰ほどの深さしかない透明な海の中を熱帯魚が泳ぎ回り、まさに海の上にポツンと浮かぶ砂の天国のようだった。

一方、小型飛行機で渡ったお隣のプロビデンシア島は、起伏に富んだ緑豊かな山々がそびえる静かな島だ。強い日差しと心地よい海風を感じながら島を1周し、地元のベテランガイドのボートに乗り込み、海にポツンと浮かぶ「カジョ・カングレホ(Cayo Cangrejo)」へ。高台から見下ろす360度の広大な海のグラデーションと、その下の透き通る水中世界でのシュノーケリングは忘れられない体験となった。

ここまで違う二つの島を実際に歩いてみると、ある疑問が浮かんでくる。
なぜ、同じサンアンドレス諸島にあり、わずか100㎞ほどしか離れていない二つの島が、これほど違った姿をしているのだろうか。

その答えの一つが「島そのものの生まれ方」にある。
プロビデンシア島が太古の海底火山の噴火によってつくられた「火山島」であるのに対し、サンアンドレス島は主にサンゴ礁が積み重なってできた「隆起サンゴ礁(石灰岩の島)」なのだ。

サンアンドレス島の大地を形作っているのは、主にサンゴ礁を起源とする石灰質の地層だ。
海の中で暮らすサンゴは、体内で作った炭酸カルシウムの骨格を残しながら、何世代にもわたって群体を広げていく。そこに貝殻など、様々な海洋生物の殻や骨格も加わり、気の遠くなるような時間をかけて巨大なサンゴ礁が形成される。
やがて海面の変化や地殻変動などによって、そのサンゴ礁の一部が海面上に姿を現す。
それが、現在のサンアンドレス島の大地を作っている。
だからサンアンドレス島は、言ってみれば「海の生き物たちがつくった島」だ。

一方、プロビデンシア島は全く違う。
島の中央部には緑に覆われた山々が連なり、海岸まで急斜面が迫っている。その起伏に富んだ地形は、サンゴ礁が積み重なってできた平坦な島とは明らかに様子が違う。
その正体はかつての火山活動によって生まれた島だ。
長い年月の間に火山そのものは姿を変え、現在では激しい噴火の面影を見ることはできない。それでも、島に残された山々や岩石は、その火山起源を物語っている。

正確に言うと、サンアンドレス周辺の島々も火山性の基盤を持つが、現在の島の姿にはサンゴ礁や石灰質堆積物の影響が強く表れている。一方、プロビデンシアでは火山起源の山地が島の骨格としてはっきり残っている。

つまり、サンアンドレス島とプロビデンシア島は、同じ海に浮かんでいても、そもそもの「大地の設計図」が違う。
そしてこの「設計図の違い」、島々の周りに広がる複雑な海底地形こそが、あの「7色の海」を生み出す最大の種明かしでもある。

実際の海の上から眺めてみると、同じ海とは思えないほど、場所によって色が変わって見える。岸近くでは淡いエメラルドグリーン、その少し先では鮮やかなターコイズブルー、そして沖へ向かうにつれて深い青へと変化していく。

この色を大きく左右しているのは海の「深さ」と「海底に何があるか」、そして太陽の光の組み合わせだ。浅い場所では白い砂のサンゴ礁が太陽光を反射し、水そのものの青と混ざることで鮮やかな青緑色に見える。一方、海が深くなるほど光は水に吸収され、私たちの目にはより濃い青として映る。

そして面白いのは、ここでも火山とサンゴ礁という、一見すると全く異なる2つの地質・生態系が共存していることだ。
太古の昔、何もない深海から突き出た海底火山の存在があったからこそ、太陽光の届く浅瀬を好むサンゴたちがそこに根を張り、巨大な礁を形作ることができた。プロビデンシア島を取り囲むバリアリーフは世界でも有数の規模を誇っている。

実際にプロビデンシアの沖の海に放り出された時、この関係がよく分かった。
船の上から見たときは、ただ美しい青い海にしか見えなかった。しかし水中へ潜った瞬間、その下に広がっていたのは、無数のサンゴと魚たちが暮らす巨大な世界だった。
暗く無骨な火山岩の土台に、色鮮やかなサンゴがびっしりと群生し、その隙間を色とりどりの熱帯魚が悠々と泳ぎぬけていく。目を見張る透明度の中で、太古の地球が噴出した岩石と、今も生きているサンゴという生命の営みが、見事な水中庭園を作り上げていたのだ。

1つの島を、地上と水中の両方から見る。
この体験を通して初めて、プロビデンシアという島が「火山でできた陸地」と「サンゴ礁がつくった海」という2つの世界が重なり合ってできていることを実感した。

同じ島でも、その生まれ方が違えば、地形も海の色も、人々の楽しみ方まで変わる。
サンアンドレスで海を眺め、プロビデンシアで山を走り、そして海に潜った。
陸と海を行ったり来たりするうちに、この2つの島がただのリゾートではなく、地球の営みそのものを体験できる場所なのだと気づかされた。

巨大な山脈がそびえ立つアンデスの高地や雨を奪われた乾いた砂漠とはまた違う、大洋の真っ只中に現れたもう一つのコロンビア。
波打ち際で刻一刻と表情を変える7色の海を眺めながら、私は地球という惑星が織りなす造形の美しさに、ただただ息をのんでいた。

2024年度2次隊 コロンビア 品質管理・生産性向上 堤大耀

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