JICA海外協力隊の世界日記

コロンビア共和国便り

【地質から見るコロンビア㉑】地球最大の森に潜る ― アマゾン、プエルト・ナリーニョの深遠へ

これまでの標高数千mあるアンデス山脈とも前回の海の上の島とは真逆とも言える場所、今回は高低差を完全に失った圧倒的な「緑と水の平原」、コロンビア最南端、アマゾンの大密林だ。

海や山ではなく、川。
白い砂浜ではなく、泥だらけのジャングル。
コロンビアのアマゾンの玄関口となるレティシアからボートで川をさかのぼること約2時間。
まったりした雰囲気が漂う小さな集落プエルト・ナリーニョにたどり着いた。
ここを拠点にして、現代文明から離れたアマゾンのジャングルの中で過ごした。

足元を泥でグチャグチャにしながらジャングルの奥深くへと進み、水面近くを泳ぐピラルク、こちらを覗くサルたち、「Mochilero」と呼ばれる奇妙な鳴き声の鳥たちに出会い、森の奥にある小屋へたどり着いた。
ナイトウォークでは暗闇の中でカエルや昆虫を探しながら、襲い来る蚊と格闘を繰り広げる。

翌日には再び川へ出て、ピンクイルカの背中を追ったり、インコやワニと触れ合って夕方にはタラポト湖(Lago Tarapoto)のほとりで夜を迎えた。
静寂の中、漆黒の水面をライトで照らし、暗闇に赤く光るワニの目を捜索し、突然船にワニを放り投げるガイドに阿鼻叫喚する一同。
帰路には、そこにいるのが見えているのに全く釣れないピラニア釣りを体験した。
2泊3日という短い間だったが濃密な旅だった。

これほどまでに生命に満ちた森を目の前にすると、なぜここに世界最大級の熱帯雨林が広がっているのか、気になってくる。
その答えを辿っていくと、やはり行きつく先はアンデス山脈だ。

はるか太古、現在のアマゾン盆地には、今とは異なる水系や巨大な湖沼・湿地が広がっていた。やがてアンデス山脈の隆起が進むと、山々から大量の土砂が運び込まれ、大地の傾斜や水系も少しずつ変化していった。そして約1000万年前、この巨大な水系はアンデスから東の大西洋へとつながる現在のアマゾン川へと姿を変えていった。

そして、激しい雨風によってアンデスの山々がガリガリと削り落とされ、その膨大な泥や鉱物、養分が大河に乗ってこの平原へと運び込まれた。現在のアマゾン川水系を流れる土砂の大部分はアンデス山脈に由来し、推定ではアマゾン川が大西洋へ運び出す浮遊土砂の約90%がアンデス起源とされている。

雨季と乾季で水位が大きく変化し、場所によっては森そのものまで水没するアマゾンの氾濫原では、生き物たちは驚くべき進化を遂げてきた。
しかし、土壌学的に見ると、アマゾンの熱帯雨林のすべてが肥沃な土壌の上に広がっているわけではない。特に長期間激しい風化を受けた陸地の土壌では、雨による浸脱によって植物が利用できる養分が少ないものも多い。

それでも森が繁栄できる大きな理由の一つが、養分の循環の速さにある。落ち葉や枯れ枝、生き物の遺骸は分解者によって分解され、放出された養分を植物が再び吸収する。栄養分が土壌に長期間蓄えられるというより、森そのものの中を何度も巡っているのである。

そのため、一度森を切り拓いてしまうと森の中で成り立っていた養分の循環は大きく乱されてしまう。特にアマゾンの古い風化土壌では、森林を失った後に土壌の肥沃度を維持することは容易ではない。一般的な作物を大規模に育て続けるには、決して恵まれた土地とは言えないのだ。

それでも、この環境に適応し、人々の命を繋いできた逞しい作物がある。
その代表が「ユカ(yuca/キャッサバ)」や「プラタノ(plátano/料理用バナナ)」だ。
特にユカは酸性で養分の少ない土壌にも比較的よく適応するため、アマゾンの伝統的な農業に欠かせない存在となっている。
中でも「ユカ・ブラバ(yuca brava)」と呼ばれる品種は、そのままでは毒性のある成分を含むため、すりおろして圧搾し、乾燥・加熱するなどの工程を経て毒性を取り除く。そうして作られる「ファリーニャ(fariña)」は、アマゾンの食卓を支える重要な主食の一つだ。

また、アマゾンでは森の一部を小規模に開きながら、複数の作物を組み合わせて育てる「チャグラ(chagra)」と呼ばれる伝統的な農耕システムも受け継がれている。
森を切り拓いて大規模な畑を作るのではなく、森と共に作物を育てる。
プエルト・ナリーニョの素朴な村を歩いていると、人々の暮らしの根底に、この圧倒的な自然のサイクルへの深い理解と敬意が息づいているのを感じる。

そして、今回の旅で改めて感じたのは、アマゾンが単なる「巨大な森」ではないということだ。
森、川、土、そしてそこに暮らす無数の生き物たち。
全てが複雑に繋がり合い、一つの巨大な生命の循環を作り上げている。
やせた土壌という厳しい条件だからこそ、植物も動物も一切の無駄を省いて命を繋ぐ。朽ちた倒木は瞬く間に微生物や昆虫に分解され、それをカエルが狙い、奇妙な声で鳴く鳥がついばみ、水辺では巨大なピラルクやワニが頂点として君臨する。私たちがナイトウォークで容赦なく襲撃されたあの蚊たちでさえも、この果てしない命のリサイクルシステムを回すための小さな歯車なのだ。

2泊3日の短い旅では、このサイクルのほんの一部しか見ることはできなかった。
それでも、泥だらけになりながら森を歩き、夜のジャングルに耳を澄まし、漆黒の湖でワニを探し、ピラニア釣りに挑戦したことで、この場所が「生きている森」であることを少しだけ実感できた気がする。

山から川へ。
川から森へ。
森から生命へ。

遠く離れたアンデスとアマゾンは、実は一本の水と大地の流れで繋がっていた。
コロンビアという国を旅していると、山も、砂漠も、島も、そしてこの巨大な熱帯雨林も、それぞれが独立した景色ではないことに気づかされる。
そのすべてを形作っているのは、途方もなく長い地球の時間と、その上で繰り返されてきた水と生命の循環なのだ。

2024年度2次隊 コロンビア 品質管理・生産性向上 堤大耀

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