JICA海外協力隊の世界日記

コロンビア共和国便り

【地質から見るコロンビア㉓】海と山の間で ― コロンビア最高峰シエラネバダを望む・サンタマルタ

カリブ海沿いの街を歩いていると、普通は海の向こうに目が向く。
青い海。
白い砂浜。
もちろんサンタマルタの魅力の一つとしてきれいな海がある。

しかし、海から振り返ると、そこにあるのは巨大な山だった。
カリブ海からわずかな距離を置いて、山々が一気に立ち上がっている。
海辺の街なのに、視線を海から陸へ向ければ、そこには深い緑に覆われた山並みが広がっていた。

その山の正体は、コロンビア最高峰を擁するシエラネバダ・デ・サンタマルタだ。
最高峰のクリストバル・コロンの標高は5700mを超える。
そして、この山の驚くべきところはその高さだけではない。
最高峰からカリブ海の海岸まで直線距離にしてわずか約40㎞。
つまり、カリブ海のほぼ海抜0mから、わずか数十㎞の間に5000mを超える標高差が生まれている。

今回の旅では、サンタマルタ市内を歩き、タガンガの急な断崖を登り、村とビーチを見渡した。旅の2日目に体調を崩してしまったが、巨大な花崗岩と豊かな自然が残るタイロナ国立公園(Parque Nacional Natural Tayrona)の「バイア・コンチャ(Bahía Concha)」へ。短いジャングルの道を抜けるとビーチが広がっていた。3日目もサンタマルタ市内と海岸沿いでのんびりと過ごしながら、遠くの巨大な山を眺めた。

今回は、この「海のすぐ後ろにあるコロンビア最高峰」を入り口に、シエラネバダ・デ・サンタマルタがどのようにして生まれ、なぜこれほど短い距離で海から5000mを超える高さまで大地が持ち上がったのかを辿ってみたい。

この景色を生み出したのは、いったいどのような地球の営みなのだろうか。
地図を見ると、シエラネバダ・デ・サンタマルタはアンデス山脈がそのまま北へ延びてきたようにも見える。しかし、地質学的に見ると、この山地はアンデスの稜線が連続したものというより、周囲を大きな断層に区切られた、独立性の高い山塊として捉えられている。
その内部に広がる岩石も、決して一種類ではない。非常に古い時代に形成された変成岩や、地下深くでマグマが冷え固まってできた花崗岩など、年代も成り立ちも異なる岩石が複雑に組み合わさっている。
タイロナ国立自然公園の海岸で目にする大きな岩も、こうした地域の長い地質史の一部だ。

つまり、シエラネバダ・デ・サンタマルタは、一つの火山が噴火を繰り返して積み上がった山ではない。大陸を構成する古い岩盤が、長い年月の間に大きな変形や移動を経験し、持ち上げられ、さらに雨や川によって削られることで、現在の姿へと近づいてきたのである。

その物語を紐解く鍵は、山のすぐ北側に広がるカリブ海にある。
現在、シエラネバダは南米プレートとカリブプレートが複雑に相互作用する地域に位置している。
地質学的な研究では、およそ6500万~5800万年前、カリブ海側の大規模な海洋性地殻が現在のコロンビア北西部に衝突したことが、山地の初期の隆起に関わったと考えられている。その後もプレート同士の相互作用や断層運動が続く、岩盤の変形と隆起が繰り返されてきた。

ただし、現在の山の高さが、いつ、どのような仕組みで生まれたのかについては、まだ完全に解明されているわけではない。シエラネバダの地形は、プレート同士の相互作用、断層運動、岩石の隆起、そして浸食が幾重にも重なった結果なのである。

ここで、もう一度その高さに注目してみたい。
海岸から最高峰までは、直線距離でわずか約40㎞。そこに、標高約5775mとされるクリストバル・コロン峰がそびえている。海面に近い場所から、これほど短い距離で巨大な高度差が生まれる地形は、世界的に見ても非常に珍しい。

そして、この急激な標高差が生み出しているのは、壮大な景色だけではない。
海岸付近には暑く乾燥したカリブ海沿岸の環境が広がり、山を登るにつれて熱帯林や雲霧林へと景色が変化していく。さらに標高を上げれば、森林限界を超えた高山特有の植生が広がり、山頂付近には熱帯地方でありながら氷河も残されている。

つまり、水平距離にすればわずか数十㎞の中に、海岸から高山までのさまざまな環境が詰め込まれているのだ。
海辺の暑さと、山頂の氷。
乾燥した海岸と、雲に覆われた森林。

そして、この山地が育んできたのは、多様な自然環境だけではない。
サンタマルタの街から山の内陸へと入ったジャングルの奥には、「シウダー・ペルディーダ(Ciudad Perdida)」、スペイン語で「失われた都市」と呼ばれる古代の遺跡がある。
紀元700年ごろから築かれたとされるこの都市は、タイロナ文化の人々が築いた重要な集落の一つだ。標高約1200mの山腹に、石造りの円形広場や階段、道、住居を載せるための段上のテラスなどが築かれている。雨水を管理する水路も整えられており、急峻な山地の環境に適応した高度な建築技術がうかがえる。
現在、遺跡はジャングルに囲まれ、たどり着くには何日もかけて山道を歩かなければならない。しかし、かつてこの山地には、こうした集落を結ぶ道が張り巡らされ、人々の暮らしと交流を支えていた。

シエラネバダは、ただ人が近づきがたい巨大な山ではなかった。標高や地形の違いに応じた暮らしが営まれ、豊かな自然とともに独自の文化が育まれてきた場所でもある。現在もこの山地には複数の先住民コミュニティが暮らし、山を精神的にも大切な存在として受け継いでいる。

そして、今回の旅で私が目にしたのは、雲に覆われた森林や緑豊かな山並みだけではなかった。
初日に訪れたタガンガの断崖から村とビーチを見渡すと、斜面にはサボテンや背の低い低木が点々と生える、乾燥した風景が広がっていた。タイロナ国立自然公園へ向かう途中に見た緑豊かなジャングルとは、ずいぶんと違う景色だ。

この違いにも、山地の複雑な地形が関係している。湿った空気が山にぶつかって上昇すると、冷やされて雲や雨を生み出す一方、地形や風向きによっては降水の少ない地域も生まれる。こうした現象の一つがタタコア砂漠の回でも登場した「雨陰効果」だ。
タガンガ周辺の乾燥を、この効果だけで説明することはできないものの、海岸線や山の起伏が風の流れや雨の降り方を変え、近い距離に異なる環境が隣り合う一因となっている。

同じ山地の周辺にありながら、ある場所には湿潤な森林が広がり、別の場所には乾いた斜面が広がる。標高だけでなく、風や雨、地形の違いが、それぞれの場所の風景を形作っているのだ。
今回、私が歩いたタガンガの断崖も、バイア・コンチャへ向かうジャングルの道も、そして遠くから眺めた雲をまとった山並みも、同じ巨大な地形のもとに生まれた景色だった。

サンタマルタの魅力は、単にカリブ海のすぐそばに高い山があることだけではない。
地球の内部で働く力が大地を持ち上げ、その大地の形が風と雨を変え、植物や生き物たちの暮らす環境まで変えている。そして、その環境の中で、人々は長い時間をかけて独自の暮らしと文化を築いてきた。

海辺で振り返ったとき、そこにあった巨大な山。
その姿の向こうには、何千万年もの地質の歴史と、わずか数十㎞の中で劇的に変わる自然、そして人々が紡いできた歴史が広がっていた。

2024年度2次隊 コロンビア 品質管理・生産性向上 堤大耀

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