JICA海外協力隊の世界日記

ミクロネシア便り

ヤップの人はなぜ口が赤い?その正体は...

ミクロネシア・ヤップに来て、最初に驚いたことの一つ。

それは、人々の口元が赤く染まっていることだった。

道を歩くと、地面にも赤い跡が残っていることがある。
初めて見た時には、「え、血…?」と驚いてしまった。

でもこれはケガでも病気でもなく、この地域で長く続いている文化的な習慣だった。

■ 正体は「ビートルナッツ」

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その正体は、「ビートルナッツ(ビンロウジ)」と呼ばれる植物の実。

ヤシの仲間の植物で、その実をそのまま食べるのではなく、いくつかの材料と一緒に口に入れて噛む。

一般的なビートルナッツの噛み方:

  • ・ビートルナッツの実を割る
  • ・サンゴを焼いて作られる石灰(ライムと呼ばれる)を少しつける⇒画像左
  • ・タバコをちぎって入れる(市販のタバコを入れる場合もあれば現地栽培のタバコの葉を使うことも)⇒画像中央
  • ・キンマの葉(コショウ科の植物)で包む⇒画像右

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それを口に入れ噛むと、唾液が赤くなり、口元や口の中も赤く染まる。
※刺激が強いので、基本的には飲み込まず、吐き出すスタイル。

そのため、道端や空き缶、ペットボトルの中などに吐き出された跡もよく見かける。

実はビートルナッツはヤップだけではなく、インドやパプアニューギニアなど、アジア〜太平洋地域の一部でも広く使われている嗜好品である。

ヤップでは栽培している人も多く、ビートルナッツの木を至る所で見かけることができる。 

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■ なぜ噛むの?

ビートルナッツは単なる嗜好品というより、「生活の一部」に近い存在だ。

理由としていくつか:

  • ・眠気覚ましになる
  • ・気分をリフレッシュできる
  • ・空腹感がまぎれる
  • ・人と分け合う文化がある(会話のきっかけにもなる)
  • ・昔から続く習慣

店でも家でも職場でも見かけるので、本当に日常に溶け込んでいる。 

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■ 実際に住んで感じたこと

ヤップで生活していると、この習慣はとても自然なものとして存在している。

周囲の大人のほとんどが使っていて、「使わない人を見つけるのが難しい」と感じるくらい。

ヤップは世界で一番ビートルナッツを使用しているエリアといえるだろう。

会話中にも普通に噛んでいるので、言葉が聞き取りにくいこともしばしば・・

また、「その前に(噛むために)ビートルナッツ作らせて」といった感じで、何かを始める前の“準備”のような存在になっているのも面白いところ。

会議中でもビートルナッツを作り噛んでいる人がいるのは、日本から見るとかなり新鮮な光景だと思う。


医療の現場から見ると…

一方で、医療の視点では少し違う見方もある。

長期間の使用によって、

  • ・口の中の粘膜への影響
  • ・歯の着色や歯ぐきのトラブル
  • ・口腔がんとの関連

などの健康リスクが知られている。

文化として根付いている一方で、健康面の課題もあるということだ。


■ 日本からの専門家の取り組み

先日、私の所属するヤップ州立病院に日本から口腔外科・口腔がんの専門家をお招きし、スタッフ向けの教育研修を開催した。

ビートルナッツと口腔がんの関連や、早期発見の重要性についての講義に加えて、歯科スタッフ向けの診断トレーニングや症例紹介も行われた。

この機会にと、ミクロネシア国内だけでなく、太平洋諸国の隊員・医療職者にもオンラインで講義の様子を配信した。

現地スタッフとのディスカッションもあり、とても実践的な学びの場になった。

ヤップ島は人口約7,000人ほどの小さな島で、専門的な教育機会は限られている。
今回のような研修は、現場にとってとても貴重な機会となった。 

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■ 文化と健康のはざまで

外から見ると、不思議に見える習慣かもしれない。

でもそこには、その土地の歴史や人のつながりがある。

文化を大切にするヤップの人々。

一方で、健康リスクがあるのも事実。

だからこそ、「やめましょう」と一方的に伝えるのではなく、
文化を理解しながら、どう健康を守るかを一緒に考えることが大切だと感じている。 

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