2026/08/07 Fri
文化 活動 観光
カロリン諸島の伝統的な航海用帆走カヌー
こんにちは!ベラウ国立博物館研究図書館に配属されている、司書の菅井と申します。
ベラウ(Belau)とはパラオ語でパラオのこと。1955年に開館したベラウ国立博物館は、ミクロネシア最古の博物館としてパラオの礎となっている民俗文化・歴史・自然などについて展示・研究し、普及・保護活動を通じてその豊かさや大切さを、国民や世界の人々と共有すべく情報を発信する基地としての役割を担っています(実際は、人員や予算の都合により遍く十分に活動できているとは言い難いですが)。
戦後アメリカの信託統治下にあったパラオは、その独立が1994年ですから、博物館は独立以前の歴史の方が圧倒的に長いです。図書館にはその経緯を示すように、戦前出版された資料、またパラオと同様信託統治下にあった、いまのミクロネシア連邦やマーシャル諸島にかかわる資料も多数所蔵されています。
さて、話を博物館に戻します。博物館内にある最も大きな展示物が、こちらアウトリガーの外洋航海用帆走カヌー(Sailing canoe、パラオ名:Kaeb)です。底面の様子まで見えるよう、また階段を昇りながら角度を変えて見ることができるよう、館内の吹き抜けに浮かんでいます。
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材料から工法まで、古来の製法によって制作されています。船体はパンノキ(Breadfruit、実は主食になる)、風を受けて外洋を航海するための帆はパンダナス(Pandenus、タコノキの仲間)の葉を編んだものです。
小さな浮きを脇に抱えたアウトリガーの形状は、船体の安定を高めるために進化した証。風上に浮きを向けることで、風や波による転覆を防ぐ重りの役割を果たします。
帆先は船首にある矢印形の留め具に挿してありますが、船尾にも同じ形の留め具があります。また、よく見ていただくと、帆は真ん中のマストに吊り下げられています。そう、方向転換する際は帆先をこの留め具から外して、帆桁(ほげた、斜め上に向かって延びる竹の棒)を持って帆を回転させ、船首と船尾を入れ替える仕組みになっているんです。この操作をシャンティング(Shunting)と言い、風を捉えながらジグザクに進みます。
古(いにしえ)の時代から、パラオの人々はこうした帆船を操り、遠く離れたフィリピンやミクロネシアの島々と交流していたことが、土器や石器から明らかになっています。
しかしこの文化は、「古の時代」に途絶えたものではありません。パラオ(一部を除く)とミクロネシア連邦の島々からなるカロリン諸島には、こうしたカヌーを用いて星や自然を道しるべに数千㎞もの長い距離を航海する技術が「いまも」残っています。ただ、交通手段の発達や貨幣経済の進展に伴う担い手不足、気候変動などにより、存亡の危機にあります。
そのため、カロリン諸島の伝統的航海術は、それに使用されるカヌーの製作と共に、2021年UNESCO無形文化遺産の緊急保護を要するリストへ記載されました。つまり、「カロリン諸島の伝統的航海術とカヌーづくり」は、「伝承が危機に曝されているので条約加盟国は積極的に保護しましょう」と世界的に呼びかけられている文化の1つとなりました。このカヌーは伝統を受け継ぎ、いまに伝える役目を果たすべく、常設展示されているということになります。
私は初めてこの力強く美しいカヌーを目にした時、あたかも風を受け、どこかへ向かっているかのようなその佇まいに息をのみました。以後、暇さえあれば様々な角度からカヌーを眺め、青い海の上や光る星の下をゆったりとカヌーが進んでゆく、そんな悠久の時の流れに想いを馳せて、活動のための英気を養うようになりました。そして、カヌーにまつわる様々なことを知るうちに、海を渡るところを見てみたいなぁ!乗ってみたいなぁ!と、思いを募らせていきました。
博物館は小高い丘の上にあり乗船体験はできません。しかし、赴任して1年の間に、このパラオで、カヌーが帆走する姿を観ることも、帆走するカヌーに乗ることも叶いました。私には、パラオに来なかったら抱くことのなかった想いや願いがたくさんあります。叶えるための努力を惜しまなければ、願いは「いつか」叶うもの。そう信じて、残りの任期を全うしたいと思います。
博物館にはほかにも、同じ大きさで帆のない(パドリングで進む)War canoe、パラオ16州のうち南西諸島に位置しそれぞれ固有の言語を持つ2州(ソンソロールとハトホベイ)のカヌーなど、ミニチュア模型も含めて全5艘のアウトリガーカヌーが展示されています。(図書館にもカヌーや航海術に関する英語の資料はありますが現時点では未整理なので、徒歩10分圏内のPCC Libraryをおすすめします!国立民族学博物館のリポジトリには日本語の研究成果も多数あがっています!)
皆さんもパラオにお越しの際は、是非ベラウ国立博物館のカヌーを観にいらしてください!(大阪の国立民族学博物館や沖縄の海洋文化館でもカロリン諸島のカヌーが展示されています。パラオまで来られない方には、そちらをおすすめします!)
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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