2025/07/16 Wed
活動
隊員Gのセントルシア日記_25 〜Boys Training Centre〜


私は今、配属先であるカレッジの夏季休業期間を利用して、ボーイズ・トレーニング・センター(BTC)というところで、週に一度奉仕活動を行っています。触法行為のあった少年や、保護の必要な少年を収容する施設です。そして、個人の尊厳を維持しつつ、教育や職業訓練や人格形成のプログラムを通して、ライフスキルの習得をサポートし、自立を支援しています。日本では、以前に教護院と呼ばれる施設がありましたが、ボーイズ・トレーニング・センターはこの教護院(現在は児童自立支援施設)に近い役割を果たしていると思われます。
私は、授業担当教員のアシスタントとして、生徒たちに計算を教えたり、英単語の綴りを教えたりしています。私にとっては初体験となる施設ですので、正直なところ、日本にいる家族には少し心配されました。しかし、生徒たちの意欲は高く、とても教え甲斐があるのです。その上、生徒たちは、感謝の気持ちをスキンシップで表してくれます。一人一人の入所の背景は知る由もありませんが、思わず情が移ってしまいます。過去には不遇に見舞われることがあったのかもしれませんが、今後は、夢と希望にあふれる、幸せな人生を歩んでほしい、と願わずにはいられません。
話は少し横道にそれますが、カリブの男たちは、いわゆるグータッチやアームタッチで、友情を確かめ合います。もちろん、女性同士も、ハグで再会を喜びあいます。おそらくは、子ども時代の家庭教育の中で、スキンシップがファミリー・バリューとして大切にされてきたのでしょう。例えば、一期一会の出会いになるかもしれない、私のようなアジア人に対しても、恩(友情)を感じれば、必ずスキンシップを申し出てくれるのですから、心理的な距離がグッと縮まります。小さな島国の中で、人々が互いに助け合って生きていくための処世術なのかもしれませんね。


ボーイズ・トレーニング・センター(BTC)は政府が運営する施設ではありますが、社会的な関心は高く、民間のサポートも充実しています。地元グロズレーのロータリークラブは、デンタルケアの支援を行ってくれています。また、私の配属先であるサー・アーサー・ルイス・コミュニティー・カレッジも、夏休み期間中を利用して、看護学科の学生を継続的に派遣し、メンタルヘルスのサポートをしてくれています。先日も、「カリビアン・エレクティブ(カリブでの選択科目)」という団体が、英国バーミンガム大学のメンタルヘルス専攻の大学生約10名を引率してBTCを訪れ、入所している生徒たちとの交流支援プログラムを展開してくれました。大学生は、一対一の対話の中で、親しみやすいアプローチによって、生徒が大切にしている価値観を引き出し、言語化させていました。そのテクニックは、よく訓練されたスキルであり、とても頼もしく感じられました。その後は、スポーツ交流です。やはり若者にとって、スポーツは文句なしに互いの友好関係を深めることのできるツールです。特に、英国とセントルシアが、今もフットボールで強く結ばれていることを実感することのできる時間が、フィールドに色濃く流れました。


ボーイズ・トレーニング・センター(BTC)の職員の中に、農業と自動車修理のインストラクターがいます。アカデミックな授業だけでなく、職業訓練のプログラムも用意されているのです。これは一般のセカンダリースクール(中等教育学校)にも共通することですが、早い時期から職業訓練の要素が導入されており、明らかに旧宗主国・英国の影響を受けている、ということができます。英国は、階級社会であり、教育制度においても、アカデミック方向に進むのか、職業訓練方向に進むのかが、はっきりと枝分かれしているのです。私たち日本人は、あまり階級社会のことを認識できていないようです。簡単に説明するならば、日本人であればベンツに乗ってコンビニにも行きますが、彼の地・英国ではそんな光景は見られず、階級によって行くお店が決まっているようなのです。
例えば、BTCの生徒に「将来はどんな職業に就きたい?」と尋ねると、「農業に従事したい!」、「警察官になりたい!」と、間髪を入れることなく、明快な答えが返ってきます。日本で同年代の青少年に同じ質問をしても、おそらくは「まだ決まっていません。」が大多数の返答であることでしょう。「英国の教育制度の影響、まさに恐るべし」と言わざるを得ませんね。実は、私の同僚であるJICAボランティアの農業教育隊員も、同じく夏休み中を利用してBTCで毎週奉仕活動(農業指導)を行っています。私の数学を学ぶ時とは全く違う、引き締まった表情で、農業に取り組む彼らの姿を見ていると、確固とした使命感のようなものさえ感じ取ることができます。20年後、30年後、大成した彼らに会いたいという気持ちを、抑えることができません。
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