JICA海外協力隊の世界日記

セントルシア便り

隊員Gのセントルシア日記_99 〜Fishing〜

 第93話で、1年目は陸、2年目は海を、私の冒険の舞台としていることを紹介しました。そして、2年目の、無人島へのオープン・ウォーター・スイミングや、世界遺産ピトン山の海底部分へのダイビングについて、お話ししてきました。今回は、カリブ海でのボトム・フィッシングに関するストーリーを、読者の皆さんに語りかけたいと思います。

 実は、私は、釣竿やリールなど、釣具一切をもちあわせていませんでした。幸運にも、帰国する先輩隊員から、譲り受けることができたのです。そして、日本では、小川での小鮒釣りや、海釣り公園でのサビキ釣りしか経験したことのなかった私を、漁船をチャーターしてのボトム・フィッシングに誘ってくれたのは、隊員仲間でした。やはり、もつべきものは、面倒見のよい先輩と、気の置けない同僚ですね。

 5オンスや6オンスの重い錘をつけて、仕掛けをボトムまで落とし込み、海底付近に生息する魚を狙います。漁船の船長は、私たちに必ず「Do you catch the bottom?」と確認してきます。中途半端な深さでは、魚がいることを保証できないのでしょうね。ボトム・フィッシングと呼ばれる所以であり、仕掛けを海底まで落とすことが、前提条件となっているのです。しかし、初心者の私にとっては、それほど簡単なスキルではありません。一度は、リールに巻かれている道糸を全て使い果たしました。そして、海底へと引っ張られる力に耐えきれず、仕掛けや道糸など全長数十メートルが、あっという間にリールを離れ、海深く消えていったのです。途方に暮れている私に、船長は、新たに道糸をリールに巻きつける方法を教えてくれました。また、仕掛けの先端に錘をつけますので、途中にサルカンと呼ばれる金具が必要になりますが、もう持ち合わせがありません。すると、船長は、道糸の結び方を工夫する代替法を、優しく教えてくれました。「ないなら、ないで、工夫する」は、私の座右の銘なのですが、やはりその道のエキスパートは、役者が違いました。そして、船長は、ボイルされた小エビを餌として使っていた私をたしなめ、「Cooked bait is not good!」「Use this one!!」と言って、生のイカの切り身を手渡してくれました。1人250ECDですので、日本円で1万5千円くらいの漁船チャーター費用がかかりましたが、十分納得できるサービスを提供してくれました。ありがとう、J船長。

 さて、私の釣果は、Red Grouper(ハタ)1尾とYellow Goatfish(アマダイ似)2尾でした。錘だけでも重いので、リールを巻き上げるのには大変苦労しましたが、手応え抜群で、気持ちよく大冒険を締めくくることができました。(翌日は、腕の筋肉痛と、日焼けに少し悩まされましたけどね。)私を含めて、JICA仲間6名でのフィッシング・ツアーでしたが、全体として、魚を保存するアイスボックス内には、上の写真のような賑わいがありました。意気揚々と、2次会の魚料理パーティーへと向かうこととなったのです。

 ところが、釣った魚を調理する前に、全ての魚の鱗を取り、内臓を除き、三枚におろして切り身を用意する必要があります。この下ごしらえがなかなか大変で、鱗を取り除く係だった私は、すっかり疲れ果ててしまいました。私を除くメンバーは、みな普段から海釣りを楽しんでおり、休日ともなれば、朝早く起きて、強い日差しの下で、長時間がまん強く釣竿を垂れます。そして、命を頂く作法についても、まるで儀式を執り行うかのように、心を乱すことなく黙々と、鱗を取り、内臓を除き、三枚におろしていました。調理についても、蒸す、揚げる、焼く、炒める、そして生食とそれぞれの魚の美味を引き出す、最良の方法が選ばれていたように思います。

 宴が始まると、船上での釣りの話に、華が咲きます。釣れた、釣れなかった、ボトムが取れた、取れなかった、餌は生イカが良かった、ルアーでは上手くいかなかった、潮の流れが速かった、など様々な話題がダイナミックに飛び交いました。大皿に盛られた魚料理はどれも個性的で味わい深く、お酒も進みました。その後、疲れ切り消耗していた私は、酔い覚ましのために屋外へ出たのですが、庭のプールサイドで前後不覚に陥り、いつしかデッキチェアで深く眠り込んでしまいました。

 居宅近くに浜辺がありますので、休日の夕方、私は気ままなショア・フィッシングを独り楽しむことがあります。もちろん、船上でのボトム・フィッシングのような、目の覚めるような釣果を上げることはできません。しかし、カリブの海に棲む生き物との出会いは尊く、心が洗われるような思いがします。どうして、そんな気持ちになれるのでしょうか。この夏、遠泳で無人島を目指したからでしょうか、水深12mの海中を魚の群れと共に泳いだからでしょうか、それとも、カリブの海底深くから釣り上げた命を頂いたからでしょうか。ここでは、小魚と出会えたご縁に感謝しつつ、キャッチ&リリースすることを常としています。

 そう言えば、2026年度1次隊の新人隊員が、魚つりに興味があると聞きました。私がセントルシアで迎える、最後の新隊員に、釣具を引き継ぎましょう。大冒険の記憶とともに。

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