JICA海外協力隊の世界日記

セントルシア便り

隊員Gのセントルシア日記_44 〜Jounnen Kweyol〜

 セントルシアは植民地時代、イギリスとフランスによる統治を入れ替わり、立ち替わり経験してきました。その結果、英語が公用語となりましたが、かつて交易言語として流通していたクレオールも、今なお、国民から愛され続けています。セントルシアのクレオールはフランス語系です。「Bonjou」や「Bonswe」や「Mesi」など、フランス語の響きに似たあいさつが、市井に飛び交っているのです。「Jounnen」もフランス語の「Journee」から来ていますので、「Jounnen Kweyol 」は「クレオールの日」という意味になります。1980年代にクレオール遺産月間(10月)とクレオールの日(10月の最終日曜日)が制度化されて、今では島内の各地のコミュニティーで、クレオール文化を自分たちの誇りとして祝う集いが、盛大に催されるようになりました。しかし、過去には受難の時代もあったようです。まず、英語が公用語となった段階で、クレオール語は口語として家族や仲間の間だけで使われるようになりました。また、学習言語ではありませんので、若い世代のクレオール離れが徐々に進行していったのです。すると、「クレオール=田舎」という社会的な位置づけが自ずと定着し、話すことが恥ずかしいとさえ感じる人々が現れるようになりました。そして、インターネットなど、高度情報化社会の到来が拍車をかけることになります。英語を用いて手にすることのできる情報量は、余りにも豊富で、人々の心を満たしたのです。ところが、クレオール文化が衰退の道を辿る時代背景の中で、徐々に「このままでは、いけない。」と自省する思いが、人々の中に芽生え始めました。そして、文化復興の動きがつくられ、クレオール文化を祝う機会の制度化へと結びついていったのです。誤解を恐れず、私なりの言葉で表現するならば、セントルシア国民は、クレオール文化を自らのアイデンティティーとして共存する道を選択したのです。

 クレオールの日だけではなく、クレオール遺産月間である10月には様々なイベントが繰り広げられました。おかげさまで、私も、様々な形でクレオール文化を体感することができました。中でも、私が印象深く感じたのは、クレオール料理です。奴隷制度の時代に、白人が食べない部位を、祖先たちは工夫を凝らして利用し、自分たちの料理を作り上げたのだそうです。私は、先人の苦労が染み込んでいるソウルフードにとても関心がありましたので、この季節、特に積極的にチャレンジしてみることにしました。まずは、牛の第二の胃を使ったTripe Soup。そして、文字通り豚の尻尾を調理したPig-Tail Bouillon。また、牛や豚の血を使ったBlack Puddingなど。祖先の苦悩を思い浮かべながらも、本当に美味しく頂くことができました。しかし、私を悲劇が襲いました。それまでは、日本のモツ料理を食べても、全く問題ありませんでした。Tripe Soup に使われている臓物も、蜂の巣のように見えましたので、日本でも食したことがありました。ところが、とても美味しかったにも関わらず、翌朝くだり龍が私を襲ったのです。おそらくは、祖先も体験したであろう大惨事を、図らずも私は追体験することになったのです。

 もう一つ、私が感服したのは、マドラス・チェックです。その名の通り、インドのマドラス(現チェンナイ)に由来する生地です。植民地支配の時代に、インドの見習い労働者によってカリブに持ち込まれました。そして、奴隷解放後、セントルシアの黒人女性たちは、ヨーロッパ人女性のドレスを真似つつも、マドラス布を使って独自の衣装を作り上げようとしました。やがては、民族衣装として、結婚式やお祭で着用されるようになります。そして、今やマドラス生地は、国民衣装の公式布地として認定されています。国旗や国章と肩を並べる、セントルシアのもう一つのシンボルとなっているのです。

 クレオールの日、各地のコミュニティーで開催されるお祭りに、人々は家族や仲間達と共にやってきます。全員がお揃いのマドラス・チェックの衣装を身に纏っている家族もあります。とても微笑ましい光景です。鮮やかな色彩が強い太陽に見事に映える一方で、通気性の良い生地でもありますので、観ていて、とても爽やかな気分になります。中には、西アフリカ由来のデザインの衣装を着用しているルシアンも数多くいます。西アフリカやインドの文化と融合し、成熟への道を歩むクレオール文化。Jounnen Kweyolは、誇らしげにアイデンティティーを祝福するお祭りなのです。

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