JICA海外協力隊の世界日記

南アフリカ共和国便り

『木を見て森を見ず』で良い

持続可能な教育支援

 こんにちは、南アフリカ共和国北東部リンポポ州、マイジャネ小学校に派遣されている宮城尚貴です。自分はここで、小学7年生に算数を教えています。

 学校の規模としては、児童数720人程度。7年生は120人くらいいて、教室は2つです。つまり、授業では60人くらいを一斉に教えています。

 この地域の算数教育における課題や原因については自分なりに特定できたのですが、全て語ると論文1本書けてしまいます。頑張ってシンプルに表現すると、『教育局から求められる水準および教科書等の教材の内容が、現場の子どもたちの実際の学力とミスマッチを起こしている』という問題がありました。例えば、教科書には『345×654を筆算で求めなさい』や『この三角形の面積を求めなさい』とあるのに、教室の7年生たちは九九や割り算がまだわかっていないのです。そういう状況の子どもたちを教えるにも、ちょうど良いレベルの教科書はありませんし、参考書などを買うとなるとかなりの金額になってしまいます。

 ならばどうするか。欲しい教材がないときにどうするかによって、教育者の個性が出ると思います。

・ないならないなりに上手いことやる

・自分で0から作ってしまう

・全く別の方向性に舵を切る

大体この3タイプでしょうか。

自分は、自分で作ってしまうタイプでした。

『Miyagi’s Math Book』という名で、必要な学習内容の教科書を作りました。子どもたちの理解度や苦手なポイントを汲み取りつつ、概念説明、解き方のステップ、例題、解説、チャレンジ問題、全て入れこみました。南アフリカで最も親切な教科書になった自信があります。かけ算、割り算、図形、角度、面積、分数、小数、百分率...この辺りの単元はカバーしておきました。コツコツ作っていたら、気付いたときには合計で200ページくらいになっていました。

 これを使って自習して、理解できてしまえば、学期ごとのテストは軽く合格できるようになっています。あわよくばリンポポ州の自治体が著作権でも買い取ってくれないかと期待したのですが、そういうラッキーは起こらなかったです。これを受け取って喜んでいる子どもたちの表情で手を打ちましょう。

 現地の教員たちが印刷して子どもに提供さえしてくれれば、自分が去った後もこの教科書たちが自分の代わりに子どもたちに算数を教えてくれることでしょう。自分がいなくなった後の影響の持続性という面を考えると、これは良いアイデアだったかもしれません。

『木を見て森を見ず』で良い

 結果として、算数に対してのモチベーションのある子や、もともとある程度の理解があった子は、このMiyagi’s Math Bookでメキメキと成長していきました。しかしながら、算数に対するモチベーションが皆無な子、そもそも英語が読めない子も多数います。苦労して作ったこの教材は、そういう子たちにとって役に立っているとは言えません。

 日々の授業も、細かい確認や解説を入れて、与えられた時間のギリギリまで丁寧にやっていますが、それでも何もわからない子がたくさんいます。自分が算数を受け持ったことで、学力が少しでも向上した子は甘く見積もって40%、自分が狙っていたレベルまでと考えると5%もいっていません。つまり、ごく一部を除き、赴任前に想像していたほどには子どもたちの学力向上に貢献することは出来なかったわけです。

 しかし、活動の終盤を迎えた今、それが失敗だったとは思いません。1人の日本人が突然南アフリカの村にやってきて、1年や2年で学年全ての子の学力をガッツリ向上させられるはずだと考えるのは、さすがに思い上がりです。南アフリカに限らず日本を見ても、社会でも学校でも、全体を大きく変えるというのは非常に大きなエネルギーが必要です。どんな形でも1度完成してしまった組織は、変化を拒み今の形を保とうとする性質があります。それは学校の教室も同じです。大きなものを変化させようとするのは、1人の隊員にはもともと極めて難しいことです。

 しかし、自分がここで活動したことで、算数学習に対してモチベーションが上がった子、自分で問題が解けるという体験をした子、筆算が得意になった子...そういう一人ひとりの変化は、少しですが確かにありました。そういう小さな変化に達成感を感じていくことが、海外協力隊として折れないコツかもしれません。

 (上の写真は、卒業後にも私の家に毎日算数を習いにやってきた子と、空き時間に自ら進んで私の控室にやってきて問題を受け取り、友達と協力し合い解いていく子たちの様子です)

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