JICA海外協力隊の世界日記

タイ便り

【古都チェンマイ便り】〜#6 タイ語学習について〜

◾️職種:食品加工
◾️配属先:チェンマイ畜産物研究開発センター
◾️名前:池﨑篤史

タイ語学習について

帰国もせまり活動も落ち着いてきました。
これまでにタイ語をどうやって勉強したのか聞かれることも多かったので、少し語学学習について考えてみました。
私は派遣前訓練で初めてタイ語の学習を始めました。
そして2年間の活動でタイ語学習に1番力を入れてきました。
でも私は昔からいわゆる「勉強」という作業が楽しくなくて嫌いでした。

首都での語学訓練を終えて任地に配属される日、到着した日の夕方、職員の皆さんがレストランで歓迎会を開いてくれました。その時、皆さんがタイ語で楽しそうに話しているのを見て、初めてのタイ語だけの環境にとても不安になりました。何を言っているかわからない。やっと質問がわかってもせいぜい3つの単語を並べて返すのが精一杯でした。

その後の日々も、話が好きなタイ人はたくさん話しかけてくれますが会話のキャッチボールも1往復できれば良い方です。せっかく話しかけてくれたのにうまく会話ができずに苦笑いで去って行く、そんな同僚達の後ろ姿を見てとても申し訳なくなる毎日でした。

語学学習はモチベーションを維持できる方法が大事

とにかく何を言っているかわからないのは寂しいし、答えられないのが申し訳ない!そんな日々からタイ語習得を1番重要なミッションとして磨き始めました。
しかし、これまで真面目に勉強をしてこなかったので、どうやったらいいのか全然わかりません。

やる気だけはあり、早めに先生を見つけて週に1時間オンラインレッスンを受けていたので、はじめはその宿題をこなすのみでした。しかし、ここで「やる気」が学習効率を上げてくれました。宿題の作業には興味や注意が払われ、出会った単語と関連単語は明日使ってみよう!とすぐに覚えて、次の日には必ず使うようにしていました。

それでも机に向かう勉強は好きじゃなかったので作業的な勉強は最小限にして、さらに昔から家での勉強がどうしてもできなかったので、それも早めに諦めました。勉強はカフェでやることにしました。学習が苦にならないためにも、どうしてもできないことに抗うのはやめて、他にもやり方があるものは早めに切り替えました。そうしてモチベーションを維持するのも、長期戦になる語学学習には必要だと思います。

しかし、諦めてばかりではダメですね。主な学習行動といえば、町の看板やレストランのメニュー、職場の書類などとにかく目についたタイ語は全て調べてすぐに使ってみる。これに多くの時間と労力を使いました。使ってみるにも文を作る必要があるので、頭の中では常にタイ語で何かを考えています。できた文を使って会話ができれば「覚えた言葉」が「使える言葉」になり、この繰り返しで語彙や表現を増やしていきました。

1年ぐらいが過ぎたある日同僚から聞かれました。
「考える時はタイ語?日本語?」

そんなこと考えたことはありませんでした。でもよく考えると、10語以下程度で〈主語+動詞+目的語〉の基本文法から大きく外れないものはタイ語で考えて話せていました。
それ以上になると〈タイ語で聞いて理解する→日本語で答えを考える→タイ語に翻訳→タイ語で話す〉こうなっていることに気づきました。

それからタイ語脳を作るために、単語を「訳」ではなく「イメージ」で捉えるように意識し始めました。

例えば「ประมาท(プラマート)=油断する」という単語
「ประมาท=油断する」
「ประมาท=うっかり注意や集中を怠る感じ」
と、単語を辞書の訳のままではなく、自分が既に持っている言葉のイメージと直接結びつけて記憶するイメージです。

少しずつですが翻訳を介さず会話ができた時の方がコミュニケーションがスムーズにいく、という実感があり、学習効率にも加速度が付いたような気がします。コミュニケーションがスムーズになり、自分の意見や気持ちをタイ語で自由に表現できるようになってくると学習そのものも楽しくなっていきます。

語学学習の難しいところは持続できるかどうかですね。私にとってのモチベーションは優しい同僚達や素直で真面目なインターンの学生達と色んな話をして色んなことを共有したいという気持ちでした。これが学習意欲のスイッチを常にONにしてくれていました。

常に現地で現地語を使用している隊員にとって、学習意欲を常に高く維持することは難しいことではないと思います。常に少しでも上手くなりたいと思っていれば、身の回りの全てから学ぶことができる環境にいます。

言葉の価値

言語が大事だと思っていた理由は、コミュニケーションツールとしての機能以外にもう1つあります。
それは「言語は価値観そのもの」ではないかと思っていたからです。
例えば、タイ語には一般的な〈美味しい〉に相当する「อร่อย(アローイ)」という言葉があります。
一方で、特定の状況でのみ使用される「นัว(ヌア)」という言葉もあります。
辞書での意味は〈(味の調和が取れて)美味しい〉となります。
前者とは別で味の良さを表現する言葉としてたまに使っているのを聞きます。
美味しいが美味しいでしかない日本人にとってこの言葉を解釈するのはかなり難しいです。いろんな人に意味を聞くとやはり「นัว(ヌア)」は味の様々な構成要素の調和が見事に取れた時に使用し、果物等の素材ではなく調味された料理にのみ使用されるようです。
つまりタイ人は食べ物を単に「美味しい」に留まらない捉え方をしていることに気づきました。
言葉はその土地の文化や使用者のアイデンティティを反映し、その言語でしか捉えられない世界があるのだと思います。

隊員の活動においてもタイ語力があったから実現したことや、頂いた機会、関わることができた活動がたくさんありました。現地語の習得が隊員活動を充実させてくれることも実感してきました。
知れば知るほどタイ語の難しさは増しますが、同時にタイ人と同じ気持ちを共有して対等にコミュニケーションが取れる楽しさも増します。
私がタイ語学習から得たのはただ情報を交換する手段以上のものであり、新しい視点を得て自分自身のアイデンティティさえも見直すきっかけです。

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