JICA海外協力隊の世界日記

チュニジア便り

【天色日記】魂のいちばんおいしいところ

20代のアテトーゼ型脳性麻痺の男性は、配属先の普通型車いすを借りて使っています。ホテルやデパートなど、公共施設に置かれている一般的な車いすです。そのままではずり落ちてしまうため、転落防止用にウレタン素材を削って作ったクッションを置いています。彼はこの車いすで仰け反るように体を突っ張らせて地面を蹴り、後ろ向きで施設内を移動しています。

もし日本であれば、この移動方法は転倒転落のリスク、あるいは他者への接触リスクがあるとして止めさせられるでしょう。そもそも彼がこの方法に至る以前に、彼の身体に合ったより良い車いすが提供され、当たり前のように移動は介助されていると思います。

でも、ここではありなのです。配属先に彼に合う車いすはないし、新たに購入するという手段は望むべくもない。人が環境に適応するしかない状況で、彼は日本のアテトーゼ型脳性麻痺の方々ができない移動手段を獲得している。彼は平地の屋内であれば、自分の行きたいところへ行けるのです。

彼は去年から、特殊な機器を使って頭の動きでスマートフォンを操作する練習をしています。練習を始めるにあたって不安材料のひとつだったのは彼の車いすと姿勢。アテトーゼ型脳性麻痺は、不随意運動といって身体が意図せず動いてしまい、運動のコントロールができません。この不随意運動は精神的な高揚にも影響を受けるため、彼が「やりたい」と一生懸命になるほど、身体が激しく揺れ動いてしまいます。体に適合した車いすであれば、ある程度 不随意運動を抑制することが可能です。けれどもここでは彼の姿勢を整えるにも限度がある。彼がどこまでこの操作方法を習得できるかは、このとき未知数でした。

彼は今、Facebookで好きなページを探して見ることができます。Messengerで家族にスタンプを送ることができます。カメラアプリをたちあげて写真を撮ることができます。お母さんはそれを見て涙を流していました。

日本であれば彼と同様の障害があってもタブレットと専用アプリを購入して、もっと楽に使うことができます。けれどもチュニジアでは安易に新しい道具を入手することは叶わないし、持続可能な手段ではありません。だから彼は日本より困難な条件下で練習を続け、結果としてより高度な操作方法を習得しました。

人が自らを育てる力、それはときにままならない環境であるからこそ、より大きく育つのかもしれません。

読んでくださってありがとうございます。

Besleema , nHaarek ziin (ベスレーマ、ンハーレックジーン) 

           またお会いしましょう。あなたの一日が素晴らしいものでありますように

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