JICA海外協力隊の世界日記

ウズベキスタン便り

ウズベキスタンの偉人たち


執筆:菅谷 祥生(JICA海外協力隊2024年度1次隊/日本語教育)


みなさんは、「ウズベキスタンの歴史上の人物」と聞いて誰を思い浮かべますか?


恥ずかしながら、私はこの国への派遣が決まるまで、アミール・ティムールの名前しか知りませんでした。 しかし、実際に赴任してみると、多くの偉人の名が地名、通り、学校、公園、そして現代の人々の名前にまで深く刻まれ、今も日々の暮らしの中に息づいていることに驚かされました。 サマルカンドやブハラ、ヒヴァといった世界遺産を巡るだけでも、自ずとその名を目にすることになるでしょう。


一般的なガイドブックで紹介されるのは、アミール・ティムールやウルグ・ベクといった限られた人物に留まります。しかし、実のところこのウズベキスタンから、天文学、科学、医学、数学、文学など、多岐にわたる分野で世界的に名を馳せた偉人を数多く輩出しています。 例えば、現代のIT社会を支える「アルゴリズム」の語源はホラズム出身の数学者アル・フワーリズミであり、世界遺産タージ・マハルを建築したインドのムガル帝国の建国者バーブルはアンディジャン出身です。


また、ウズベキスタンの人々は、自国の歴史に対して深い誇りを持っています。 大学入試では専門を問わず、数学や言語(ウズベク語、カラカルパク語、ロシア語)と並んで自国の歴史の三科目が必須科目となっており、人物の著作内容を深く理解していなければ解けないような難問も出題されるそうです。


今回、現地の友人や教え子たちからのヒアリングを通じて誰もが認める「11名の偉人」を厳選しました。 日本を訪れた外国人が徳川家康や聖徳太子を知っていたら我々が親近感を覚えるように、この国の偉人を知ることは現地の人々の心に触れ、信頼を築くための第一歩になるはずです。

①生没年 ②出身地 ③人物像・偉業
④筆者の個人的見解で、日本の歴史上の人物に例えると
1. アミール・ティムール (Amir Temur) ・・・ティムール朝建国者、国家の象徴
① 1336年 - 1405年
② シャフリサブス
③ ウズベキスタンの国家アイデンティティを象徴する英雄。西はトルコ、東は新疆ウイグル、北はロシア南部、南はインド北部に及ぶ巨大帝国を一代で築く。彼の偉大さは、破壊的な征服活動だけでなく文化の隆盛を導いた点にあり、征服地から建築家、芸術家、学者を首都サマルカンドへと連れ帰り、この街を「世界で最も美しい宝石」へと変貌させた。「ビービー・ハヌム・モスク」などに見
られる鮮やかな青色のタイル(サマルカンド・ブルー)は、彼の権威と美意識の象徴。また、シルクロードの交易を安定させることで東西文化の交流を促進し、文化の黄金時代を築く。
④ 織田信長+豊臣秀吉+徳川家康

2. アリシェル・ナボイ (Alisher Navoi) ・・・詩人、文学者、政治家
① 1441年 - 1501年
② ヘラート(現アフガニスタン、当時ティムール朝の領土)
③ ナボイ国立劇場の名にも冠される国民的文化人。政治家でありながら、詩人・哲学者としても活躍。当時はペルシャ語が支配階級や教養人の主流だったが、母語であるチャガタイ語(テュルク語:現在のウズベク語の祖)で高度な文学作品を執筆し、その表現力を極限まで高めてウズベク文学の基礎を築く。彼の詩は現在も多くのウズベク人の心の拠り所。
④ 紫式部、松尾芭蕉


3. ウルグ・ベク (Ulugh Beg) ・・・天文学者、数学者、政治家
① 1394年 - 1449年
② ソルターニーイェ(現イラン・当時ティムール朝の領土)
③ アミール・ティムールの孫で、サマルカンドに当時世界最大の天文台を建設。当時としては驚異的な1,018の恒星を記録した天文表を完成。彼の計算した1年の長さは、現代の計測値とわずか25秒しか違わないほどの高精度で、コペルニクス等の欧州の天文学者にも多大な影響。サマルカンドの「ウルグベクメドレセ」の建設など教育の普及にも尽力。
④ 渋川春海、伊能忠敬

4. イブン・スィーナー (Ibn Sina) ・・・医学者、科学者
① 980年 - 1037年
② ブハラ近郊
③ 西洋では「アビケンナ」の名で知られ、「医学の王」として多くの医学者から崇拝される。主著『医学典範』は、感染性や検疫、精神医学の重要性を説き、17世紀頃までヨーロッパ医学界では最も権威ある医学書の一つ。近代医学の発展に大きな影響を与えた世界の医学史に欠かせない人物。
④ 杉田玄白、華岡青州、北里柴三郎

5. イマーム・アル・ブハーリー (Imam al-Bukhari) ・・・イスラム学者
① 810年 - 870年
② ブハラ
③ 預言者ムハンマドの言行録(ハディース)を厳格に検証・編纂したイスラム学者。数十万もの伝承を調査し、極めて厳格な検証を経て編纂した『サヒーフ・アル・ブハーリー』は、イスラム教において最も権威あるハディーズ集とされ、クルアーンに次ぐ重要な書物。現代においても世界中のムスリムの信仰や生活規範に大きな影響を与えている。サマルカンドに廟があり、イスラムの重要な聖
地の一つ。※宗教家のため銅像は建立されないとのこと。
④ 最澄、空海


6. ザヒリディン・ムハンマド・バーブル (Z.M.Babur) ・・・ムガル帝国建国者
① 1483年 - 1530年
② アンディジャン
③ ティムールの子孫で、父の後を継いで領主となるも周囲との勢力争いに敗れ故郷を追われる。その後アフガニスタンを拠点に勢力を拡大し、北インドを制圧してムガル帝国を建国。軍事力として火器を効果的に活用したことで知られる。また、『バーブル・ナーマ』という自伝を残し、自身の弱さや感情を赤裸々に綴った文学作品として世界的に高く評価。
④ 源頼朝、足利尊氏


7. アル・フワーリズミ (Al-Khwarizmi) ・・・数学者、天文学者
① 780年頃 - 850年頃
② ホラズム
③ 彼の名が「アルゴリズム」の語源となり、著書が「代数学(Algebra)」の語源となるなど、現代のIT・コンピュータ社会の数学的根幹を作った数学者。最大の功績は、代数学(アルジェブラ)の体系化で、方程式の解法を整理し、未知数を用いた計算方法を確立。インドの数字体系(0〜9)を世界に広めるなど、近代数学の基礎を築く。
④ 関孝和


8. アル・ビルニ (Al-Biruni) ・・科学者
① 973年 - 1048年
② ホラズム
③ 地球の半径をわずか1%未満の誤差で算出し、地動説やアメリカ大陸の存在を理論的に予測した中世イスラム世界を代表する「実証的科学者」の一人。地球の大きさをかなり高い精度で計算したことが特に有名で、山の高さと地平線の角度から地球半径を求める方法を考案。また、異なる文化や宗教を客観的に記録した『インド誌』は、外部の文化を客観的に記述した初期の民族誌としても評価。
④ 平賀源内、南方熊楠

9. ジャロリディン・マングベルディ (Jaloliddin Manguberdi) ・・・軍人、政治家
① 1199年 - 1231年
② ホラズム
③ ホラズム・シャー朝の最後の君主であり、モンゴル帝国の侵攻に中央及び西アジア各地で最後まで抵抗したウズベキスタンの英雄の一人。その武勇はチンギス・ハンからも「彼のような息子を持つべきだ」と称賛。インダス川の戦いでは、圧倒的なモンゴル軍に対して勇敢に戦い、川を馬で渡って脱出した逸話は勇気の象徴として語り継がれる。トルコでクルド人により殺害。
④ 楠木正成、真田幸村、土方歳三

10. アル・フラガーニー (Ahmad al-Farghani) ・・・天文学者、数学者
① 798年頃 - 861年
② フェルガナ
③ 天文学書の執筆で、プトレマイオスの天動説を整理し、惑星や天体の動きについて体系的にまとめ、後に中世ヨーロッパの天文学教育に大きな影響。また、天文学の知識を土木技術に活かし、エジプトに洪水を予測する水位計「ニロメーター」を建設して農業の安定に寄与。彼の科学的知見は、後にコロンブスの航海計画にも影響。アッバース朝の学問発展に大きく貢献。
④ 二宮尊徳、伊能忠敬

11. ノディラ・ベギム (Nodirabegim) ・・・王妃、詩人
① 1792年 - 1842年
② アンディジャン
③ コーカンド・ハン国の王妃であり、詩人。本名はマフラル・アイムで、号として「ノディラ・ベギム」を名乗る。文学・文化を保護して文化の発展に貢献、自身もペルシア語とチャガタイ語で多くの詩を残す。その作品は愛、人生の無常、女性の感情や知性を繊細に表現しており、中央アジア文学史において高く評価。夫の死後は、息子ムハンマド・アリ・ハンを支えるもブハラ・アミール国の侵攻によって捕らえられ処刑。
④ 持統天皇、藤原定子、北条政子

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アミール・ティムール(タシケントにて撮影)

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アミール・ティムール(サマルカンドにて撮影)

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アリシェール・ナボイ(タシケントにて撮影)

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アリシェール・ナボイ(タシケントにて撮影)

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ミルゾ・ウルグベグ(タシケントにて撮影)

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ミルゾ・ウルグベグ(サマルカンドにて撮影)

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イブン・スイナー(タシケントにて撮影)

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ムハンマド・バーブル(ナマンガンにて撮影)

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ムハンマド・バーブル(タシケントにて撮影)

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アル・フワーリズミ

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アル・ビルニ(タシケントにて撮影)

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ジャロリディン・マングベルディ(ウルゲンチにて撮影(車中から)

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アル・フラガーニー(フェルガナにて撮影)

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