2018/10/02 Tue
活動
病院の省エネルギー
着任後4か月ほど経ってから、この病院の高い電気代を何とか安く出来ないか、調べてほしいとの要請がありました。この要請を受けて、部門ごとの電気使用量の状況を1か月かけて調査をしました。実は、着任後すぐに病院全体の電気使用量を、土日曜日を除いてほぼ毎日記録していました。日本では、自動的に記録を取ることが出来るところも多いのですが、ここではメーターからの読み取りです。このデーターの蓄積もあり、病院から省エネ診断の要請があっても、比較的早く報告書を提出することが出来ました。
その内容の概要について少し説明したいと思いますが、このようなことが出来るのはJICAとして病院に派遣されたことにより出来ることであり、私の知識が役立てればと思うとやりがいがあります。また、日本との比較も行うことができるので、結構勉強になります。
まず電気代を日本と比較をしてみたいと思います。ヤップ州の公共施設に対する電気代は高く、1Kwh当たりで$0.77です。$1の日本円換算を114円としますと、$0.77は凡そ88円となります。電気料金の計算は日本と同じように使用する電力量が多いほど、電気代の単価が上がる段階料金になっていますが、一般家庭用では平均的に$0.42で凡そ48円となります。日本の一般家庭では平均的には24円程度ですから、2倍ほどになっています。病院のような事業用の単価は日本では15円/Kwh程度ですが、ヤップのそれは88円/Kwhですので、とても高くなっています。
これはヤップ島の人口が7千人と少ないため、割高になっていると思われます。電力会社の火力発電の燃料は石油が使われており、石油価格がもろに反映します。この石油使用量を削減すべく、他国からの支援を得て風力発電も設置されており、島の電力使用量の11%をまかなっているとの報告があります。将来的には、再生可能エネルギーで使用量の50%以上をまかなう計画がありますが、財政基盤がきびしく外貨獲得のための輸出産業が余りないため、この計画を達成するためには他国の支援が必須ですが、厳しい状況ではないかと思われます。
さて病院の省エネ診断の結果ですが、電気使用量が最も大きいのは空調設備でした。病院全体の使用量の約半分を占めています。その理由の一つは、島に一つしかない病院で24時間対応しているため、空調機を24時間運転する必要があるからです。日本と違って、夜間でも通年を通して気温は高く、冷房が必要です。30年前の古いシステムであることから、冷房するための2機ある空調機で冷水を作り、病院全体に供給する方式となっていますので、不在の部屋にも冷水が届けられます。これをやめられれば、冷水を作る量が減少し、電力消費が抑えられます。しかし、このシステムを根本的に改善するには、相当の費用が掛かります。日本でも、古い建物はこの病院と同じようなシステムになっているところが多くあります。とはいえ、費用を掛けずに省エネを行う方法を見つけ出すのが、私にとって大きな命題ですから、次の2案を考え実行してみました。一つは、夜間は気温が昼間より下がることや滞在者が少なくなるので、2機ある空調機のうち1機のみの運転が出来ないか試験を行いました。もし、1機の運転で済めば電力の削減が見込まれ、大幅な省エネになります。いよいよ試験開始です。初日の夕方の始めの時間帯はそれなりに冷房が効いてよかったのですが、夜中になり外気温が上がったために1機の稼働だけでは必要な温度の冷水が作ることが出来ず、翌朝暑かったとの苦情がありました。予想では、暑くなれば1機の中にある2台の機械が同時に動くと思っていたのですが、1台しか動かず暑くなってしまったのです。結局は、初日でこの案は断念しましたが、ソフト的にシステムを見直し、1機2台稼働が出来るようにすることが、今後の課題です。もし1機で済めば、病院の全使用量の10%程度の省エネは見込める予定です。
次に、設定温度を高めに設定する方法です。先に述べましたように、冷水で冷房していますが、温度の設定を1度でも上げますと冷水温度を高く出来るため、そのための電気代が少なくなります。日本では冷房温度は28度が推奨値ですが、ヤップにはその決まりはなく、多くの建物は23度程度の設定が多いです。この病院もほぼ23度設定となっていますが、それを1度上げて24度設定にしますと、日本のデーターでは15%程度の省エネになるとなっています。そこまではいかないまでも、それに近い省エネが期待できますので、現在病院の方々に検討してもらっています。私が執務していますメンテナンス部の建物は、病院本館から離れているため個別空調となっており、その設定温度は23度設定でしたが、現在は24度設定にしてもらいました。個別空調の部屋は、ほかにも7箇所ありますので、設定温度の見直しが行われることと思っています。
次に照明器具です。日本では既にLED照明に置き換わっているところが多いのですが、この病院ではまだ従来型の蛍光灯を使用しています。この主要な部屋の蛍光灯280本程度をLED蛍光灯に換えますと、病院の全使用量の約2%程度の省エネになります。
さらに既に行いましたのは、机の直上の天井照明などの必要な照明は残し、室内のその他の照明や通路照明は間引き照明にするなどとして、省エネ化を図ってきました。診療室、検査室、薬剤室、そして手術室など病院機能として必要場所は、十分な照度を確保しています。
現在水道についても見直し作業を行っているところですが、主バルブのメーターの毎日の測定データーにより、いずれかの場所で漏水していることが判明しました。調査をしてみるとタンク式の便器からの漏水が多いことが判明したため、早速補修を行い漏水を止めましたが、他にもないか調査を進めることにしています。
今回は技術的なことが多く読みづらかったとは思いますが、知らずに無駄遣いしているところを改善し、医療費に必要経費が回るようさらなる努力を重ねていきたいと思っています。このページを読まれた方も、省エネのため身近なところで工夫されてはいかがでしょうか。照明はこまめに切る、冷暖房は国が推奨する夏場は28度、冬場は20度に設定する、冷蔵庫の開閉回数を減らす、お風呂は家族と一緒にはいるか、間隔を開けないで入るなどの方法でも、電力使用量を少なくすることが可能です。私の住まいの電気代ですが、4月は約$100、5月は$60、6月は$40、7月からはほぼ$28位になっています。見なおし事項として窓を開ければ風が入るので、基本的にはクーラーは使わない、電気ヒーターは卓上カセットコンロに切り替える(ボンベ1個で1週間ほど使え、値段も$1で安いです。)、照明は電気スタンド1灯とするなどです。やはり一番使用量で多かったのはクーラーでしたが、お陰様で徐々に体が慣れてきてクーラーをすっかり使わなくなりました。ただ、9月に入って冷蔵庫から冷凍庫付冷蔵庫に切り替えたり、洗濯機と電子レンジを入れたりしましたので、10月分からの電気代は上がるものと思っています。なお、島の方に聞きますとクーラーは多くの住宅で取り付けてなくて、冷凍庫の利用が多いとのことでした。
SHARE