2018/06/13 Wed
文化 生活
ジャマイカ式名づけシステムとジャマイカごはん


日本を離れてから1年半以上が経ち、赴任当時と比べてジャマイカの文化に随分慣れてきたと感じることが増えました。
今回は、特にジャマイカらしさを感じさせる2つのポイント、ジャマイカのあだ名の文化とジャマイカの食文化について簡単に紹介します。
この1年半で私が実際に見聞きした限りの印象では、ジャマイカの人たちは、とても極端な表現方法を好むようです。
たとえば、政府関係機関で働いている方とあいさつをすると、
「How are you, Mr. Sasamori?」
(笹森さん、ご機嫌いかがですか?)
と、非常に丁寧に尋ねられます。
一方で、普段、配属先であるセント・アンズ・ベイの市場で野菜を選んでいると、
「Chinaman! Whaa Gwaan!?」
(中国男! 元気にしてるか!?)
と、5メートルくらい先でパイナップルを売っている顔見知りの方から、大きな声で叫ぶように呼び掛けられることもしばしばです。
ジャマイカに来たばかりの時は、「Chinaman」と呼ばれるのがしっくりこなくて居心地の悪い思いをしていました。
そう呼ばれる度に、
「いえ、実は私は日本人でしてね。中国籍でも華人でもないんですよ」
と説明をしていたのですが、
「おおー、お前日本人なのか。じゃあやっぱり『Chinaman』だな!」
と、改めて「Chinaman」認定されることがほとんどなので、よほど説明を求められない限りは何も言わないようになりました。
ジャマイカには何世代も前に中国から移民してきた方々が根付いていて、卸売問屋や大型のスーパーを経営しておられます。
一説には7万人超ジャマイカに住んでいるという話もあり、これは現在のジャマイカの人口、約290万人の2%以上に当たります。
小売や流通の分野で非常に大きな存在感を放ち、ジャマイカの人たちから裕福な存在だと認識されています。
華人の方が経営されているスーパーにいくと、朝から晩まで土曜も日曜も関係なく、熱心に働いている姿を目にします。
ちなみに、その手のスーパーでは中華系の食材や醤油や梅干しを購入することができ、いつも非常に助かっています。


一方、旧英連邦加盟国であった関係から、旧英領ビルマ(現ミャンマー)出身の方が、一定数、主に医療機関で専門職として働いておられます。
ビルマ系の方は華人の方々に比べてとても少数で、正確な統計資料はないのですが、300人前後の方がジャマイカで生活しているという10年以上前の新聞記事に目を通した記憶があります。
興味深いことに、彼らもまた、医療という専門分野で非常に大きな存在感を放っています。
活動の関係で医療関係者の集まる研修に参加した際、研修を受講している医師の半分以上がビルマ系だったことすらあるくらいです。
私もまだ来たばかりの頃、道端で知らない女性から、
「あんたドクターでしょ? 最近足の関節が痛いからちょっと診てよ」
と、突然声をかけられたこともありました。
医療関係者ではないことを伝えると、
「そんじゃ、あんたここで何してんのよ、『Chinaman』」
と、改めて「Chinaman」認定をいただいたのでした。
「ドクター」は「Chinaman」ではない、というのが理解できた貴重な経験でした。
さすがに1年以上住んでいると、こうした言葉の端々からジャマイカの人たちの考えが推察できるようになってきます。
ジャマイカの方々は、わかりやすい特徴をそのまま人の呼び名にしているようです。
体格のいい人は「Bigman」(おっきい人)。
肌の色の明るめの人は「Browning」(茶色い人)。
インド系の特徴が色濃く出ている方は「Indian」(インドの人)。
スープを売っている人は「Soupie」(スープさん)。
ブドウを売っている人は「Grapie」(ブドウさん)。
このような理屈で言えば、東アジア系の見た目をした私は「Chinaman」以外の何物でもなくなるわけです。
そこにはいい意味でも悪い意味でも、何の意図も含みも感じられません。
そうしたことに気づけたからか、いつの間にか「Chinaman」という呼びかけに自然と笑顔で答えられるようになっていました。
そのくらいからジャマイカ滞在を楽しめるようになったことを考えると、ある種の精神的な通過儀礼だったのかもしれません。
<ジャマイカのJICAボランティアの活動は、「Chinaman」と呼ばれて笑顔で返事ができるようになってからが本番>
一般化して言えるようなことではありませんが、文化的適応という意味で言えば、間違っていないようにも思えます。
偶然の一致かもしれませんが、ジャマイカの料理の味に慣れてきたのも、やはり1年くらいたってからのことでした。
ジャマイカの料理で有名なのはジャークチキンですが、フライドチキンや、朝食として定番のアキー・アンド・ソルトフィッシュ、コーンミールなどの材料をドーナツと同じ要領で調理したフェスティバルなど、気楽に食べられる美味しい料理が他にもあります。
どれも日本人の口に合って美味しいのですが、最初のうちは結構な辛さと濃い味に慣れるのに一苦労でした。
カリブ地域で広く食される唐辛子のスコッチボネット(上の写真右側)の独特な強い辛さのために、胃腸の調子を悪くすることもありました。
ところが、1年くらい経った頃、体が常夏の環境に適応しようとしたのか、急に辛い食べ物が美味しく感じるようになりました。
今では自分からスコッチボネットを好んで料理に使って食べています。
ピーマンとほとんど同じ形状のスコッチボネットは種の部分が非常に辛いので、料理次第ではそこを取り除くこともあります。
香辛料をたくさん使った料理を食べると汗が出て体を冷やすことができるのもありがたいです。
スコッチボネットと同様に、ジャマイカの食文化に欠かせないのがアキー(上の写真左側)です。
前述のアキー・アンド・ソルトフィッシュ以外には使われているところを見たことがないのですが、アーモンドのような味で非常に美味しいです。
皮の部分に有毒な成分があるため、調理の際の下処理に注意が必要なのはご愛嬌。
ジャマイカに来て、本場のジャマイカごはんを味わうのなら、食べずには済ませられない食材です。


余談ですが、私の髪が結べるくらいに伸びてくると、不思議なことに私の呼び名は「Japanese Rasta」(日系ラスタ)に変わりました。
どうやらジャマイカの方々の間でも、日本人はレゲエやラスタファリ運動関連の文化に親和的だという認識があるようです。
私は決してレゲエに詳しくないのですが、屋台で買ったジャマイカごはんを道端の木陰に腰かけて食べていると、
「Yo! Rasta!!」
(おい! ラスタ!)
と声をかけてもらえて、レゲエや音楽を話題に話し込んだりできるのは、やはり嬉しいです。
「友好親善・相互理解の深化」が目的でもあるJICAボランティアとして、日本から来た自分がジャマイカの方々に受け入れてもらえたと感じられる瞬間です。
帰国まであと4ヶ月ほどですが、こういう経験を大事にしながら、残りの任期を過ごしていきたいところです。
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