JICA海外協力隊の世界日記

5Sでゴー 薬剤師マラウイ奮闘日記

答えの出ない問題...

私が働くカムズ中央病院には医師や看護師や各職種、多くの外国人スタッフが働いている。アメリカ・イギリス・ドイツ・中国・韓国・ウガンダなどなどヨーロッパやアジアなど本当に多くの人々が働いている。薬局にもしょっちゅう各国の医師が在庫を確認にやってくる。そんな中で私がいつも考えること、それは「いったいどの国のルールに従うべきなんだ!?」。

もちろんここはマラウイである。したがってマラウイのルールに従うべきである。マラウイには「Malawi Standard Treatment Guidline & Essential Medicines List」という本があり標準的な治療や薬について書かれている。(このほかHIV/AIDSのガイドライン、結核ガイドライン、マラリアガイドラインなども存在する)がしかし、これが現状に追いついていない… マラウイの政府系の病院では使える薬が決められているが、現在使える薬とこのガイドラインに記載されている薬にギャップがあたりする。もちろん最初にこれらを確認すべきだが、すべてにおいてこの本が使えるわけではない。

次に参考にすべきもの。薬局の場合、それはイギリス版の医薬品集であるBNF:British National Formulary。かつてイギリスの影響を受けていたマラウイではイギリス版の医薬品集が使われている。しかしここでの問題点!毎年改定されるはずのこの書籍、2018年4月現在、電子データでは「BNF 73 March 2017」がマラウイでも出回っているが、書籍として入手できる最新版は「BNF 70 September 2015」。最近知ったがこれは本屋さんでは購入できない。特定の薬局で購入する。先進国では毎年新しい版が出されるたびに購入し直し、古い版はすぐに廃棄になる。その中で比較的保存状態の良いものがマラウイに回ってきているようで、マラウイの薬剤師会のような組織(Phasom General Assembly)が管理し安価で配布してくれている。なので写真のようにすでに表紙に前施設のものと思われる貼り紙があったり、中に以前使っていた人の書き込みがあったりするのが面白い。しかし安いといっても(1冊2500マラウイクワチャ、日本円で400円しない程度で、マラウイだとお昼が5~6回食べられる値段といったところかな)みんなが買えるわけではないようで、私の職場で実際に使われているのは2009年版のものだった!古すぎる( ゚Д゚)。三次医療を担う中央病院なのに… 英語の苦手な私は電子版より書籍のほうが使いやすいので2015年版を1冊購入し使っているので、帰国時はみんなが使えるようにそのまま残して帰ろうと思っている。

政府系の病院で使用できる医薬品/物品は政府が許可しているものであるが、扱っている約3400アイテム中、マラウイ国内で生産されているものは42品のみ(私の理解が正しければ)で、その他は海外からの輸入で、同封されている添付文書は輸入元の国のもの。各国で異なるであろう適応症や用量用法などどの程度従って良いか悩むことも多い。また寄付で送られてくる医薬品には比較的新しいものもあるが、もちろんマラウイのガイドラインに記載されていないだけでなく、古い医薬品集を使用しているため、BNF上でも情報を得られないこともある。

私が調べた日本の情報がこれらの資料と一致しなければ、日本でのエビデンスがあったとしてもどこまで推奨して良いか分からない。混乱を引き起こすことはしてはならないとすれば、たぶん推奨すべきではないのだろう。日本にいるときは時折ルールに従うことを窮屈に思ったが、従うべきルールがきちんと整備されている状況がいかに重要なことが改めて知らされる。外国人として持ち込むべきこと、持ち込むべきではないこと、この区別は本当に難しい。

他にもいろいろマラウイ人同士や、マラウイ人と外国人の間で考え方の違いがある。

たとえば抗菌薬。予算が足りていないマラウイでは高額な医薬品は使用日数を制限すべきではないかという意見もある。高額な抗菌薬を14日使用しても症状が軽快しなければそれはもう中止すべきであると考える現地の人々もいる。1人の患者に高額な医薬品を提供し続けることで、他の薬が買えなくなるのであれば日数制限を設けることに猛反対はできない。一方で疾患によっては長期治療が必要なケースもあり継続を強く要求する外国人医師もいる。長期治療で助かるのであればこの主張ももっともである。状況によって答えは異なるだろうがマラウイではどちらの意見が正しいのだろうか、答えは出ない…。そして在庫が少なくなった場合。現在薬局では処方日数分調剤せず、数日分を交付し改めて取りに来るように指示する、その時に新しい納品が来ているかもしれないから。しかし交通費の問題などで再度来院せずに治療が不十分のまま中断する患者も多く、医師側からは処方通り調剤するように要求がくる。治療が不十分だとしても多くの患者が少なくとも数日治療できるのと、一部の患者が治療を完結できるが残りの患者は未治療になるのと、どちらが良いのだろうか…。

そして期限切れ医薬品の扱い。期限が切れたとしても新しい期限の医薬品が入手できているとは限らない。期限切れであれば治療を諦めるのか(マラウイ人は期限切れは使わないという意見が多い)、変わりに使えるものがないのであれば期限切れを使うという選択をするのか(外国人はこちらの意見が多いと思う、もちろん使うのであれば患者側に説明して患者側の意見も考慮すべきだとは思うが)、これもどちらが正解なのか答えは出ない。使うにしても期限切れはいつまで使って良いのか、1ヵ月?2ヵ月?半年?。いろいろな状況で何が正しい選択なのか答えがみつからない問題で悩み、議論することが多い毎日である。英語の苦手な私にはこの議論に悪戦苦闘で言いたい事が伝わっているか不安が多いが、マラウイ人がこれらの問題を考えるのは非常に大切だと思うので日々片言の英語と最大限の身振り手振りで奮闘中である。

薬局の職員は入院患者さんに会うことが少ない。患者に会うことがなければ無関心でいられる部分もあり、ただ単に処方だけをみて「欠品だから交付できない、仕方がない」と簡単に返事をする(最初はなぜ代替品を提案するなどの努力をしないのか不満に思ったこともあったが、代替品もないことがほとんどだし、欠品の原因が国の予算不足だったりすると現場の薬剤師にできることがほとんどないのも事実であり、彼らがそう返事をするのも仕方がない状況があるのは分かってはきたが…)。ただせめて処方だけではなく患者さんの状態を知る努力をして患者さんを個々の人として知るべきだとは思う。時として欠品は命に危機につながるのだから。患者さんを1人の人として認識すると、簡単に欠品だからあきらめるしか仕方ないとは言えなくなり、何かできることはないか考えたくなるはずだと私は思う。結果、してあげられることは何もないのが多いのがマラウイの現状ではあるが(>_<)。

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