JICA海外協力隊の世界日記

ミクロネシア日記「ことこと」

小さな変化と大きな喜び

今から約3週間ほど前の5月31日は、わすれられない一日となりました。

6月下旬に卒業式をひかえ、今年度のまとめに入っていたころです。

この日、かねてより計画していたレッスンスタディと、プレゼンテーションを行いました。

レッスンスタディとは、先生同士で授業を見合い、よりよい指導を先生たちみなで話し合っていく手法です。

ひとりの先生の授業を、たくさんの先生たちの目で見て、意見を出し合うことで、

授業をする先生にとっても、

授業を見に来た先生にとっても、

学びになる。

みんなで指導力を高めていく。

わたしはかねてより、このレッスンスタディをネッチ小学校でやってみたいと思っていました。

というのも、ネッチ小学校の強みを活かしたかったからです。

ネッチ小学校は、クラスが4~5クラスずつあって、先生たちが45人いる大きな大きな学校です。職員室はなく、全校や学年の先生たちが集まる機会がほとんどないポンペイの小学校では、「他の先生の教え方を知る」チャンスが、とても少ないのです。

日本で先生になって間もないころ、わたしは、とにかく、周りの先生たちがどうやって教えているのかをすみずみまで観察してみることが、何よりの勉強になりました。研修会などで、実際に授業を見学できるときはもちろん、放課後に周りの先生に聞いてみたり、教室に何が飾られているか見に行ったり、とにかく自分の目で見て、いいと思ったところは取り入れてみる。わたしの学校は、一学年2~3クラスある学校だったので、身近に、「先生のお手本」がたくさんいたことが、とても助かりました。

だから、ネッチ小学校は、もっともっと先生たちがいて、お手本がたくさんいるのに、周りの先生たちがどんな風に教えているのかを知る機会が少ないのは、とてももったいないと思いました。小さな学校なら、一人一人にきめ細かい指導ができるよいうよさがあるように、大きな学校にも、そのよさがある。それは、お手本がたくさんいること、授業のアイディアをたくさんシェアできることだと思ったんです。

前にしょうかいした6年生のケビン先生に授業者になってもらうようにお願いし

校長先生に話をしに行きました。

「ケビン先生の授業を、学校の先生たちに見てほしい。全員の先生に。」

「だめだ。」

すぐさま返ってきた返事は、ノー。

「全員の先生は無理だ。授業を見に行っている間、だれが空いたクラスの子どもたちを見るんだ。」

日本では、どの学校でも行われているレッスンスタディ。年に数回のその日だけは、特別時間割になったり、子どもたちは自習をしたり、副担の先生が代わりにクラスに入ったりしながら、全員の先生がひとりの先生の教室にやってきます。

先生たち全員で、たくさんの意見を交わしたい。

でもここは、日本ではありません。特別時間割をボランティアの意見だけで勝手に組むことはできないし、自習のやり方を子どもたちは知らないし、副担の先生も十分にいるわけではありません。

ビデオにとれば、全員の先生で見ることはできますが、それでは意味がない。

その場にふみ入れたからこそわかる、空気感。子どもたちや先生の表情。

やっぱり、生で見ることにはとことんこだわりたい。

すると、校長先生が、「全員は無理だが、各学年1人ずつなら、副担の先生を配置できるかもしれない。」

と言ってくれました。ありがとう、校長先生。

そんなこんなで、その後も山あり谷ありなことがいろいろあったのですが、無事レッスンスタディ当日をむかえることができました。

授業が始まる直前は、とっても緊張していた子どもたち。

そしてチョークを持つ手がふるえるケビン先生を見て心配しましたが、

それをカメラにとろうとするわたしの手も緊張でふるえていました。

けれども、やがて緊張がほぐれて、いつものように授業が進みました。

ケビン先生と事前に話し合って決めていたのは、授業の中で、子どもたちが活やくする時間をたくさんつくること。

当日の授業は、そんな場面がたくさん出てきて、子どもたちの真けんな表情や、笑顔を見ることができました。

さて、放課後は、授業を見に来た先生たちが集まって、授業のふり返りです。これにも、とことんこだわりました。

ひとつ、引っかかっていたのが、話し合いが止まってしまわないかです。ポンペイでは、人とぶつかることをあまり好まない文化があります。だから、「よい点」はたくさん意見が出ても、「問題点」は出ないのではという心配がありました。

そこで力を借りたのが、ポンペイに住むシニアのJICAボランティアさん。民間の会社で長く働いていて、話し合いの手法をたくさん知っている方でした。しょうかいしてもらったKPTという手法に少しアレンジを加えて、写真のように、

・よかったこと

・さらによりよくするためにできること

・明日からやりたいこと(授業を見に来た先生自身が)

を表にまとめながら、話し合いを進めました。ふせんを使って、こんな風に話し合うのは先生たちにとって初めてなので、わたしのつたない説明をなんとか理解しようとしながら、和気あいあいと意見を交流してくれたことに、感謝です。

さて、授業のふり返りの後、今度は、全員の先生を集めてのプレゼンテーション。盛りだくさんの一日です。

ケビン先生の授業を例にしながら、新学期からの活動の柱にしたい「ユニバーサルデザインの授業」を話をしました。

「ユニバーサルデザインの授業」については、また改めてくわしくしょうかいしますね。

レッスンスタディとプレゼンテーションを終え、今日一日背負ってきた緊張が、安どとともに疲れにかわろうとした時、ケビン先生が、みんなの前で、こうあいさつしました。

「きのう、アユミと授業の最終打ち合わせを終えた時は、何もかも完ぺきだ!と思っていた。

でも、今日、先生たちからいろいろな意見をもらって、考えを改めた。

まだまだ、できることはたくさんある。それに気づかせてくれたことに感謝している。」

こうして次の日、いつものようにケビン先生のクラスに行くと、ちょっとした変化がありました。

一枚のワークシートを解き終わった子どもたちは、おもむろにノートを取り出し、九九の復習をしていたのです。

わたしは、昨日のふり返りを思い出しました。「ワークシートを解き終わった子たちは、何もしないで待っている手持ちぶさたな時間があったので、九九を書くなど、何か次の課題をあたえるとよいのではないか。」という他の先生からの意見を、ケビン先生はちゃんと覚えていて、そして行動におこしたんです。

それは、わたしがずっとずっと願ってきたことでした。

ボランティアは、いつだって無力だと思っていました。

はたから見れば長く思える2年間も、その2年間で、どれだけのものが残せるのか。

教材とか、ワークシートとか、確かに、残せるものはいくらでもあるかもしれません。

でも、目に見えないものだってちゃんと残したい。

それは、今、世界中で奮闘するボランティアだれもが思っていること。

ケビン先生のことばは、行動は、目に見えないけれど、言わなければだれも気づかない小さな小さな変化だけれど、

そんな変化を起こすきっかけをつくれたことが、目の当たりにすることができたのが、本当によかった。

心の底からそう思いました。

ひとつでも、ひとりでも多く、ポンペイの人の心に何かを残せるように、これからもがんばります。

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