JICA海外協力隊の世界日記

みんなの知らないインドネシア~スマトラ島・バンダルランプン~

ダマール

 私の任期もあと1ヶ月を切り、今は取り纏めの最終段階というところでしょうか。今回は任務である廃棄物処理とは若干異なりますが、同じバイオマス資源について、しかも地元のユニークな樹木利用について紹介したいと思います。任務終了までに是非ブログに載せたいと暖めていた内容で、やや専門的で堅苦しい記事かもしれませんが、しばしお付き合いいただければ幸いです。

 皆さん、「ダマール」をご存知でしょうか?綴りはdamar(尼)、dammar(英)、日本では「ダマル」または「ダンマル」と表記されることもあります。このダマールとはフタバガキ科の樹木(写真1)の幹から採れる樹脂(gum)のことを指し、ここランプン州の特産物の一つとなっています。用途としてはインク材料やワニス、リノリウム製品(建材)の原料など、また、インドネシアで有名なバティック(ろうけつ染め)を作る際にも用いられています。日本語でググってみると画材(油絵の上薬)として出てきますので、その方面に詳しい方はご存知かもしれません。

 さて、そのダマールを採取する樹木はランプン州西部のKrui地方で多く栽培されており、写真2のように幹に穴を空けてそこから出てくる樹液がダマールとなります。ここに写っている樹液は無色ですが、文献に依ると樹種によって外観が白から黄色と様々あるようです。特にランプン地方の樹脂はダマール・マタクチン(damar mata kucing:猫の目)と呼ばれ、とても品質が良いそうです。採取時の樹液は粘稠な液体ですが、しばらくすると透明な手で折れるくらいの堅さの固体となります(写真3)。一本の樹木から月に4~5kg、年に50kgほどダマールが採取でき、インドネシア全体では年産10,000トンほどになるようです。そのうち約9割がランプン州Krui地方産だそうで、これは堂々とこの地方の「特産品」と言ってよいでしょう。

 このダマールが一定の需要がある「商品」として流通している背景には、その基となるフタバガキ科樹木の栽培・管理を行なう農家があることは言うまでもありません。元々は天然にある樹木から採れる粘稠な液体を細々と利用していたのかもしれませんが、現在では小規模なプランテーション(植林地)として運営されています。文献では植栽後16~20年で直径25~30cmに生長すると樹液採取が可能になり、その後30~50年間採り続けることができるそうです。こうした年数を踏まえてダマール採取農家では伝統的に次のような経営手法を用いています。まず、最初の20年ほどの期間は樹木を育てる傍らで、コーヒーや果樹(ドリアンなど)を栽培したり陸稲を植えたりして生計を立てる。樹液が安定的に採取できるようになると、ほかの作物栽培は規模を縮小しダマール生産に軸足を移す、という具合に運営されているようです。

 このようにダマール生産の背景には、人が森を活かし、農業も行ない、経済的にも自立できる、という仕組みが出来上がっているということです。即ち、人間が環境と調和しながら理想的な自然との共存共栄のモデルが、ここランプンにあるのかもしれません。

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