JICA海外協力隊の世界日記

タイはよかとこっタイ!

<第34回>障害の告知

サワディーカップ。今回は少し真面目な投稿をさせてください。

タイでは病気やケガをした後、急性期病院での治療(数日~2週間程度)が終わると、自宅での療養がスタートします。基本的には家族介護・家族によるリハビリテーションが主で、専門的なスタッフがリハビリテーションや医療的なケアをしていることは非常に少ない現状です。1年以上の長い療養生活を経て、私の施設に入所してくる患者が多いのですが・・・

十分なリハビリテーションを受けれていない、廃用症候群が生じている(寝て過ごしていることが多いため、筋力や体力が低下する)などの問題はもちろんありますが・・・、最近気づいた問題が『障害の告知』の問題です。

病院で過ごす期間が非常に短いので、診断や予後がはっきりせず、『障害の告知』がされていないケースが散見されるということです。もしくは告知されていても、急性期のことすぎて、患者自身が十分に理解できていないといったケースもあるかもしれません。

つい先日、担当している脊髄損傷の患者さんに対し、リハビリテーションの成果とこれからの目標について話をしているときのことです。てっきり障害告知がなされており、怪我をする以前のように歩行できないことは理解できていると思って話を進めていましたが、どうも話が食い違う・・・。

同僚と共に「どのように歩けるようになることが目標ですか?」と質問すると、「怪我をする前みたいに歩けるようになること」との返答・・・。脊髄の神経が壊れているので、以前のように歩くことはできないが、今練習しているように装具と歩行用具を使っての歩行はできるということを説明しました。

その患者さんはたぶんその事実を初めて聞いたのだと思います。私より少し若い男性の患者さんでしたが、涙を流し始めました。「あなたが日本に帰国するまでに歩けるようになることが目標だ」と言って、リハビリテーション頑張っていた患者さんでした。私が落ち込んで元気がないとき、いつも声をかけてくれて励ましてくれる患者さんでした。

日本では、どこかのタイミングで医師による障害告知が必ずなされているため、障害をもって数年経っているこの患者さんが、まさか自分の障害について把握できていないとは思っておらず・・・。患者さんに十分な心の準備もさせぬまま、急に告知することになってしまい、私の理学療法士としての認識の甘さ・配慮の欠如をとても反省しました(同僚たちはこれまでに何度も経験しているようです)。というより、これまでに告知の経験がないので、どのような対応が良かったのかは未だに分かりません。「何で真面目に頑張っているのに元通りに歩けないのか」と、私の肩で泣く患者さんに、ただただ黙って寄り添うことしかできませんでした。

急性期病院を早期に退院し、自宅療養をすることで、障害の告知のロスが生じ、自分の障害がどういうものかを理解できていない患者さんが一定数います。そして、私たちのような施設に来ることがなければ、きっとこの先も誰も説明しないまま、ただ障害を持って苦しむ時間を過ごしていく患者さんもいるはずです。この患者さんも私の施設に入ってくる前に、人生を悲観して、数回の自殺未遂経験があることを私に話してくれていました。障害を告知することの良し悪しや、告知することで人生が変わるのかどうかは、私は答えることができません。知らないまま過ごしていく方が幸せな場合もあるかもしれません。

今回、偶然にも障害告知の経験をさせてもらい、幸いにも、患者さんは前向きに人生を歩もうとされています。私がこの患者さんに関わる期間は、残り2ヵ月と非常に短い期間ですが、彼と一緒にこれからの人生について考え、障害を受容できるように側で支えてきたいと思います。

以上です。最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。

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