2025/04/29 Tue
観光
バニャ・コヴィリャチャのはなし


Zdravo! ズドラヴォ
セルビア観光隊員の星野です。
今年の3月は記録的な長雨で、配属地を中心にセルビア西部で大きな洪水被害がありました。
川が多く水源豊かなセルビアですが、
こうした自然災害と常に隣り合わせの国でもあります。
それでも春は来て、町が花々で明るく彩られる季節になりました。


今回は、隣町のバニャ・コヴィリャチャ/Banja Koviljačaについて、お話したいと思います。
バニャ・コヴィリャチャは、人口4,400人ほどの小さな町。
ロズニツァ市が管轄し、市中心から6km、車で10分ほどのところにあります。
清らかなドリナ川が流れ、緑豊かなグチェヴォ山のふもとにあるこの町の中心には
バニャ公園という美しい公園があります。
セルビア第二の大きさを誇るバニャ公園。奥に見えるグチェヴォ山のふもとに位置します。
このバニャという言葉、セルビア語で温泉、スパという意味があります。
それもそのはず、ここには鉱泉が湧いているのです。
セルビアにはコソボを含め、50ほどの泉源があり、各地にバニャ・〇〇といった地名がみられます。
公園の入口。うっすらと残る1938年の数字。

バニャ・コヴィリャチャの歴史は古く、
鉱泉についての最初の記述は500年近く前に遡ります。
数々の伝説とともに人々を惹きつけていた癒しの地は
19世紀後半から、スパ・リゾートとして興隆し
20世紀に入ると、王族お気に入りの保養地として浴場や娯楽施設が建設されました。
これらの建築はその後、セルビア激動の時代を経て長らく放置され、荒廃の一途を辿っていましたが、近年修復され、当時の優美な姿を取り戻しています。
公園内にはほかにも、由緒あるリハビリテーション専門病院/スパ施設があり、硫黄成分を豊富に含んだ鉱泉を使った治療や、プールを利用することができます。
宿泊施設を完備し、子どもからお年寄りまで長期滞在しながら治療を受けている方が多く、日本の湯治にも通じるものがあります。
Kur Salon/クール・サロン建築当初の写真:ウィーンにある同名の建築を参考にしたそう。20世紀には舞踏会などが盛んに催され、バルカン最初のカジノが開かれた場所でもあります。

クール・サロン:現在はカフェレストラン、コンサート、結婚式などに利用されています。
王様の浴場:病院・スパ施設の一部として、現在も利用されています。
リハビリ専門病院・スパ/Specialized Rehabilitation Hospital Banja Koviljača:宿泊施設のひとつ。
公園の中心には、美しい大きな噴水があり
人々の憩いの場所となっています。
これ実はなんと、日本の企業が友好の印として、30年以上前に寄贈したものだとか、、、!現地の人々の話によると、ユーゴスラビア連邦当時、公園の隣にある広大な化繊工場で多くの日本人技術者が働いていたそう。工場で働いていた方のなかには日本語を少し話せる方もおり、ある日公園を歩いていたらおじいちゃんに「お飲み物は何になさいますか」と聞かれました。ありがとう、こんにちは、ではなく、しかもおじいちゃん。とてもびっくりしました。もしかしたら飲み会が多かったのかもしれません(笑)
Viskoza/ヴィスコース:巨大な工場跡。閉鎖後数十年経った今も化学薬品の汚染が問題となっています。
連邦崩壊後、ほどなく工場は閉鎖されてしまい
日本企業の記録も噴水の歴史も全く残っていません。
数十年経った今も、噴水の歴史を語り継いでくれる方々がいることに感謝すると同時に、寂しさも覚えます。
現在は、工場跡の向かいに中国系の巨大な自動車部品工場が建っています。
近年、この近くでヨーロッパ最大のリチウム埋蔵地が見つかり
国内外でむずかしい舵取りに直面しているセルビア。
バニャ・コヴィリャチャはちょうど今、その岐路にあるのです。
それでは、今回はこの辺で。
Ćao!
■ ウェブサイト、参考文献
Specialized Rehabilitation Hospital Banja Koviljača 公式HP(英語)
Вуловић, Владимир. 2018. БАЊА КОВИЉАЧА Чувена „са своје лековитости и романтике”. Šabac: Grafika
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