JICA海外協力隊の世界日記

ブータン便り

福島県等における任国職員のナメコ栽培技術等研修

2022年度1次隊 ブータン(きのこ栽培)熊田淳

1 はじめに

 20229月からブータン国立きのこセンター(NMC)で栽培と育種の技術支援活動を開始し、ナメコ野生株の収集と選抜、現地適応化試験を経て、今年から3県の生産者団体による本格栽培へ移行しました。同時に、新規栽培きのこ類の輸出を目指して民間企業と連携した加工品開発を支援しています。これらの活動は、昨年に採択された国際連合食糧農業機構(FAO) の技術協力プログラム(TCP)により実施しています。

2 研修目的と概要

 申請したFAO-TCP計画に基づき、NMC職員の技術向上と商品開発中の加工品の市場調査を目的として、ナメコ栽培技術と優良品種を開発して普及した福島県を中心とした視察研修を2025411日から24日まで実施しました。受講者のNMCKarma氏とYeshi氏、FAOブータン事務所からの同行者Chadho副代表と本事業担当のLoday氏、案内と解説役の筆者を加えた5名で訪日しました。初日に主な研修地である福島県国際課・林業振興課(福島市)、最終日にFAO駐日連絡事務所(横浜市)を表敬訪問しました。

3 技術研修の内容と成果

(1)ナメコ等栽培技術研修

福島県発祥の自然栽培法である箱ナメコ農家3件(福島県伊達市)、最先端の大規模ナメコと菌床シイタケ空調栽培施設の2件(福島県郡山市)を県北および県中農林事務所の案内により視察しました。大規模空調栽培の発展に伴い古典的自然栽培法が激減している現状に、視察者は自国での自然栽培法の普及に不安を抱きましたが、自然栽培ナメコの食味性と希少性を活かしニッチ市場に狙いを定めた戦略が任国唯一の活路です。任国は現在の経済状況、栽培技術、森林資源の活用技術と制度、および流通環境において高額投資を伴う大規模空調栽培施設を導入する段階にありません。

(2)種菌製造に関する技術研修

NMCは原木シイタケとヒラタケの種菌を製造し無償で供給しています。種菌製造業務の民間移転を計画中のため、空調ナメコ用種菌(宮城県)と菌床シイタケ用種菌(栃木県)の民間製造施設を視察しました。研修者は、技術面とともにロット管理の重要性と販売物への製造者責任の重さを認識できました。また、任国の菌床シイタケ栽培普及上の最大の課題である優良品種の入手について、許諾契約を締結すれば種苗法の登録品種輸出禁止事項に該当しないことを両メーカから確認できました。今後、日本の種菌メーカーと具体的契約交渉の準備に着手する予定です。

(3)商品開発中のナメコ等加工品に関する市場調査

 民間企業と連携して商品開発中の原木ナメコ水煮、ナメコキヌアリゾット、マツタケキヌアリゾット、マツタケご飯の素、乾燥ボルチーニ、霊芝マインドフルネスティーの6商品の市場調査のため、5社(福島県3社、東京都2社)を訪問し流通関係者から意見を聴取しました。今後、試作商品やパンフレットに頂いたご指摘やご示唆を輸出担当企業と加工担当企業にフィードバックして商品の完成を目指します。また、幸運にも商品コンセプトと販売ターゲットに賛同頂いた複数の企業から、取引契約や試験販売の内諾を得ることができました。

(4)広葉樹林の持続的利用のための森林整備技術研修

 栽培の原材料を持続的に確保するため、最も実践的なシイタケ原木林施業技術を持つ福島県田村市都路の森林組合を視察しました。この地域は、最盛期に100万本を超える優良原木を県内外に供給する日本最大の原木産地で、20年間隔で萌芽更新する経済行為により里山の公益的機能と集落での生活を維持していました。しかし、東日本大震災以後、地域の生活が一変してしまいました。里山に依存した暮らしを喪失した状況を知るため、原発事故による旧避難地域の森林と生活の再生に取り組むNPO法人を視察しました。この視察が、きのこ産業の急速な発展に伴う無計画な森林資源収奪への抑止力になることを期待します。

(5)ナメコ共同研究に関する表敬訪問と打ち合わせ

 NMCとナメコの共同研究を実施している福島大学を訪問し、共同研究者の兼子准教授の案内で松田副学長に表敬訪問しました。日本で流通するナメコの99.7%は福島県喜多方市で50年以上前に採取された1つの子実体を起源とすることを証明した2022年の共同研究論文(https://www.jstage.jst.go.jp/article/mycosci/63/3/63_MYC570/_pdf/-char/ja)を契機に、副学長はナメコ育種の研究に着手しており、ブータンのナメコ野生株の共同論文(MycoAsia誌、2025.4受理)に強い興味を示しました。副学長は任国との共同研究をさらに促進するため、留学生の受け入れを検討するとのことでした。 

この後、兼子准教授の研究室に移動し、任国野生株と日本の市販品種のITS領域のシークエンス結果を報告いただきました。任国野生株は、配列を解読できた試料の全てが1塩基違い以内、すなわち99%に収まり日本株と同一のハプロタイプも検出されました。本結果と2025年の共同研究論文における形態学的観察結果から、任国野生株は、日本のナメコ(Pholiota microspora)と同種であると結論されます。学術的な内容にも関わらず、NMCの職員と同等以上にFAOの職員も強い興味を示し熱心な質問がありました。

4 おわりに

 今回の研修が、任国において栽培技術の普及と流通の両輪がバランスよく回転すること、きのこ栽培が地域の里山の公益的機能の向上に貢献し、集落の文化や伝統を継承しながら生活の質の向上に繋がることを期待します。また、福島発祥のナメコ栽培技術の導入や学術交流により、福島県と東日本大震災直後に多大な支援を頂いたブータン王国との絆がさらに強化されることを期待します。多くの成果を得た日本での研修を支援頂いた任国のFAOJICAの両事務所に深く感謝申し上げます。また、歓迎会の開催と流通関係機関のご紹介をいただいた元JICA二本松訓練所長の水谷氏に心より感謝申し上げます。最後に、今回の視察要望を承諾頂き、有益で心温まるご協力を頂いた全ての視察・訪問先および歓迎会にご参加頂いたJOCV福島県OBOG会の皆様に深謝致します。

Picture9.jpg

福島県国際課・林業振興課表敬訪問(2025.4.14)

小原国際課長(右から4人目)から歓迎と東日本大震災直後の支援への御礼の言葉を頂戴した

Picture10.jpg

FAO駐日連絡所表敬訪問(2025.4.22)

日比所長(後列左から2人目)に開発中の商品を大阪万博で展示するよう勧められた

Picture11.jpg

福島県発祥の箱ナメコ栽培視察 (2025.4.14)

Picture12.jpg

大規模空調ナメコ栽培視察 (2025.4.18)

Picture13.jpg

NPO法人の干シイタケほだ場 (2025.4.19)

Picture14.jpg

萌芽更新から20年経過したシイタケ原木林(2025.4.19) 

Picture15.jpg

DNA解析技術を解説する兼子准教授(中央)(2025.4.16)

Picture16.jpg

ふくしま青年海外協力隊の会による歓迎会(2025.4.18)

後列左:水谷氏(元二本松訓練所長)、後列左から3人目:柳二本松訓練所長

Picture17.jpg

マツタケご飯の素試作品とパンフレット

ナメコキヌアリゾット、マツタケキヌアリゾット、原木ナメコ水煮、乾燥ボルチーニ茸はパンフレットで紹介(FAOは任国のOCOPにキヌアを選出)

Picture18.png

霊芝マインドフルネスティー

左:試作品 右:薬草の国ブータンのレモングラスとルバーブを加えて味を整えた霊芝茶を紹介するパンフレット

SHARE

最新記事一覧

JICA海外協力隊サイト関連コンテンツ

  • 協力隊が挑む世界の課題

    隊員の現地での活動をご紹介します

  • JICA 海外協力隊の人とシゴト

    現地の活動・帰国後のキャリアをご紹介します

  • 世界へはばたけ!マンガで知る青年海外協力隊

    マンガで隊員の活動をご紹介します

TOPへ