2025/02/06 Thu
活動
共に学び合うこと
コロンビアのアルメニア市にある教員養成校で小学校教育隊員として活動している熊原美樹です。今回は、活動の変化について書きたいと思います。
「子どもの中に答えはある。」これがカウンターパート(コロンビア人担当者。以下CPと言う。)と私の最初の合言葉でした。つまり、子どもを観察していれば、おのずと答えが出る、ということです。これを基本に共通理解できたことが活動の基礎になっていったと思います。勿論、全てに共感できたわけではないし、それを求めていたわけでもありません。しかし、私はCPが何を望んでいるのか観察を続け、日本での類似例と対策について資料を作りました。その直後、CPは私に、市の教育局に一緒に行こう、と言いました。これが大きな転機だったと思います。
私が着任したとき、既に前任者の功績として日本の学習指導法を取り入れている先生、もともと教員として素晴らしい資質もっている先生達がいました。この人たちの良さを生かしたい、と私は思いました。ただこの時は、具体的な指導方法について一人ひとりの先生の良さを認め、それを共有する方法が曖昧だと感じていました。
そんな時、CPは私の作った資料を使って市の教育局でプレゼンし、その結果、市の教育局から年間3回の研修会実施の依頼が来ました。
CPは、ミキの務めていた自治体では毎週水曜日に研究会がある、ということを、この時も他の場面でも何度も話していました。私の勤務する自治体では、毎月1週目、2週目、3週目の水曜日に、それぞれ違う分野の研究をします。そして毎年授業発表がありますが、一人で準備するのではなく、自分の所属する学校の教員や研究会に参加する教員と共に話し合い、授業計画します。
前職での組織の動き、自治体の研究会、校内研究会などの動きを思い出しながら作った資料ですが、彼女が力説する姿を見て、改めて教員が共に学び続けていることの大切さを感じました。
そして、研修会を開催するたびに、コロンビア人が主体的に学ぶ方法が整えられていきました。
それは、私が提案した「コロンビア人が模擬授業を計画し、提供し、一緒に振り返りをする」というやり方だけではなく、CPが提案した「研修会で学んだことをどのように実践しているか参加者に写真を送ってもらう」という方法が生まれました。その送ってもらった写真を次の研修会においてみんなで確かめ合うのです。それまでの研修会は、急に実施が決まっていたのだそうです。しかし、年間予定があるからこそ見通しをもって計画することが出来ました。どのようにしたら教員が前向きに研修に参加できるか、参加した教員が主体的に学び続けることができるか、どの分野をどんな順番で取り扱うか。始めのうちはCPが奮闘しているような感じでしたが、色々な人に協力を要請するように勧めました。それは、日本での経験を思い出し、さらに組織を強化し、継続させる必要があると考えたからです。そして、企画・準備・運営するメンバーが増えていきました。
CPが市の教育局でそのプレゼンをした時、他にも課題はありました。子ども達が確実に学習するため、学習にふさわしい文房具を整えることでした。その時、市の教育局がいくつかの文房具を斡旋販売したり推奨したりすることは現実的ではない様子でした。
しかし、私たちの目的は、授業で子ども達が確実に学習すること、そのために図形を描くのにふさわしい文房具を教員と子ども達に使ってもらうこと。そこで、私たちは大きな文房具店でより良い三角定規や分度器を探しました。それをJICA合同勉強会(コロンビアの他都市の配属先と合同で行った学習会)が開催されたときに、研修に使用するため参加教員に配布してもらいました。その結果、私の配属先の学校の売店だけでなく、他の学校の売店でも学習にふさわしい文房具を販売するようになっていました。参加した先生が、自分の所属する学校でも教師や子どもがより良い道具を使えるように働きかけたのです。「文房具の選び方を知らなければ、学習にふさわしい文房具を選べない。」「消費者が学習にふさわしい文房具しか購入しなくなれば、そうでない文房具は生産されなくなるだろう。」この仮定と前述した目的を私たちは共有し、そのために何をしたらよいか常に一緒に模索した結果、変化が少しずつ見えてきました。
これらを支える基本的な活動として、日々のクラスの観察がありました。その中の、ある先生との関わりを紹介します。
授業を見せてもらった後、写真やビデオを見せながら、その先生の効果的な指導とその理由を伝えてきました。その先生は子ども達を惹きつける手法や子どもが学びやすくなる工夫をたくさん知っていました。
そしてある日、私の気が付いたタイミングで、こんな風に指示を出したらどうだろうか、と提案しました。そして彼はすぐにそれを実践できる人だったのです。
彼は自分の実践を通して、教師が子どもに解説するのではなく、学級目標に沿って子ども同士が学び合う、という感触をつかんだように見えました。そして、それらを市の研修会で紹介することに役立ちました。私はその写真を見せて少し話すだけで、具体的な話はその先生がするのです。
それら活動を通して、私がボランティアとして大切にしたいこと、私自身が教員として自分の指導で大切にしていることに気付かされました。
もう一つ、教員養成課程の学生に関わってきましたが、学生には、なかなか私の意図は伝わりませんでした。毎週木曜日に教育実習があり、そのための準備や振り返りの時間があります。そこで基本的な話をしても彼らの行動はあまり変わりませんでした。日本の運動会のソーラン節の練習の映像と指導のための準備資料を見せた時も、学生たちは不思議そうに眺めるだけでした。しかし、彼らの実習の風景を写真やビデオに撮り、テーマを示して話し合わせたところ、次々にそれぞれの考えを話し始めました。そして、他の学生の良いところを自分に取り入れていることが、次の回の実習を見てすぐに分かりました。
日本での授業と同じです。共通体験があるから、自分のこととして主体的に話し合える、そして学び取るのだと再確認しました。
その配属先の状況によって活動は異なりますが、CPと私は多くの時間を共有し、考えを交流してきました。これらのことは、私たちにとって大きな学びだったと思います。
私たちは一緒にいると、新しいアイデアが湧いてきます。ある日、私がその話をCPにしたら、「私にも同じことが起こる。」とCPが言うので私は驚きました。
私たちはお互いに影響を与え合い、学び合っているのだと思います。任期終了まで、まだまだ私たちのアイデアの交換は続きます。
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