JICA海外協力隊の世界日記

コロンビア共和国便り

#06 土壌肥料/コロンビア栽培日記~微細藻類たちに魅せられて~【土壌肥料/佐藤博友】

皆さんは、「バイオ肥料/バイオスティミュラント」という言葉をご存じでしょうか?

近年、肥料価格の高騰や、持続可能社会への移行、というキーワードの中で、世界的に関心を集めているのが、このバイオスティミュラントひいてはバイオ肥料と言う資材になります。

「バイオ」という言葉からも分かるように、これらの資材のコンセプトは、微生物や細菌のチカラ、もしくは特定の有機酸や生化学物質により、植物が本来もっている生理的なチカラを引き出して、作物の収量や品質を上げていく資材、という定義なのですが、肥料・農薬に次ぐ第3の農業資材(最後のフロンティアともいえます)として、近年注目を集めています。

今回、コロンビアでこのバイオ肥料の一つである「微細藻類」を使ってレタスの栽培試験を実施する、という機会をいただきました。

1. 微細藻類とは何か?

まず、「微細藻類」について、説明すると、それは海や川、沼地に浮かぶ藻をイメージして頂ければと思います。厳密に言うと、微細藻類は数え切れないほどの在来種が存在する光合成細菌の総称なのですが、近年の研究では、

  • 【植物の10倍の速度で二酸化炭素を吸収する】
  • 【光合成や空気中の窒素固定で、体内に豊富な無機・有機養分を生産する】
  • 【その栄養価や繁殖の速さを利用して、食品・燃料・化粧品・肥料(農業)等の用途で利用できる】

等など、様々な事が分かっています。農業用途としては、写真のような液体資材を葉面散布や土壌灌水により、液肥として利用するのが一般的です。

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2. 栽培試験の実施

さて、コロンビアでご縁をいただいた「微細藻類」たちを使ったレタスの栽培試験。

私にとっても配属先に赴任して約半年で、初めて携わる栽培試験になりました。

栽培試験を行うにあたって、一番の壁になったのは、やはり「言語(スペイン語)の難しさ」で。私の拙いスペイン語の為もあって、試験区の配置の仕方や、微細藻類の施用タイミング・方法、生育・収量調査の方法などで、何度も配属先の同僚や学生、微細藻類を提供いただいた大学の先生方と対面やビデオ会議で確認、議論を行いました。

立場的に、私は全体の現場を指揮する立場だったのですが、現場監督である私を監督しなければいけない、のような感じで、周りの皆さんには多くのご苦労をおかけしたと思います(^^;)

試験は、配属先である職業訓練校(日本の農業大学校のような専門学校です)内で、無肥料区や化学肥料区との比較を実施しました。私の任地であるカルダスは、年間を通して温暖な気候である事もあって、レタスや葉菜類の栽培は、およそ45日程度で収穫を迎えるとのこと。

話は少し脱線しますが、コロンビアは国土の大部分が傾斜のある山間地となり、その中で、コーヒー、カカオ、オレンジ、バナナ、野菜類など(俗に言う換金作物)が育てられています。肥料原料の9割強はノルウェー・中国・ロシアなどの資源国に依存している点からも、意外に日本との共通点も多いのかなと感じています。

その国の農業を知るという事は、その国の地理的条件や食文化を知るという事にも繋がるので、とても興味深いです。

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微細藻類の希釈&散布準備

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3. 生育調査&収量調査
まず、生育調査に関しては、1週間~10日ごとにレタス株の直径や草丈、葉数を調べました。調査する株は全部で300~400株程度のレタスを測定したので、単純作業ながら半日がかりという事も多々ありました。学生さん達の協力がなければ、一日でも終わらない量の調査だったかもしれません。

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レタス植え付け後、約6週間で収穫の日を迎えました。予想外だったのは、現在コロンビアは雨季のシーズンに突入しているため、ほぼ毎日のように雨が降り、その影響もあって、土壌病害が蔓延してしまったことです。一部の区画は、生育調査&収穫が出来ないほど葉に病害の影響を受けてしましったため、予定よりも1週間早めて収穫作業を行いました。

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収量調査では、主に新鮮重や外観品質を測り、最後に単位面積当たりの収量を算出しました。結果として、微細藻類を施用した区は、対照となる無処理区に対しておよそ2~4割程度の増収傾向となり、肥料効果の高さを確かめることができました。一方で、化学肥料を施した処理区と比べると、逆に2~3割程度の減収傾向となり、やはり化学肥料の効果・安定性に比べると、現存の微細藻類だけを施して経済的な収量性を確保するには、まだ諸々の検討が必要だなと感じました。


微細藻類ではありませんが、実のところ、私もかつて一度だけ、バイオスティミュラントやバイオ肥料に携わった事があり、その際に感じたのも、作物にとって増収や品質UPのような良い効果は確実にありそう、その一方で、化学肥料のようなはっきりとした増収効果は無さそう、という何とも痒いところには手が届かない資材だな…、というのが正直な印象でした。


しかしながら、試験を進めていくうちに、そんな私自身が予想以上に微細藻類たちの肥料効果に魅せられ、化学肥料に対するとまだまだ完全なモノではないものの、だからこそ、フロンティアとしての可能性に満ちているな、感じました。と同時に、土壌病害が蔓延する前に、早めに収穫に踏み切っていれば、より興味深い結果が出たのではないか、という「たられば」が湯水のように湧き上がってくるのも同時に思いました。


何はともあれ、今回の試験に至りましては、多くの先生方、職員、生徒の皆さんのご協力をいただき、本当に貴重で有難い栽培試験になりました。今後もまた、試験の検証や論文の執筆等まだまだ道は続きますが、まずはコロンビアでの活動を通した、微細藻類達との不思議なご縁に感謝いたします。

配属先圃場

JOCV2024-3・土壌肥料

佐藤 博友

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