JICA海外協力隊の世界日記

マラウイ便り

生活者としてみつめるマラウイ

名前:芳本歩実 隊次:2025年3次隊 職種:看護師 配属先:サリマ県病院

マラウイに来て、もうすぐ半年になる。マラウイでの1日の始まりはとても朝が早い。停電や断水を避けるため、朝3時頃から家事を始める。赴任当初、「マラウイ人の多くは朝2時、3時には起きる」と聞いたときには、「自分には数日も続けられないだろう」と思っていた。それが今では、すっかりこの生活にも慣れてしまった。

毎朝、手洗いで寝衣を洗濯する。任地のサリマは砂埃が多く、自宅のドアや窓は隙間だらけのため1日でも掃除を怠れば家の中はすぐに砂だらけになる。掃除機はないので、モップで掃除をする。防犯のため、自宅周囲のバーグラバーや窓に変化がないかも毎朝確認する。

停電していれば七輪で料理をする。風が強い日はマッチでなかなか火がつかず、炭も火が安定するまで時間がかかる。停電に備えて電気があるときには充電し、水があるときには水をストックする。

赴任当初は「なんて不便な生活なんだろう」と思っていた。しかし、慣れてしまえば不思議と何も感じなくなる。週末には片道5キロほど離れたスーパーまで自転車で買い出しに行く。任地のサリマは湖に近く、比較的暑い地域なので、停電していて30度を超える日は正直心が折れそうになることもある。

そんなとき、「日本に帰ったら、24時間いつでも水も電気も使える。それだけで幸せに感じるんだろうな」と思う。日本では当たり前だったことが、ここでは当たり前ではない。この経験は、きっとこれからの人生の大きな財産になるのだと思う。

そんな生活の中で、ある出来事があった。ある日、少し治安に注意が必要だと言われている場所を歩いていた。私は鞄をしっかり抱え、スマートフォンや財布を取られないように、何度も周囲を確認していた。知らない場所では、自分の身を守ることに精一杯だった。

そのとき、道端に座っている人に、一人の少年がお金を渡しているのが目に入った。私は「何か取られたらどうしよう」と考えていた。しかし、その少年が見ていたのは、目の前で困っている人だった。同じ道を歩いているのに、私とその少年では、見えている世界が違っていた。

その光景を見たとき、ショーペンハウアーの「世界は私の表象である」という考えを思い出した。私は「危険かもしれない」という世界を見ていた。一方で、少年は「困っている人がいる」という世界を見ていた。もちろん、自分の身を守ることは大切だ。海外で生活する以上、警戒することも必要である。それでも、あの光景を見てから、ときどき考えるようになった。同じ場所にいても、同じ時間を生きていても、見えている世界は一人ひとり違うのではないか。私が「不便」と感じることを、ここで暮らす人は「普通の生活」と感じているかもしれない。私には何気なく見える風景も、誰かにとっては大切な日常なのかもしれない。

マラウイに来て、私は「人との違い」を知る経験を毎日のようにしている。そして、自分自身がどんなフィルターを通して世界を見ていたのかにも気づかされている。だからこれからの活動でも、自分に見えているものだけで、この国や人を決めつけないようにしたい。分からないことがあれば尋ね、違いがあれば立ち止まり、その人が見ている世界を少しだけ想像してみたい。

私は旅行が好きで、学生時代には他のアフリカ諸国にも滞在したことがある。美しい景色や世界遺産を見ることも素晴らしい経験だった。けれど、そこでは得られなかった気づきが、今ここにはある。それは、旅行者ではなく「生活者」として、この国で暮らしているからこそ見えるものなのだと思う。

朝3時から始まる生活、毎日の停電や断水、砂埃の中を走る自転車、道端で誰かに手を差し伸べる少年。そんな何気ない日常の中に、日本では得られなかった学びや楽しさがたくさんある。まだマラウイでの生活は始まったばかりだ。2年間の活動を終える頃には、マラウイの景色だけでなく、自分自身が見ている世界も、今とは少し違っているのかもしれない。今日もサリマの道を歩きながら、そんなことを考えている。

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