JICA海外協力隊の世界日記

マラウイ便り

電波を求めて

名 前:佐藤 みのり
隊 次:2023年度1次隊
職 種:小学校教育
配属先:モンキーベイTDC(教師研修センター)
出身地:静岡県

赴任して早1年と4ヶ月、任地である南部モンキーベイの暑さにもだいぶ慣れてきました。さて、断水と停電は頻繁には起こらないモンキーベイですが、暑さ以外に私を困らせているものがあります。それは「電波」です。「E」やら「No Service」やらという文字がスマホの左上に表示され、その度にがっくりと肩を落としていました。そんな日々が約1週間続いたため、「提出書類もあるし、流石に電波を探そう」と決め、重い腰を上げ近所をうろうろし始めました。そして、安定に電波があるところを特定することができました。私の配属先であるTDCです。普段は小学校を巡回しているので、TDCには金曜日しか行きません。しかし、その日から家に電波がない時はTDCに通うようになりました。そして、作業を進めていると、思いがけず興味深い発見があったのです。

 1年前の赴任当初、TDCの室内温度が高いため、少しの間、外の同じ机を使って仕事をしていました。すると、通り過ぎる人がよく声を掛けてくれました。当時は「アズング(外国人)ボー!」「 〇〇○(前任者の名前)!」と言われることが多かったのですが、今は「ミノリ!」と声を掛けてくれる人がほとんどで、中には「コンニチハ!」と教えた日本語を使ってくれる人もいました。1年でこんなにも多くの人が名前を覚えてくれたのかと思うと少しジーンとしてしまいました。

 またある日のこと、同じように机で作業をしていると、4人組の男の子が周りに来て遊び始めました。「うるさいな」と思っていたのですが、私と話したそうにしていたので、作業を一時中断して一緒に遊んでみることにしました。ダンスお披露目会や肩たたき選手権をしたのですが、どれもクオリティーが高く、思わず自分が一番盛り上がってしまいました。その後、暗くなってきたので、「帰るね」と切り出すと、「傘直すよ」と言ってきました。私は日除け用の傘を使っているのですが、壊れており上部の骨組みが2つに分断していました。(そのまま使い続けている私も私ですが)思わず「直せるの?」と聞くと、「やってみる」とやる気マンマンの彼ら。すると、彼らはお互いの知恵を出し合い、あれやこれやと様々な方法を試し始めました。終いには、どこからか拾ってきたゴム製の廃材で断裂した2つの部分をくっつけることに成功しました。そういえば以前、廃材で鉄砲やボールを作って遊んでいた子ども達を見て感動しましたが、「ものに限りがあるからこそ、あるもので工夫して創造する」そんなマラウイアンキッズの発想の豊かさに、この日は改めて感心しました。

 またとある日のこと、作業をしていると別の仕事を終えたACCOが隣に座ってきました。ACCOとはTDCのコーディネーターで幅広い業務を担っています。そして、私のカウンターパートでもあります。ACCOとしての任務だけでも忙しいのですが、ここ半年は別の仕事も兼業で行っており多忙を極めています。14時頃、ACCOとしての業務や付属校の教員(先生としても働いています)としての業務を終えた後、21時頃までテレビアンテナを家に取り付けたり直したりする作業員として働き、モンキーベイ内を駆け回っています。彼には土日もありません。
この日、彼はポッケから徐にK100、K200と小銭を取り出し売上金を数え始めました。「娘の大学入学が1月からであと1ヶ月しかない。それまでに入学費と1年分の授業料K1,000,000以上を稼がなくてはならないんだ」と言う彼。私は彼の娘が医者になりたいことは知っていましたが、学費のことは知りませんでした。そして、1回の取り付け作業でK2,000と言っていたので、K1,000,000となると…、私は唖然としました。この半年間、ダブルワーク&休日返上で彼は一体何件の家を回ったのでしょうか。

休憩もそこそこに彼は、「次の家に行かなきゃ」と言い準備を始めました。そして、帰り際に「もし僕の娘が大学に行き医者になったら、地方からも医者になれるという証明になる。僕が教育者、そして親としての模範になるんだ」と力強く言い残しました。娘さんが優秀なことはもちろんですが、マラウイの比較的一般家庭から大学進学(しかも医学部)のために支援ができることは並大抵のことではありません。彼の苦労は私には計り知れませんが、教育者としての信念、そして親としての深い愛情が彼を動かしていることを感じました。

実はここ半年程、彼に対してモヤモヤ感じることが続いていました。赴任当初は、彼はいつも「ミノリの活動に協力するよ」と言ってくれる私の1番の理解者でした。しかし、最近は私の活動に興味を示さず、あまり協力してくれないように感じていました。そのため、彼と進めなくてはいけない活動がある時は強く言ってしまうこともしばしば。しかし、彼の背景を理解し、物事の一面しか見ずに自分のことがばかり考えていた過去の自分を反省しました。そして、1人の人間としてこんなにも素晴らしいカウンターパートがいることを改めて誇りに思いました。

 電波を求めて外に出ることで面白い発見や学びがあり、「電波が無いのもたまには悪くないな」と感じている今日この頃です。

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いつも座っている机(座高が丁度よく作業しやすい)

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たくさんの人が前を通り過ぎます

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傘を直す男の子たち

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学校終了後、作業員として働くACCO

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