2024/12/17 Tue
マラウイ登山のすゝめ
名 前:小牧 萌
隊 次:2023-1
職 種:栄養士
配属先:マチンガディストリクトホスピタル
出身地:神奈川県
私は登山が大好きである。日本にいた頃は毎週のように登山に出掛けていた。登山の魅力は語り尽くせないが、大きなものを3つ挙げるとするならば、①清々しく雄大な景色 ②身体が喜ぶ運動負荷 ③山ご飯の美味しさ である。
さて、マラウイには南部アフリカ最高峰の“ムランジェ山(標高3,002m)”がある。今回はこのムランジェ山の登山について紹介したいと思う。
ムランジェ登山に行くことを決めたのなら、まずは信頼できる登山ガイドと連絡をとる。コックとポーターの同行を依頼することを忘れてはいけない。相場を調べ値段交渉が成立したら事前準備はOK。
当日朝はマラウィアンペースで始まる。とにかくみんなマイペースなので、遠慮なく自分の要求を伝えることも大事だ。やっとこさ出発し、しばらく歩いて、「結構疲れたぞ?この先大丈夫?」と感じ始める頃、コックらが疲れ知らずな速さで先回りしてくれ昼食を用意して待ってくれている場所に着く。サンドイッチを食べた。その場で切ってくれたトマト、玉ねぎ、ピーマン。私が普段協力隊活動をしている任地では食べられないチーズ、ハム! お惣菜系だけではなく、甘い系も楽しめるようにと、はちみつ、ピーナッツバター、バナナなども用意してくれていた。背中に汗をびっしょりかき、木々に囲まれ景色を見ながら頬張るサンドイッチの美味しさたるや…!
夕暮れ時が近づくと山は一気に表情を変える。急にノスタルジックな気持ちになり、物思いにふけりながら歩みを進めると山小屋に到着。またも先に着き「待っていたよ~!お疲れ様~!」と手を振るコックらの微笑み、夕飯の支度のため焚かれた火からの白い煙が、気温がぐっと下がり澄んだ空気に温かく滲む。
山小屋には小屋仕事をする人が住んでおり、登山者が汗を流せるようお湯を沸かしてくれる。身体を流すための小さな小屋もある。身体が冷えてしまっていると凍えるが、小屋の隙間から空を眺めながらのこの時間は格別である。このように登山中に全身の汗を流すことができ清潔に過ごせる山はそう多くはないのではないだろうか。少なくとも私が日本で登っていた山々では汗拭きシートが必須であり登山中にこのようなことはできなかった。
月と星だけが光る中、灯された一本のろうそくで手元を見ながら夕飯を頂く。コックがボリューム満点で美味しい出来立て料理を運んでくれ、それをお腹いっぱい食べる。食後にはティータイムがあり、砂糖をたっぷり入れたココアで冷えた身体を温める。毎食後の楽しみである。山の空気、風、音をめいっぱい味わい、いい感じに満たされた頃、天然シダーウッドの香りとその焚火を眺めながら眠りにつく。
「朝ご飯が用意出来たよ~!」と起こしてもらい、寝袋から出て外に行くと、こりゃまた荘厳な景色が目の前に広がる。まだぼんやりした頭と顔でポリッジを頂く…これがまた堪らなく美味しい。うっとりしながら食後のコーヒーも堪能。「毎日こんな素敵な朝を迎らえたら…!」と誰しもが思うだろう。任地での辛く楽しい苦労が相まって「はあぁ、ここに住みたい~!」と声を漏らしていた。
山頂を目指す日。2,500mを超えたあたりから大きな岩がごろごろとした大地を進んでいくことになる。だんだんと両手を使わないと登れないような急こう配、絶壁よじ登り、とレベルが上がっていく。華奢だが驚異の身体能力を持つマラウィアンの手を借りないと自力では進めない岩場をさらに登っていく。標高が高い分、風と雲の影響が大きく、寒くなったり暑くなったりと体温管理にも気を遣う。「もう少し?いや、まだかー。そろそろ?んー、まだか…。」と何度も考えながら足を進める。「あと少しで着くよ!」と言われた頃、いや?…言われたか?分からないな?というくらいに進み続け遂に、頂上に着いたーーーーー!
下山は上りが上りなだけあってところどころ手伝ってもらいながら恐々下りる。下山は視界が広く、現在地がよく分かる。ここもあそこも登って来たんだな~としみじみしながらぐんぐん下って行く。山での時間が愛おしく、日常に戻りたくない衝動に駆られた。
一歩一歩、右左右左と、とにかく足を前に進めることで、はじめは届きそうもない高く遠い山頂にも辿り着くことができる、それが登山である。このシンプルな事実を感じたくて私は山に登るのかもしれない。ふと、協力隊活動においても同じことがいえるのかもしれないと思った。辛く楽しい道のりを、進めば変わりゆく景色や出来事を、楽しみながら、目指したい場所へ向かいたい。マラウィアンと一緒に一歩一歩。“任期の終わり”が“下山”なのだろうか。いつになるのか分からないが、きっとマラウイでの時間が愛おしくなるはずだ。
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