JICA海外協力隊の世界日記

マレーシア便り

#21 元協力隊とのコラボイベント『お互いさま』を日本からマレーシアへ

"Kebaikan yang ikhlas.(見返りを求めない優しさ)"

理学療法士隊員の三井健司です。「お互いさま」は私の好きな日本の言葉の一つです。

「お互いさま」という言葉には、日本人の暮らしと心の在り方が凝縮されています。もともと農村社会に根づいた助け合いの精神から生まれ、困ったときはお互い様、という考え方は、恩返しではなく、当然のこととしての相互扶助を意味しています。

今回は以前のマレーシア協力隊員(以下Old Volunteer: OV)の中鉢(奥山)典子さんとの連携企画をお伝えします。彼女が8月10日~12日にかけてマレーシアのサラワク州クチンのサラワク州立図書館などのクチンの複数の施設で「お互いさまイベント」を開催するとのことでクチン隊員である相坂智紗子さんとともに参加しました。

先ずは、中鉢さんについてです。彼女が日本で行っている取組みについてコメントを頂きました。

私が帰国してから、クチンの友人ハムザから連絡を受けました。「東日本大震災が起こってすぐに震災ボランティアとして東北に行きたかった。でも、当時の上司から、福島は放射線が危ないと言われ許可が下りなかった。だから、典子が住んでいる福島の人たちと自分をつないでほしい。そして友達になったら、彼らの実態を知って、何をしてほしいのかを理解してから自分ができることで力になりたい」と言ってくれたのです。私の大好きなマレーシア人が、大好きな福島のためにこのように想いを寄せてくれているのが嬉しくて、「ともだち・カワン・コミュニティ」(以下、カワン。カワンはマレー語でともだちの意)を立ち上げました。それから私たちは、「わたしはひとりじゃない!互いに心で抱きしめ合う世界を」をミッションに、「違うって楽しい!」と感じられるイベントを通して心の交流を深め多様性社会を拡大しようとしています。

ともだちカワンコミュニティFacebookページ

福島の今を世界に発信する映画をマレーシア人と共に撮影したい!(中鉢典子(ともだち・カワン・コミュニティ代表) 2020/01/20 公開) - クラウドファンディング READYFOR

中鉢さんが現在行っている活動はJICA海外協力隊のサイトでも取り上げられています(中鉢さんの日本での取り組み)。ぜひご覧ください。


8月10日

『お互いさまの街の日本での実践紹介の講義』(講師:中鉢さん)

3日間で行った「お互いさまイベント」は、日頃カワンがNPO法人チームふくしまと連携して広めている「お互いさまの街ふくしま」のクチンバージョンとして実施したものです。「お互いさまの街ふくしま」は、「困ったときはお互いさま」という考えをもとにしており、福島の至るところに「お互いさまチケット」を始めとする相互扶助の仕組みを広めています。「お互いさまチケット」は、前に来たお客さんが次のお客さんのために前払いしたチケットで、それを見せると食事やサービスが無料または低価格で利用できるというものです。「困ったときはお互いさま」は、カワンが大切にしている、「自分ができることで他の人を幸せにする」、という考え方と共通しています。そこで今回は、中鉢さんがボランティアとして勤務していたサラワク州立図書館を中心に「お互いさま」に関するイベントを実施して、福島のお互いさまの取り組みを紹介すると共に、マレーシア流のお互いさまの精神や取り組みを紹介してもらうことにしました。

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今回のイベントは講義の他に、中鉢さんが「お互いさまの街ふくしま 発 “恩送り”が世界を変える!: 仕事も人生もうまくいく究極の生き方」につというタイトルの本を出版されたため図書館への贈呈式も行われました。

世界日記おたがいさま (3).png中鉢さんは、この本を書く大元となったのは、マレーシア人から優しくされた経験だったと言います。中鉢さんは青年海外協力隊としてマレーシアに派遣される前に、「マレーシア人のためになることをしてあげたい」と思っていました。でも実際は、『現地で助けられたのは自分だった』と言います。通勤中に自転車がパンクした、スコールで帰れない、クチン隊員3人で企画したイベントを実施するために課題が山積み・・・そんな時に手を差し伸べてくれたのはマレーシア人でした。その他にも、人生の楽しみ方を教えてくれたのもマレーシア人です。人生の幅を広げてくれたマレーシア人のために恩返ししたくて、帰国してからマレーシア人やムスリム(マレーシアにも多くいるイスラム教徒)と仲良くなる企画を始めました。当時は、本のタイトルにもなった「恩送り」という言葉は知りませんでしたが、振り返るとこの活動こそが恩送りだったのだと気付きました。そこで、この寄贈式では、ボランティア中に中鉢さんを支えてくれた図書館職員や友人に感謝の言葉を伝えて本を寄贈しました。そして、当時の中鉢さんの上司で現在の図書館長より、相互扶助の重要性についてお話をいただきました。

『流しそうめん体験』

講義後は、日本文化を体験する時間です。夏の風物詩「流しそうめん」を竹で土台を作って本格的に体験しました。クチン初上陸(現地スタッフ談)とのことです。


8月11日

『幼稚園訪問』

じゃんけんを使った知育遊びやラジオ体操を幼児と一緒に楽しみました。

『クチン市内の家庭訪問』

ともだち・カワン・コミュニティマレーシア代表ハムザさんがボランティアで行っている障害を持つ高齢の方、生活困窮する方などのご家庭を支援する活動に同行しました。各家庭にお菓子を配り、『いつもあなたのことを気にかけていますよ』ということを感じてもらいます。ハムザさんが私のことを理学療法士として紹介してくださったので、脳卒中の方の身体・能力評価と簡単な運動を伝える時間を頂けました。

『Asrama Akhlak Lelaki(男児養護施設)訪問』

事情により自宅で暮らせない児童・青少年たちを一時的に保護し共同生活する施設です。教育の機会を確保すること、宗教的な指導、基本的な生活支援をすることが目的です。地域外の子も入所しています。彼らの大好きな日本のアニメ(NARUTO、ワンピース、鬼滅の刃など)の話題で話が盛り上がりました。

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8月12日

Heart Tresures(障害者自立支援と社会的包括を目的とする社会的企業)訪問』

ここに所属する心身に障害を持つ方たちは無限の可能性を持った『エンジェル(天使)』として呼ばれています。彼らは「アーティザン(職人)」として様々なハンドメイド製品を制作しています。作品を販売することで、活動資金を賄い、生きがいとなるセラピー(創作活動)を継続しています。Heart Tresuresは、彼らが作った作品に対する敬意と評価、そして彼らの尊厳を取り戻すことを目的としています。彼らが職人として認められ、自身の人生を自分らしく生きるための機会を提供しているのです。一つの例として、エンジェルが給料をもらってくることで、それまで親から認めてもらえなかったエンジェルが「自分が作った物でお金をもらって帰ってきたのか」と親に認めてもらったということもあったそうです。

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Kolej DPAH Abdillah(中等/高等学校)訪問・講義』(講師:中鉢さん)

クチンにある中等/高等学校で「お互いさま」文化についての講義、その後に生徒さんたちと一緒に流しそうめん体験を開催しました。
日本語を第二外国語として学んでいる生徒と「お互いさまの精神」についてディスカッションしました。まず、中鉢さんから福島で行われている「お互いさまチケット」の紹介と本の寄贈、「お互いさまの街ふくしま」を実際に訪問して交流をしたことのあるハムザさんの経験のシェアを実施しました。その話を聞いた上で、生徒に「周りの人のために自分ができること」を、日本から持っていた七夕の吹き流しに書き込んでもらいました。そしてそれを「お互いさまチケット」と見立てて、チケットを出して流しそうめんを食べるという体験をしました。


現代では、災害支援や多文化共生の場面でも「お互いさま」の精神が生きており、上下のない関係性や共感の土台として機能しています。感謝に対して「お互いさまです」と返すことで、相手との距離を縮め、対等な絆を築くことができます。この言葉は、見返りを求めない優しさと、共に生きる知恵を象徴しています。今回の中鉢さんとの連携を通してこの言葉の素晴らしさを改めて実感しました。

お読みいただきありがとうございました。

”Hadiah dari hati.(心からの贈り物)”

執筆者:スランゴール州クアラクブバル 理学療法士 三井健司

協力者:マレーシアOV 中鉢(奥山)典子(ともだち・カワン・コミュニティ代表)

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