2025/10/04 Sat
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#22 自然と繋がる『森とイバン族の穏やかな共生』


"Kembali kepada niat asal.(初心に戻る)"
理学療法士隊員の三井健司です。マレーシアのボルネオ島、それは世界最古とも言われる熱帯雨林が広がり、オランウータン、ボルネオゾウなど希少動物が生息している日本2個分の大きな島です。そこにはイバン族をはじめとする先住民族が住んでいます。かつては首狩りの習慣があった民族も存在します。
今回は、ボルネオ島サラワク州クチンに赴任している隊員、相坂智紗子さんに2025年9月14~16日に参加されたイバン族文化を体験するアドベンチャーツアーを紹介して頂きます。以下、相坂さんから頂いた文章です。
『ボルネオ・サラワク州、森と人との共生を巡る旅』
1日目
サラワク州の州都クチンに、マレー半島の隊員仲間たちが海を越えて集合してきました。ここから旅が始まります。車で4時間、バタン・アイ湖に到着。そこからさらに、イバン族の水先案内人が操縦するロングボートに2時間揺られ、森の奥深くへ入っていきました。そこには、動植物とイバン族の暮らす豊かな森が広がっていました。
到着したのは、彼らが住むロングハウスと呼ばれる伝統的な共同長屋が残る地域、ナンガ・スンパ(イバン語の地名)です。
夕食後、私たちはナンガ・スンパのロングハウスを訪れました。40戸ほどの家族単位の個別部屋があり、中央の150mもの長い廊下は、居住者150人の共同スペースです。この廊下では、子どもたちが遊んでいたり、大人はおしゃべりをしたり伝統工芸のカゴ作りをしたり…住人それぞれが思い思いで過ごしていました。家族より少し大きなコミュニティが、ロングハウスの大きな一つ屋根の下に存在していました。
私たちとツアーガイド、ロングハウスの長と複数の家族が車座になり、顔を合わせます。イバン族の振舞い酒“トアック(ライスワイン)”をみんなで飲みながら、ここでの暮らしについて教えていただきました。情報社会を享受しつつ、私たちのようなツアー客をもてなし、観光業を生業の一つとして森での生活を続けるイバン族の方達。森と共に生きる人たちの優しさと、穏やかな強さを感じました。
2日目
再びロングボートに乗り、水流を遡ります。深い森の緑は色鮮やかで、本当に綺麗でした。川沿いをハイキングし、野生のオランウータンを探します。彼らの気配を感じるため、静かに耳を澄まし、嗅覚を研ぎ澄ませます。と、イバン族のリッピさんが、大きなジェスチャーで私たちを呼んだその先に、2頭のオランウータンが樹上に姿を現しました。警戒心をむき出しにしたような険しい表情と雰囲気が伝わってきました。イバン族は、オランウータンを一人、二人…と数えるそうです。世界でもこの地域だけに住まうボルネオの“森の人”に出会えたことは、本当に幸運でした。
この日の昼食は、イバン族による川辺のバーベキューです。竹筒に鶏や米、ハーブを詰めて蒸し焼きにする伝統料理“パンソー”は、私が今まで食べてきた鶏料理で一番の美味しさでした。手際よく、食事を準備してくださったイバン族のみなさんは、ここでも大活躍でした。
そして夜、ろうそくの灯るテラスで、オランウータンの生態やボルネオ熱帯雨林を取り巻く社会環境についてのお話を、ガイドのニックさんからお聞きしました。オランウータンの体毛が赤褐色なのは、熱帯雨林の光環境でカモフラージュ効果があるため、熱帯雨林の焼畑は年中暑いこの地域の転作に必要な作業であることなど、みんなで一生懸命、マレー語のお話を咀嚼しました。


3日目
バタン・アイの森と文化に触れた時間とはお別れです。名残惜しくもホッとしたような気持ちで、来た道を辿り州都クチンに無事に戻ってきました。
ボルネオの深い森に包まれた3日間を通して、オランウータンをはじめとする豊かな動植物の息づかいを感じ、そして彼らとともに生きている現代のイバン族の人たちが、昔からの生活スタイルを継承しつつ、都会と森での生活を緩やかにつなげていることを知ることができました。私の任地であるサラワク州でのこの満ちた旅の経験を、共感できる仲間と共有できたことにも心から感謝しています。
以下、三井の文章。
旅を通して、自然信仰を生活の中心に据えるイバン族から、現代の物質社会で暮らす私たちへ1つの問題提起があったと受け取りました。何が成功で、何が幸せなのか。ないものは無く、足るを知る。一言で例えると,,,,,
”Anugerah dari alam semula jadi.(自然からの贈り物)”
を彼らは大切にしていると言えるのかなと思っています。お読みいただきありがとうございました。
サワラク州クチン 作業療法士 相坂智紗子
スランゴール州クアラクブバル 理学療法士 三井健司
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