2025/02/26 Wed
活動
隊員 G のセントルシア日記 〜 Chance ・ Challenge ・ Change 〜


JICA海外協力隊2024年度2次隊セントルシア国派遣の⻄浦誠と申します。定年退職した65歳のG(爺)ではありますが、どの世代の協力隊仲間にも親しく「まこっちゃん」と呼んでもらい ながら、2 度目の人生を元気に明るく歩んでいます。配属先のコミュニティーカレッジでは、さすがに Makocchanは発音しにくい様で、学生たちは私のことを「Mr. Mak」と呼んでくれています。
1度目の人生、私は私立学校で中学生・高校生の数学教員を務めて、41 年間の経験値を手にすることができました。そのうち6年間は教頭職にも就きましたので、マネージャー経験も有しています。また同時に、「将来は海外で仕事がしたい」との想いを、在職中からずっと温めていました。しかし、私学は卒業生とのつながりが強く、彼らとの縁を円満に継続しつつ、 かつ自らの夢を実現するためには、定年退職まで勤め上げる 必要がありました。そして退職後は、日本語教師の資格をとって海外の日本語学校で働くことや、海外勤務の子弟が通う日本人学校に再就職することを考えました。しかし、年齢に関するバイアスは根強く、夢を叶える道を切り拓くことは中々できませんでした。ところが、JICA 海外協力隊は、何と「69歳まで応募可能」と、門戶を広げてくれているではあ りませんか。今年60周年を迎える海外協力隊の派遣事業は とても成熟した状態にあり、人生100年時代を迎えようとする社会変化への対応も、とても柔軟なものとなっていたのです。


私の任国・セントルシアは、東カリブに位置する島国です。淡路島とほぼ同じ面積の国土に、 約18万人の国⺠が日々の暮らしを営んでいるのですが、他の小さな島国の例に漏れることなく、生活必需品を海外からの輸入に頼っており、物価が高いことにはいつも驚かされます。しかし、セントルシアン達はそんなことは気にも留めず、日々の生活を楽しんで、とても幸せそうに見えます。トロピカルな太陽のもとで、笑顔がとても輝いて見えるのです。配属先は、Sir Arthur Lewis Community Collegeです。中等教育修了後の教育を担っており、4年制大学、2年制短大、職業専門学校など、さまざまプログラムを併せもっています。私の協力隊応募時の要請内容は、「教員を目指す学生のサポートをして欲しい。」ということで、数学教授法や教育実習などに携わる役割が期待されていました。ところが、いざ蓋を開けてみると、「とりあえず最初のセメスターは、理系の数学授業にチームティーチングの形で入り、授業や課外において、学生たちが知識や技能を習得するための支援を行なってくれ。」と言うではないですか。任地において私に何ができるのかをしっかりと見極める期間と位置づけよう、と私は心を決めました。


異国における数学の授業は、41年の経験をもつ私にとっても、とても新鮮で興味深いものとなっています。例えば、日本では分数やルートや円周率πなどをそのまま残して解答することを良しとしているのですが、ここセントルシアは旧宗主国・イギリスの影響を受けたのか、関数電卓を用いて小数の形で答えることが常に求められます。自然科学の中で数学が果たす役割について、私自身あらためて考えさせられる機会となっています。また、90°以上の角度のサイン・コサイン・タンジェントについては、日本の教科書であれば単位円を利用して定義するのですが、こちらでは参照角 (reference angle)と呼ばれる 90°未満の角度の三角比を利用して求めます。そして、簡単な式の変形に際しても、「移項」の概念が使われることは余りなく、両辺に数を加えたり、両辺を数で割ったりする操作が好まれている様です。何よりも本質を大切にしようとする心をうかがい知ることができます。
数学の授業において先生が使う言葉にも、大きく心を揺さぶられる毎日です。もちろん、先生の個性によって、授業中に使う言葉には違いがあることでしょう。しかし、学生の理解度を確認する際、私ならば「分かるかい?」とか「理解できたかい?」などと簡単な直球で声掛けを行なうのです が、「本当だと思うかい?」(True?)とか「私と一緒にいるかい?」(Are you with me?)など、ちょっとドキッとするような表現が使われるのです。また、生徒を褒める際にも、「私の生徒たち!」 (My Students!)や「あなたたちは私の誇りよ!」(I am very proud of you!)など、ノン・ ネイティブの私にとっては最上級とも思えるロマンチックな褒め言葉が、小さな成功体験に対しても惜しげなく使われるのです。(念の為に申し添えておきますが、私の担当しているのは、 大学生の授業なのですよ。)風土や文化、習慣の影響を受けて国⺠性が異なると、ここまで考え方や表現方法に差が出るのかと、私は感動に近い思いを通り越して、驚きを楽しんでさえいます。
プロフェッショナリズムの定義は様々です。高い専門性はもちろんですが、実践に際しての倫理観や、社会基盤である多文化共生への理解、そしてコミュニティーに還元しようとする心も求められるのではないでしょうか。私の教員経験の専門性はプロフェッショナリズムと呼ぶには少々恥ずかしいところもあるのですが、思い切ってJICA 海外協力隊の世界に飛び込みました。そして今、人の役に立つことに幸せを感じながら、味わいのある豊かな第二の人生を歩んでいます。あなたも、あなた自身のプロフェッショナリズムをJICA海外協力隊の活動に活かしてみませんか?「Chance」があれば「 Challenge」してみること。そして、その「Challenge」によって人生を「Change」してみること。いかがでしょうか。Are you with me?
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