JICA海外協力隊の世界日記

セントルシア便り

隊員Gのセントルシア日記_97 〜Artificial Intelligence〜

 今回は、セントルシアの学校教育を揺るがすAIについて、お話をしたいと思います。私の配属先のカレッジでも、宿題(評価対象)の問題を、AIの力を借りて解く学生がいます。今はもう、宿題を写真撮影して、AIに見せるだけで、瞬時に解答を導き出してくれますので、難しい操作は不要です。やろうと思えば、誰もが、簡単にAIを利用して、宿題を仕上げることができるのです。宿題の出来がとても良いので、気分を良くしていると、その後の小テストの点数は低く、がっかりさせられる例が少なくありません。小テストは教室内で実施しますので、さすがにAIに頼ることはできませんからね。「宿題にしっかり取り組まないと、知識や技能が身につかず、小テストや最終テストで合格点が取れないよ。」などと、懸命に説得を試みるのですが、それでも楽な方へと流される学生は後を絶ちません。それならば、と言わんばかりに、YuJa Verity というオンライン作業を監督するアプリを導入し、作業中の動画とともに、評価物を提出させる先生まで出てきました。教師と学生の美しい信頼関係は、一体どこへ行ってしまったのでしょうね。

 これまでは、中等教育の卒業試験(CSEC)や大学進学等に用いられる資格試験(CAPE)において、School-Based Assessment(SBA)という、学校単位で評価される調査やレポートやプロジェクトなどの学習活動も、成績の一部として組み込まれてきました。ところが、例によって、数学や理科や英語などのSBAにおいては、AIによる代作との判別がしづらい、という状況が発生するようになったのです。そこで、この夏、統括するCaribbean Examinations Council(CXC)は、非実技科目のSBAを、Paper 032という試験形式(試験会場実施)に、順次切り替えていくことを発表しました。「どのレベルの知識と技能があれば、合格して入学することが出来るのだろう?」という大学現場での不思議は、解消されるのでしょうか。 

 私は、2023年3月に大阪の私立学校を定年退職しましたが、その頃は、まだ教員とAIとの利害関係は認識されていませんでした。ちょうど、ChatGPTの足音が、日本の職員室にも聞こえ出した頃で、興味本位の期待感をもって、成り行きを見守っていたような記憶があります。「生成AIは、Python(プログラミング言語)でプログラムを書いてくれるらしいぞ!」「定性評価のルーブリック(評価基準表)も提案してくれるらしいぜ!」と、新しもの好きの教員が情報を提供してくれる日常がありました。実際に、簡単な命令をAIに送ってみると、まるで魔法を見るかのように、ほんの数秒で答えを導き出してくれるではありませんか。私も、それまで妻に頼んでいた文章原稿のフィードバックを、早速AIに依頼するようにしました。忙しい妻の場合は、待ち時間も入れると1〜2週間ほどかかっていたのですが、AIの場合は待ち時間もなく、あっと言う間にフィードバックを与えてくれるのですから。

 さて、現在は、JICA海外協力隊として、カレッジで学生に数学を教える日々です。教科書がありませんので、教材を自分自身で創作する必要があるのですが、生成AIがなくてはならない存在となっています。読者の皆さんが、AIをどのように位置づけておられるかは、千差万別であることでしょう。少なくとも、私にとっては、膨大なデータベースの中から、瞬時に適切な演習問題を選び出し、提案してくれる、忠実で心強い仕事仲間です。もちろん、最終的には私自身が、学生の学力に合わせて取捨選択し、問題を精選する必要があります。解答例も、たまに間違っていますので、入念なチェックが必要です。しかし、数学記号の表記に、世界標準のLaTexを使用してくれますので、エディターとの連携もシームレスで、ストレスを全く感じません。大幅な時間短縮によって生まれた時間を、学習者主体の学びを実現するための創意工夫に充てることができるのです。

 そして、学生たちには、究極のAI利用法を推奨しています。それは、

「先生がどんな問題をテストに出題するかを、AIに尋ねてごらん。」

です。きっと世界中のデータベースの中から、無尽蔵に、相応しい練習問題を与えてくれることでしょう。命令によっては、解答例だけでなく、気を利かせて、学習方法に関するアドバイスを与えてくれるかもしれませんよ。とてもフェアで、学生たちのためになる、AI利用法だと思いませんか。

 ただし、AIが間違う可能性があるので、ご用心。少しでも「おかしい!」と感じたら、先生に相談してね。また、予想問題がズバリ的中する可能性を、期待する人がいるかもしれません。残念ながら、さすがに、テスト作成には、私はAIを利用しませんよ。

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