JICA海外協力隊の世界日記

セントルシア便り

隊員Gのセントルシア日記_6 〜Formative Assessment & Summative Assessment〜

 私の小学校、中学校、高等学校時代、もう50年ほど前の話で恐縮ですが、学期の終わりに通知表をもらって一喜一憂するのが、何やら恒例行事のようになっていました。5段階評価にせよ、100点満点評価にせよ、その学期の自分の頑張りが数字になって突如姿を現す瞬間を、ワクワク、ドキドキしながら楽しみに待つことのできる昭和の少年だったようです。もちろん、「え〜っ、なんでぇ〜!」とショックを受ける時も多々ありましたが、今は亡き母親がいつも上手く慰めてくれました。もしかすると、この学期末の光景、古今東西を問わず、100年前も、現代も、セントルシアでも、日本でも、それほど大差はないのかもしれません。しかし、今、この評価の仕方に疑問が投げかけられ、変化が生じ始めていることをご存知でしょうか?

 私は、現役教員の頃、バレーボール部の顧問を務めていました。公式戦での勝利を大喜びするような典型的な部活レベルのクラブではありましたが、選手達は皆、真剣に日々の練習に取り組んでいました。そして、いざ試合となると、もちろん顧問の私も、勝ちたいという気持ちを隠すことはできません。「得点を見ろ!」「ここで追いつくぞ!」「あきらめるな!」「肘が下がってるぞ!」などと、絶えずベンチからコートに檄を飛ばします。そして、胸突き八丁では30秒間の作戦タイムをとって、選手達に水分補給をさせながら、「苦しいのは相手も同じ!」「次の1点のために厳しい練習をしてきたんだぞ!」とチームの気持ちを一つにするようなアドバイスを送るのです。

 さて、もし仮にこのバレーボールの試合、得点板が取り除かれて、試合終了後に初めて両チームに得点結果が知らされるような形にルール変更されたならば、どんなことが起こるでしょうか?その時その時の得点を選手達と共有して、コーチングの声かけを行なっていた監督も、その言葉に勇気づけられて体力と気力を振り絞ってプレーを続けていた選手達も、間違いなく途方に暮れてしまうことでしょう。そして、お待たせしました。話を冒頭に戻すと、学期末に初めて得点を知らされる通知表の教育的効果については、試合終了後に初めて得点結果を知らされるこの恐ろしい仮想バレーボールが如実に物語ってくれているのです。

 もちろん、学期末や年度末に、学習目標がどれだけ達成されたかを評価する総括的評価(Summative Assessment)を否定する気持ちは全くありません。学習途上において、子ども達一人一人の理解度を把握し、学習活動の改善に繋げるために、繰り返し行う形成的評価(Formative Assessment)を併用することが大切ではないか、と考えているのです。学習者に対して、「得点に向き合おう!」「ここでみんなに追いつくよ!」「あきらめてはいけない!」「しんどいのは君だけじゃない!」など、勇気づけの言葉をかけたり、次へとつながるフィードバックを行ったりする評価を、学期や年度の終わりではなく、学期途中に幾度か実施するのです。

 翻って、私の配属先であるサー・アーサー・ルイス・コミュニティー・カレッジでは、評価の現状はどうなっているかというと、例えばシラバスに次のように記載されている科目があります。継続的評価(平常点)が宿題25%・小テスト①25%・小テスト②25%・小テスト③25%の合計100%、総括的評価(最終試験)がセクションA2問20点・セクションB3問40点・セクションC3問40点の合計100点。ここで、継続的評価については、宿題も小テストと同様に点数をつけて返却されますので、試合終了まで学生が自分の立ち位置(得点)を全く知らないということはあり得ません。勇気づけの声かけや、フィードバックについても、「オフィス・アワー」という学生を個人指導するための時間が、教員ごとに割り当てられていますので、実施可能な環境が整っている、と言うことができます。

 私は、2年間の活動期間中、この形成的評価(Formative Assessment)を「数学学力の向上」というミッションの中核に置きます。One on One の形で学生達と面談して、勇気づけの声かけを行いながら、学習改善につながるフィードバックをどんどん発信していきたいと考えています。ボランティアの私にも、とても立派なオフィス14 が与えられていますので、活用しない手はありません。

 学生達が届けてくれる「Thank you, Sir!」の響きは、私をたまらなく幸せな気持ちにさせてくれるのですから。

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