2025/05/28 Wed
アウトドア 自然
隊員Gのセントルシア日記_17 〜Gros Piton & Petit Piton〜


セントルシアには、2004年にUNESCO世界遺産として登録された自然遺産があります。スフレ地区にあるGros Piton とPetit Piton を含むPiton Management Areaです。まるで双子のような麗しい2つのピトン山、これまでにどれだけ多くの人々を魅了してきたことでしょう。私も出会った瞬間に、見事に心を奪われてしまいました。ともに火山なのですが、噴火はしていません。マグマが地殻の割れ目などを通って、地表付近まで上昇してきた結果、地面が押し上げられることによって出来た円錐形です。もちろん近くには、標高450mほどのMorne Soufと呼ばれるドーム状の隆起もあります。さて、Gros Piton は798.25m、Petit Piton は743mです。もし仮に、マグマがもう少し地表近くまで上昇してきたら、果たしてどうなっていたのでしょうか。素人愛好家の邪推で恐縮ですが、ピトン山はより高く隆起し、自重に耐えられなくなり、途中で倒れてしまうという悲劇を辿ったのではないでしょうか。双子のピトン山は、それぞれが余り珍しくないドーム状になる可能性と、成長し過ぎて途中で折れてしまう可能性を同時にもっていたのです。2つの山が、秘められた可能性を共に乗り越え、仲良く美しい姿を残してくれたことは、もう奇跡としか喩えようがありません。もちろん、25万年の歳月をかけて侵食を繰り返した末の傑作ではありますが、奇跡が世界遺産に登録されていることに、私は感慨を覚えずにはいられませんでした。


スフレ地区のSoufriere はフランス語で、「硫黄の出口」という意味です。大西洋プレートがカリブ海プレートの下に沈み込むあたりに位置する東カリブ諸国は、火山活動が活発です。そして、多数の国や地域で、このSoufriere という言葉が使われているのです。例えば、セントルシアやドミニカでは町の名前として、セントビンセントやモントセラトでは火山の名前として。また、前述の半球状のドームを成すMorne Souf も「硫黄の丘」ほどの意味ではないか思われます。サルファー・スプリング という泥温泉が、このドームの隣にありますので、私はいつも温泉に浸かりながら、その雄大な地殻運動の姿を味わうことにしています。水着を着用して入浴する温泉なのですが、火山灰や粘土質などの泥まじりですので、最初は少し抵抗がありました。しかし、38度の暖かい湯や泥パックなどを、多国籍の老若男女の利用客と共に楽しむことができます。非日常の癒しを求める方には、特にお勧めですよ。


日本の富士山は、世界中の誰もが認める秀峰です。しかし、一方で「富士山は眺める山であり、登る山ではない。」という言説もあります。私も、二度ほど富士登山を経験しましたが、確かに、火山岩を踏みしめながら果てしなく歩きますので、まるで異なる星を歩いているような感覚にさえなります。しかし、私にとっては、一夜を過ごした山小屋で見た満天の星空や、清々しく澄んだ大気を通して拝んだご来光、そして3776mの日本最高地点に自力で立ったという達成感は、かけがえのない特別な体験であったのです。翻って、セントルシアのピトン山についても、全く同じことが言えます。私にとっては、もちろんビュー・ポイントから愛でる山ではあるのですが、かつ冒険の旅で目指す場所でもあるのです。おそらくは、美しい双子のピトン山のそれぞれの頂上から望む絶景を、この目で確かめて、息を呑んでみたい、という思いに恋焦がれているのでしょうね。サボることなく、体力トレーニングに励みます。
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