2025/07/20 Sun
自然
隊員Gのセントルシア日記_26 〜Sense of Wonder〜


「美しいものを愛でる心」が、私自身の中で劣化しつつあるのではないか、と不安になることがあります。「美しいものを観て美しいと感じる心を大切にしましょう。」と、常々子どもたちに話をしてきた西浦先生が、です。お恥ずかしい話です。ところが、セントルシアの大自然は、私の「センス・オブ・ワンダー」(神秘さや不思議さに、驚いたり感動したりする感性)を、呼び覚ましてくれました。休日を利用して、Piton Flore という熱帯雨林(Tropical Rain Forest)をトレッキングしたときのことです。初めてセントルシアの熱帯雨林に足を踏み入れることになりますので、私はとても緊張していました。そう言えば、言語や文化や習慣の異なる海外を旅するとき、私は常に、五感が研ぎ澄まされるような緊張感をもちます。この日、ちょうど同じような感覚をもちながら神秘の森を歩き始めたのです。すると、多種多様でダイナミックな生命活動が繰り広げられるレイン・フォレストの中で、小さな生命が可憐にたたずむ姿に出会えるではありませんか。もちろん、色が違えば、花びらの形や枚数も異なり、それぞれの個性をうまく表現してくれます。気の遠くなるほどの世代交代を繰り返す中で、環境への適応を試み、力強く生き残ってきたことでしょう。もしかすると、この森の中で、数え切れない生命が淘汰の憂き目を見たかもしれませんね。美しさに心を動かされたのはもちろんですが、自然の摂理に思いを馳せる機会にも恵まれました。「センス・オブ・ワンダー」が、自分自身の体の中で目を覚ましてくれたようです。とても幸せなことです。


熱帯雨林は、温帯モンスーン気候の森とは、全く異なります。特にシダ植物がびっくりするほど、大きい。私たちに馴染みのある裏白は、正月飾りとして、鏡餅やしめ縄や門松などの装飾に利用されるだけあって、コンパクトでありながらも厳かさと品格を備えています。ところが、レイン・フォレストのシダ植物は、木生シダといって、木のように数メートルの高さまで成長し、圧倒的な存在感があるのです。また、太古の昔より、胞子によって増え続けており、生きている化石とも呼ばれています。恐竜の時代にも、同じような風景が広がっていたと想像するだけで、「センス・オブ・ワンダー」が掻き立てられる、というものです。そして、種子植物が裸子植物や被子植物へと進化を遂げるのを尻目に見ながら、全く動じることなく、悠久のときを自分らしく生き抜いてきたのです。私は、彼らの中に神秘的な美しさを感じずにはいられませんでした。


「マインドフルに熱帯雨林の自然を感じたい」という想いから、今回は私ひとりだけの単独トレッキングに挑戦しました。ご心配の向きがあるかもしれませんが、どうぞご安心ください。今は、とても便利なトレッキング・アプリがあって、お勧めのルートを紹介してくれます。そして、事前にルート・マップをダウンロードしておけば、(Wi-Fiの電波がなくても)GPS機能だけで、ルート上の現在位置を教えてくれるのです。今回、分かれ道が倒木にふさがれており、一時ルートを外れることがありましたが、「ルートを外れていますよ!」とアプリが親切にメッセージを届けてくれました。おかげで、迷子にならずに済みました。また、さまざまなスマート・フォンのセンサーを使って、移動距離、移動高度、所要時間、実際に歩いた足跡などを正確に残してくれます。まさに、優秀なトレッキング・ガイドの役割を果たしてくれる、心強いアプリなのです。
アプリには、もう一つ、お役立ち機能があります。口コミ情報を共有することができますので、トレッキング愛好家たちが、コミュニティーを形成しているのです。私も、今はまだ見ぬローカル・ルシアンと素敵な出会いがあることを願いながら、今回のトレッキング情報を発信しました。「センス・オブ・ワンダーがとても活発になりました。是非お勧めしたいトレイルです。」というメッセージを添えて。
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