2025/08/09 Sat
登山 自然
隊員Gのセントルシア日記_29 〜Summit of Petit Piton〜


セントルシアには、世界遺産があります。スフレという港町の近くにある双子の火山、プチ・ピトン(約743m)とグロ・ピトン(約798m)を含む豊かな自然が、ピトン・マネジメント・エリアとして2004年にユネスコの世界遺産に登録されたのです。どちらの山も噴火はしておらず、マグマが上昇する過程において、地面が押し上げられて隆起したものです。もし仮に噴火していたら、今とは大きく形を変えていたことでしょうから、「よくぞ、この状態で仲良く止まってくれました!」と、奇跡が2つ並んでいる様子を思わず賛美したくなります。セントルシアで協力隊活動を始めて以来、ピトンの山姿を愛でる機会には、幾度も恵まれました。高台のビューポイントからの絶景には、神々しさを感じました。山麓から見上げたときは、そそり立つ様に迫力を感じました。双子の山に挟まれた海岸線から眺めたときは、海からの隆起であることを思い知らされました。そして、海に浮かべたボートから見た姿には、人を寄せつけない荒涼感がありました。そして、次第に「頂上に立つと、どんな風景が広がっているだろう。」という探究心を募らせていくことになりました。
グロ・ピトン(大ピトン)にはハイキング道が整備されており、ガイドとともに楽しく登ることができます。これに対して、プチ・ピトン(小ピトン)の方は難易度が高く、上級者向けで、熟練したガイドのサポートがないと登ることができません。しかし、プチ・ピトンのガイド詰所は、港町スフレから徒歩圏内なのですが、グロ・ピトンの方はタクシーがないと、ガイド詰め所まで辿り着くことができません。そこで、根っから冒険好きの私は、プチ・ピトン・サミットを目指す決心を固めて、日々のトレーニングに励むことにしたのです。


隊員仲間に、プチ・ピトン・サミット制覇の経験者がいましたので、事前に話を聞きました。水分は2リットル必要、手袋は必須、脚の力だけでなく腕の力も必要など、非常に的を射たアドバイスをしてくれました。そして、なんと「一緒に登るよ!」と若い隊員が申し出てくれるではありませんか。私は65歳の隊員G(爺)で、年齢的に筋力の衰えが心配されましたので、とても心強い思いがしました。やはり、持つべきものは友ですね。ちなみに、私の周囲のローカル・ルシアンたちは、「ピトンは登る山じゃない。眺める山だよ。」と口を揃えて言いますので、経験談を聞くことはできませんでした。
ルーティンとして、毎朝の筋力トレーニング(スクワット・カーフレイズ・プッシュアップ)や週末の7kmジョギングは既に行っていましたので、予備トレッキングとして、バックパックを背負い、熱帯雨林やバード・サンクチュアリなどの自然歩道を歩き回りました。当日は、トレーニングの効果があったのか、暑さに負担感はなく、汗をかいても熱が体内にとどまるようなことはありませんでした。心配された筋肉も、上りが少しハイペースでしたので疲労感はありましたが、クォーター毎の水分補給で、なんとかある程度、回復させることができました。もちろん、下山後は、全てを使い切りましたので、疲労困憊状態でしたよ。誤解がありませんように。


Petit Piton の頂上での風景は、まさに息を呑むという表現がぴったりです。私は、これまで数々のサミットに立ってきましたが、その中でも「記憶に残る、最も美しい景色」なのではないか、と考えています。海外での初登山であったので、高揚感に包まれたのかもしれません。天気予報とにらめっこをしながらアタックの日を決めたので、晴天に恵まれたのかもしれません。登山道での苦しさを乗り越えて臨むことができた光景なので、達成感が後押ししてくれているのかもしれません。しかし、最も大きな要因は、頂上から見下ろすグロ・ピトンの麗しさにある、と思います。すなわち、もし仮に、グロ・ピトンなければ、これまでにも同じような風景に出会っているかもしれない、という程度の印象に留まってしまうのではないでしょうか。双子の彼女がそこに佇んでいるからこそ、特別感があり絶景となっている、と私は思うのです。さあ、そうなれば、次に目指すはグロ・ピトン・サミットです。「頂上に立つと、どんな風景が広がっているでしょうか?」おそらくは、双子のプチ・ピトンが、特別感と存在感を解き放っていることでしょう。もしかすると、双子の姉妹で美しさを競い合っているかもしれませんね。
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