JICA海外協力隊の世界日記

セントルシア便り

隊員Gのセントルシア日記_31 〜Saint Lucia Parrot〜

 第11話でお話ししたように、セントルシアの国鳥はセントルシア・パロットという固有種で、国章にも描かれています。不幸にも絶滅危惧種に指定されたのですが、最近では保護の取り組みが進み、個体数が300くらいまで回復しているようです。今回は、そのセントルシア・パロットに会いたい、という胸を焦がす思いに導かれるようにして、森林局が管理するMilletのサンクチュアリを訪れました。保護区なのですが、Nature Trail(自然遊歩道)があり、ガイドつきで2時間ほどの散策を楽しむことができるのです。

 ガイドの待機所である受付で話を聞くと、この日も早朝7時頃には、事務所近くをセントルシア・パロットが飛び回っていた、とのことでした。私が到着したのは、もう午前9時を過ぎていましたので、「まだパロットを見ることができますか?」と尋ねると、「可能性はあるよ!」と期待の膨らむ回答が返ってくるではありませんか。私は、手短に登録を済ませて、ガイドのデビッドソンとともに、小さな冒険に出かけました。マン・ツー・マンの2時間ガイドが25ECD(約1500円)の破格でしたが、「私は、この森を愛している。」と語る、彼のガイドは秀逸でした。結果的に、残念ながらセントルシア・パロットの姿を見ることはできませんでしたが、「あの鳴き声が、パロットだよ。」と彼が教えてくれたのです。おかげで、セントルシア・パロットの住む森で、豊かな臨場感を味わうことができました。

 ガイドのデビッドソンは、他にもいろんなことを教えてくれました。私が以前、熱帯雨林を歩いたときに驚いた木生シダについては、「こんなに大きくなるシダは、日本にあるかい?」と問いかけながら、Tree Fernと呼ばれていることを教えてくれました。また、熱帯雨林らしい光景である気根についても、私が興味を示すと、足を止めて丁寧に説明してくれました。そして、木炭になるマンゴーの木のこと。香料シナモンになる木のこと。香の材料になる木のこと。バスケットを作る材料になる木のこと。高級家具になるマホガニーの木のこと。自らの幹を守るトゲヤシのこと。Clay Pot と呼ばれる炭火調理具を作るための赤土のこと。セントルシア・パロットについては、鳴き声を耳にすることしかできませんでしたが、彼のおかげで、毒をもつヘビ、巨大なサワガニ、そして蟻塚に住む無数のシロアリたちに出会うことができました。おそらく自分一人で歩いていたら、全く気づかない存在であったことでしょう。

 ガイドのデビッドソンは、単に花や樹木や生物のなまえのみに留まらず、この森でどんなことが起こっているのかを、詳しく説明してくれました。そして、何よりも、彼の森に対する愛着や、自然を大切にする心が、ハイカーである私へと自然に伝わってくるのです。それは、スキルというよりは、人柄なのかもしれませんね。素朴ではあるのですが、とても素敵な人でした。

 トレイルの途中に見晴らしの良い峠があり、セントルシア国民18万人の水甕となっているジョン・コンプトン・ダムと、最高峰のギミー山(935.4m)を左右に見渡すことができました。最高峰ということで、裾野が広く、沢の水量が豊富なので、ここにダムを建設したのでしょう。その因果関係を瞬時に確かめることのできる峠が、Nature Trailの途中にあるとは。私がいつも蛇口をひねると出てくるWASCO(水道会社)ウォーターは、このダムから、そしてより大元を辿れば、この山のどこかの沢からやってくるのです。まるで教科書を見るような光景が、そこに広がっていました。

 私にとって、ミクロの自然と、マクロの自然をともに満喫することのできる清々しい旅となったことを、縁を取りもってくれたセントルシア・パロットに感謝したいと思います。See You Next!

SHARE

最新記事一覧

JICA海外協力隊サイト関連コンテンツ

  • 協力隊が挑む世界の課題

    隊員の現地での活動をご紹介します

  • JICA 海外協力隊の人とシゴト

    現地の活動・帰国後のキャリアをご紹介します

  • 世界へはばたけ!マンガで知る青年海外協力隊

    マンガで隊員の活動をご紹介します

TOPへ