2025/08/23 Sat
文化 自然
隊員Gのセントルシア日記_32 〜A Midsummer Night's Dream 〜


セントルシアはウィンドワード諸島に属する小さな島国で、東海岸は大西洋、西海岸はカリブ海に面しています。私の住む首都カストリーズは、島の北西部に位置していますので、カリブ海に沈む夕陽を眺めるには絶好の場所となっています。この日は公共交通機関のミニバスで20分ほど移動して、ロドニー湾でのサンセットを味わう機会に恵まれました。その日の日没時刻は午後6時30分頃でしたので、13時間の時差がある日本は翌日の午前7時30分頃ということになります。カリブの海に沈む夕陽を、日本の皆さんは朝日として見ていることを想像すると、とても感慨深く、私たちの地球が自転する球体である事実を思い知ることができます。また、夕陽は、大気の層を長く通過して私たちに届きますので、波長の短い成分は散乱し、波長の長い成分だけが残って橙っぽく見えます。自然現象の科学を理解するだけでなく、その美を讃えることのできるマインドも大切にしたいものですね。STEM教育(Science・Technology・Engineering・Mathematics)の重要性が叫ばれた際に、Art(芸術)を追加してSTEAM教育と修正する動きがあったことは、古くて新しい記憶です。日常生活の中で、自然美を愛でておられますか。


実は、リスク管理上の観点から、海外協力隊員は夜間外出を自粛するように求められています。この日は、ロドニー湾の漁港に宿をとっていたので、じっくりと腰を据えてサンセットを愉しむことができたのです。もちろん、旅の本来の目的は他にありました。この漁港のまちでは、毎週金曜日の夜に「フライデー・ナイト」と呼ばれるストリート・パーティーが、半世紀以上前から伝統的に行われており、その雰囲気を一度味わってみたかったのです。特に、野外バーベキューによって調理されるコンク(巻貝)のグリル料理が有名でしたので、いの一番に美味を味わって、舌鼓を打ちました。その後、屋台で手に入れたラム・パンチ(ラム酒のフルーツ・ジュース割り)を飲みながら、大音量の音楽が流れるストリート・パーティーに繰り出すと、なんと65歳の隊員G(爺)も、おのずと体がリズムを刻み出すではありませんか。外国人観光客とローカル・ルシアン達も、同じ場所で、同じときをシェアしながら、同じように楽しんでいます。パーティーに興じるまち全体の雰囲気は、とても素敵で心地よいものでした。そして、まるで魔法にかかったような夜が、少しずつ更けていくのでした。


昼間は、近くのピジョン・アイランド周辺の海で、マリン・アクティビティーとして、二人乗りのカヤッキングを楽しみました。海上で感じる潮風は、陸上とは異なり、格別の清々しさがあります。また、角度を変えて見るピジョン・アイランドも、普段とは明らかに違う表情を見せてくれます。やはり、「非日常を味わいたい」と思えば、とりあえず陸地を離れて海に出てみる、というのも一つの選択肢のようですね。ところが、ピジョン・アイランド近くの海域は潮の流れが速く、いくらオールを漕いでも前に進めず、同じような場所に留まってしまうという状況に陥ってしまいました。「非日常を味わいたい」などと、悠長なことは、もう言っておられません。危うくストレッチ・ゾーンからはみ出してしまいそうになったのですが、なんとか難を逃れて、無事に帰還することができました。
この日に体験した、自然界の息を呑むような美しさと、人間を圧倒する力強さに対して、畏怖の念を抱かざるを得ません。民族によっては自然が信仰の対象となってきたことも、至極納得のいくところです。人々は、自分達の力ではどうにもならない自然現象を、神々の業と敬い、尊い祈りを捧げてきたのでしょうね。旅の途中、真夏の夜に、素敵な夢を見ることができそうです。
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