2025/10/05 Sun
自然
隊員Gのセントルシア日記_40 〜Treasure Island〜


吹奏楽の世界に『宝島』という名曲があることをご存知でしょうか。フュージョンだった原曲が吹奏楽用にアレンジされたのですが、親しみやすいメロディーと軽快なリズムが人気を博し、今や吹奏楽の定番と呼ばれるようになっています。私が勤務していた私立学校の吹奏楽部も、定期演奏会のアンコール曲として度々演奏し、会場を盛り上げてくれました。第2話でもお話ししたように、私は島国セントルシアを「宝島」だと想いながら、日々の奉仕活動に取り組んでいます。もちろん金銀財宝が隠されているわけではありません。国章に刻まれたモットー「The Land・The People・The Light」にあるように、国民が大切にし、誇りを感じる有形、無形の宝が、世に溢れていると想うのです。そして、かく言う私は、吹奏楽の名曲『宝島』を密かに任期中のテーマソングにしています。個人的なSNSの情報発信においてBGMとするだけでなく、単調になりがちな日常生活の中で折に触れて視聴し、リフレッシュして、初心を忘れないようにしています。パーカッションがラテン風のリズムを刻みますが、吹奏楽の厚みのあるサウンドが、現地の人々に受け入れられるかどうかは不明です。しかし、いつの日か、身近なルシアンには至宝の名曲『宝島』を紹介したいと考えています。
私が「宝島」をイメージする所以となっているセントルシアの宝のうち、今回は特に素敵な3つをご紹介したいと思います。まずは、セントルシア国民の宝であるに留まらず、世界中の人々にとっても宝となっている世界遺産ピトン・マネジメント・エリアです。中でも、私にとって最も思い入れがあるのは、プチ・ピトンの頂上から見渡すグロ・ピトンの麗しい山姿です。常設ロープなしでは登ることができないような、険しい山道を何とか踏破しました。そうして辿り着いた頂上だけに、その景色はまさに格別でした。火山活動の隆起が、爆発せずに途中で止まり、ともに美しさを競う姿は、まさに奇跡と呼ばざるを得ない宝物です。そして、その一方の奇跡の頂きに立ち、他方の奇跡の全体像を見渡す作法は、この上のない贅沢な宝物の味わい方なのです。


続いての宝は、カリブ海に沈む夕日です。海にクルーザーを浮かべてサンセットのひと時を楽しむのがカリブっぽいと思われるかもしれません。ところが、ビーチでさざなみと共に味わう日没もまた一興なのです。国章に刻まれるモットーの一つに「The Light」が選ばれています。これは、国名になっているSt. Lucia(聖女ルチア)が、ラテン語のLux(光)に由来する為であると言われています。ルシアンにとっては、降り注ぐ光もまた宝物なのです。北緯14度のセントルシアでは、貿易風が吹いており、雲は絶えることなく東から西へと流れていきます。従って、天気も東から西へと移り変わってゆきます。日本では、逆に偏西風の影響で、天気は西から東へと移り変わってゆきます。即ち、夕焼けが未来の天気を物語ってくれるようなところもあります。これに対して、セントルシアでは、天気が移り変わってゆく方向に、太陽が沈んでいきますので、サンセットに過去の天気を見ることはあったとしても、未来を見ることはないのです。より黄昏感が募りますが、それだけ宝物が輝きを増しているのかもしれませんね。


そして、最後の宝はToraille Waterfallです。熱帯雨林ジャングルに突如現れた滝は、宝探しをしている海賊たちに、宝物発見にも匹敵するほどの狂気の喜びを与えたことでしょう。写真しかありませんが、皆さんにも宝島感が伝われば幸いです。Torailleの語源には、諸説が考えられるようですが、私が気に入っているのは「銃の一斉射撃」です。私自身も滝に打たれてみたのですが、50フィートの高さから落ちてくる水の勢いは凄まじく、まさに「銃の一斉射撃」を受けているような感覚に陥りました。休日に複数の隊員と共に訪れたのですが、滝に打たれる彼らの姿を見ていると、どの隊員についても漏れなく、子ども時代を容易にイメージすることができました。もちろん、偉そうなことを言うつもりは全くありません、私自身も見事に童心に立ち戻れたのですから。人は幾つになっても、とても無垢な心で、自然の豊かな恵みに抱かれることができるようです。誰もが皆、それぞれ心の中に、美しく輝く宝物をもっているのでしょうね。
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