JICA海外協力隊の世界日記

セントルシア便り

隊員Gのセントルシア日記 _39 〜Pea Family〜

 第20話でお話ししたように、セントルシアの至る所に「鳳凰木」を見ることができます。初夏には、「火の鳥」を思わせるような赤橙色の花を、力強い幹にたくさんつけて、私たちを魅了しました。そして、残暑の今は、すっかり緑の葉が生い茂り、人々に避暑の清々しい場を提供してくれています。私がセントルシアでの生活を始めた1月は、実りの季節でしたが、40cm〜50cm程もある大きなサヤの中で、小さなマメが隠れんぼしているような状態であったと記憶しています。一年の気候の移り変わりの中で植物を観察できるのは、長期滞在の魅力の一つです。日々目にする樹木に対して、愛着が湧き出してきたとしても、全く不思議なことではありません。私が最も好きなのは、英語名のFlamboyant Treeが意味するFlame(炎)が見事に体現されて、「火の鳥」となった満開の「鳳凰木」です。それはもう、今にも飛び立とうとしているかのような佇まいなのですから、迫力が違います。実は、「鳳凰木」はマメ科に属しますので、優しく柔らかい葉が繁ります。炎をイメージさせる花や、太く曲がりくねった幹とのアンバランスも、私にとっては愛すべき個性のひとつです。

 配属先のキャンパスでは、大きな「レイン・ツリー」が象徴的な存在になっています。日本では、グループ企業のコマーシャルに使われましたので、「この木なんの木」として馴染みのある方も多いことでしょう。日の出とともに葉を開き、午後には葉を閉じる就眠運動をするのですが、雨が降っても葉を閉じることから、「レイン・ツリー」の名前がついているそうです。学生や教員にとって、大好きな憩いの場を提供してくれる大木なのですが、実はマメ科です。「セントルシアには、マメ科の大木が多いのではないか」と気づいた私は、早速ミニ探究に取り掛かることにしました。すると、とても興味深い因果関係を見つけることができたのです。セントルシアは、火山地質である上、降水量が多く、植物の生育に必要な窒素が土壌から流れ出してしまう可能性があります。ところが、根粒菌という役者が、マメ科植物の根を宿主として共生しているのです。この根粒菌が、窒素分子をアンモニアに固定して、植物細胞に供給しているので、マメ科は窒素不足にならないのです。そして、生命が繁茂する熱帯では、生存競争が激しく、高く大きく成長しなければ、日光の恩恵を受けることができなかったという訳です。「セントルシアには、マメ科の大木が多いのではないか」という気づきに端を発して、たくさんの学びを得ることができました。やはり「知るは楽しみなり」ですね。

 この画像は、私の配属先のカレッジにおいて、校舎に迫っており危険性がある、という理由で樹幹を一部切り落とされた「鳳凰木」です。切断された当初は、とても心を痛めました。ところが、新しいアカデミック・イヤー2025/2026になると、新入生を迎える時期に合わせるようにして、切断面からたくさんの若葉が顔を見せるではありませんか。地中における根粒菌の窒素固定のGood Jobを想像しながら、思わずほくそ笑んでしまいました。新しい生命の誕生は、やはり無条件に祝福したくなりますね。

 日本では、マメ科と言えば、大豆や落花生などの草木を、まず思い浮かべます。もちろん、ネムノキなど、マメ科の高木もありますが、熱帯の大木に比べると、優しくおとなしい印象を切り離すことはできません。温帯出身の私にとって、今回の記事執筆は、熱帯における生命繁茂の凄まじさを実感することのできる、とても良い機会となりました。英語には「Learning Journey」という素敵な表現があり、学びが旅によく例えられます。これからも、JICA海外協力隊の世界日記誌上での「Learning Journey」を、読者の皆さんと共に楽しんで参りたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

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