JICA海外協力隊の世界日記

セントルシア便り

隊員Gのセントルシア日記_43 〜Moon Light Serenade〜

 紫式部は、源氏物語の中で、月を眺めながら「あの人も同じ月を見ているだろうか。」と、遠く離れた人のことを想う場面を、幾度となく描いています。もちろん、令和の時代になっても、平安の世と同じく、相手の気持ちに想いを馳せて、月夜の風情を味わうことは可能でしょう。(LineやWhatsAppで、いきなり「何してる?」と相手に尋ねる方法もありますが、ちょっと無粋ですよね。)ところが、残念ながらセントルシアは、日本から見ると地球の裏側に位置していますので、「あの人も同じ月を見ている」状況は少し考えにくいのではないでしょうか。今回の日記では、この「日本とセントルシアでは、同じ月を同時に眺めることは出来ない」という直感の真偽を、検証してみたいと思います。
 まず、手始めに「同じ太陽を同時に眺めることが出来るかどうか」を実験で確かめてみました。上の写真は、9月24日午後5時(セントルシア時間)に首都カストリーズで、西の空に沈む夕陽を、私が撮影したものです。カリブのサンセットは、いつ、どこを切り取っても、息を呑むような美しさがありますね。そして、下の写真は9月25日午前6時(日本時間)に群馬県で、東の空に昇った朝日を、(私が依頼して)息子が撮影したものです。久しぶりに拝む祖国の日の出は、やはり郷愁を誘います。日本とセントルシアの時差は13時間ですので、同時刻の撮影です。私と息子は、「同じ太陽を同時に眺める」ことに成功したのです。

 この事実を、モデル図を使って説明してみましょう。西経60度のセントルシアが、日の入りの位置にある場合を考えます。これに対して、東経135度の日本は、日の出を過ぎた位置になります。日本は、ちょうど裏側ではなく、少しずれているのがお分かり頂けるでしょうか。(東経120度付近のフィリピンのマニラや、中国の杭州が、セントルシアのちょうど裏側にある都市ということになります。)中心角が180度ではなく、15度だけ多く(反対側に注目すれば、15度だけ少なく)なっています。時差も12時間ではなく、1時間だけ長く(日付を気にしなければ、1時間だけ短く)なっているのです。実は、このたった15度、1時間のずれが、実は大きく、「同時観測」の可能性を広げてくれているのです。

 それでは、「同じ月を同時に眺めることが出来るかどうか」について、同じくモデル図で考えてみましょう。第23話のときと同じ前提条件ですが、満月の夜に限らせて頂きます。なぜなら、満月は、地球を挟んで、太陽の反対側に位置しているので、月の出から月の入まで、ほぼ一晩中観ることが可能だからです。太陽に関する考察とは逆に、西経60度のセントルシアが、日の出(月の入)の位置にある場合を考えます。これに対して、東経135度の日本は、日の入(月の出)を過ぎたところに位置することになります。セントルシアにおいて、日の出前に、西の空が明るくなり過ぎて、月が見えにくくなるかもしれません。また、日本において、日の入前後に、東の空に雲が発生して、月の出を中々拝めないかもしれません。その他、さまざまな自然条件に翻弄されることがあるかもしれませんが、モデル図上、理論的には、セントルシアの日の出前の月と、日本の日の入り直後の月を、同時に眺めることは可能なのです。ただし、月齢15(満月)近くの月に限ります。
 早朝と夕方に眺める月ですので、源氏物語のようなロマンチックな気分にはなれないかもしれません。それでも、互いに地球の反対側に位置するセントルシアと日本とで、同じものを同時に眺めることが出来るとは。宇宙空間のスケールの大きさを、あらためて思い知ります。次の満月が待ち遠しくて仕方ありません。

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