JICA海外協力隊の世界日記

セントルシア便り

隊員Gのセントルシア日記_52 〜Gros Piton Summit〜

 セントルシア島は、ドミニカ、マルティニーク、セントビンセント、グレナダなどの島々とともにWindward(風上)諸島に属しています。大航海時代に、ヨーロッパ人は貿易風を利用してカリブを目指しましたが、最初に到着したのが風上にあるこれらの島々であったので、Windwardの名前がつけられたとのことです。もちろん、風下の島々はLeeward(風下)諸島と名づけられています。さて、このWindward諸島は、大西洋プレートがカリブプレートの下に沈み込むあたりに位置しており、活発な火山活動によって形成されたVolcanic Arc(火山弧)です。そして、セントルシアに限って言えば、大きく三度の火山活動によって出来上がった島であると言われています。まず、約200〜100万年前に、北部カストリーズ周辺の火山地形が出来上がりました。今は長い年月をかけて、侵食が進み、なだらかな丘陵地になっています。私はFortuneの丘で数学を教え、Vigieの丘でジョギングを楽しみ、Tapionの丘でピアノの練習をしており、これらの丘陵地で育まれる文化にとても愛着があります。どの丘も文句なしにカリブ海の眺めが素晴らしいのです。続いて、約100〜30万年前に中央部の火山地質が形成されます。山々が深く連なり、熱帯雨林のトレッキングを楽しむことができます。また、国民の水瓶とも言えるジョン・コンプトン・ダムには、この地域の水系から集まった水資源が蓄えられています。そして、約30万年〜数千年前に、南西部のスフレ火山帯などが出来上がりました。最後の噴火は約2000年前ですが、今も地熱活動は活発で、泥温泉、地獄谷、地熱で温められた滝など、観光資源が豊富です。しかし、隣のセントビンセント島では、2021年に強い爆発的噴火があり、火山災害に見舞われました。やはり、平穏な中でも、自然に対する畏怖の気持ちは、もち続けなければなりませんね。

 もちろん、スフレ火山帯のクライマックスは、急峻な双子の溶岩ドーム、Gros Piton とPetit Piton です。スフレ・マネジメント・エリアとして、世界遺産に登録されています。島北部のなだらかな丘陵地形と比べるとき、まさに200万年という気の遠くなるような時の流れを感じざるを得ないのです。Petit Piton のサミットを目指した7月29日のトレッキングについては、第29話でご紹介しましたので、今回は、Gros Pitonのサミットを目指した12月13日の冒険の旅について、綴りたいと思います。頂上への山道GPNT(Gros Piton Nature Trail) は、NPO法人であるSRDF(Soufriere Regional Development Foundation)によって管理・運営されています。10名のJICA隊員と3名の台湾ICDFボランティア、合計13名のグループでしたので、5名のGPNTガイドがついてくれることになりました。約30分強ごとに第1クォーター、第2クォーター、第3クォーターで小休止をとり、約2時間30分で頂上に辿り着きました。特に、第2クォーター(中間地点)では、北側に眺望が開け、Petit Piton の麗しい山姿に、大いに励まされて、トレッキングを続けることができました。Petit Piton登山のときと同じく、やはり、世界遺産の山肌に立って、もうひとつの世界遺産を味わう作法には、格別の感慨があります。そして、待望のサミットでは、南側に眺望が開け、普段は鳥達が独り占めにしている景色を、思い存分堪能することができました。飛行機然り、ヘリコプター然り、空飛ぶクルマ然り。サミットに立つと、人々がBird’s Eye View を獲得しようと試行錯誤を繰り返した熱い想いに、痛いほど共感することができます。こんなにスケールが大きく素敵な視界を自由自在に獲得することができるのですから。図らずも「来世は、鳥でもいいかな?」と空想を逞しくしてしまいます。

 アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコにツイン・ピークスと呼ばれる双子の丘があります。標高276mほどの小高い丘ではありますが、市街地だけでなく、サンフランシスコ湾やゴールデンゲートブリッジまでを見渡すことのできる人気の観光スポットになっています。翻って、現在のGros Pitonは約798m、Petit Pitonは 約743m、更に200万年ほど経過すれば、侵食が進み、首都カストリーズ周辺の様ななだらかな丘陵地形になっているのでしょうか。もはや、人智の及ぶところではありませんが、200万年後の子孫達が2つのPitonをツイン・ピークスと呼び、丘の上で未来の多様な文化が育まれているとすれば、それはそれでまた素敵な景観なのかもしれませんね。

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